第二章14 突きつけられた真実
花火の打ち上げが終わり、三人がそれぞれの席に戻ろうとしたその時、由心がふと重要なことに気づいた。
「そういえば、これから際允さんの契約を確認するんだすよね? 私たちは席を外した方がいいのかな?」
「僕は構わないけど」
際允にはまだ、それらが自分自身の契約であるという実感がほとんどない。今の彼にとって、前世が勝手に魂に刻み込み、今世の自分へと送りつけてきた遺物のようなものだ。
輝絡も同意するように深く頷いた。
「ああ。別に由心たちに知られて困るような内容でもないと思う」
――え?
その言葉が発せられた瞬間、一同の呆然とした視線が再び輝絡に集中する。
それはまるで、彼が今この瞬間に際允が抱えている契約のすべてを、掌の上にあるかのように把握しているような言い草だったからだ。
他の三人とは違い、際允は輝絡が「第一の世界」での犯人であり、自分の契約相手であることを知っている。それでも、今の言葉には拭い去れない違和感が込み上げてきた。
まさか、輝絡は自分と蔚柳の養子縁組契約や、もう一つの謎の契約のことまで知っているのか。その存在・内容・契約相手・経緯、そのすべてを知っているというのか。
――いや、まさか。そんなのあり得ないだろ?
輝絡は自分の発言に何の問題もないと言わんばかりに、不思議そうに瞬きをしていた。その様子を見て、墨然は深く眉を寄せ、全員の疑問を代弁するように聞く。
「もしかして先輩がどんな契約を持ってるか知ってるのか?」
輝絡は考えるように少し首を傾げると、視線を際允へと向け、確認するように言った。
「際允には今、三つの契約があるはずだよね? 現任の『火の帶契者』との養子縁組契約。それと、俺との契約もその一つ」
「は?」
「えっ?」
墨然は呆気に取られ、妲依娜と由心は硬直した。輝絡はいつもような平然とした顔をしており、際允は石化したように全身を強張らせた。
強敵を前にした生物の本能が呼び覚まされたかのように、椅子から飛び起きて逃げ出したい衝動を、全神経を注いでどうにか抑え込んだ。
際允の反応だけで、輝絡の言葉が図星であることを察した墨然。信じられないといった面持ちで輝絡を睨む。
「どうしてそれを知ってるんだ?」
「際允の前世を知っているからな。」
輝絡は至極当たり前のように言った。
「それに、現任の帶契者が相続人を決めた時、教会からも通知があった。際允・ランニオンという名前なら最初から知っていたよ」
「あ、まあ、そう言われればそうね」
妲依娜と由心はその説明に納得した。
向かい側の墨然はまだ半信半疑といった様子だった。際允の胸中にも依然として拭えない違和感が渦巻いていた。
しかし、輝絡の言葉に即座に反論できるほどの綻びも見つからず、それ以上追及することはしなかった。
「それで、際允くん。やっぱり私に『契約の眼』を使わせる?」
妲依娜が親切に際允の意思を確認した。
「それは……」
元々の目的は、輝絡との契約を通じて正体を特定し居場所を調べることでだった。それは今この場で達成されてしまった。
ならば、今本当に重要なのは、輝絡を見つけた後の「次のステップ」だ。すなわち、輝絡に自分を殺さないよう説得すること。
なのに、再び輝絡と対面してから三十分以上が経過したが、依然として案は浮かばず、彼がなぜ自分を殺そうとするのかさえ分からない。
今の自分にできるのは、引き続き可能な限り情報を集めることだ。当然、そこには二人を結ぶ契約の内容も含まれる。
「せめて、輝絡との契約内容だけでも知っておきたいです」
その瞬間、墨然の顔から一気に血の気が引く。
そうだ。際允は思い出した。契約相手の一人が明日自分を殺す犯人であるという事実を、自分は墨然にだけ話していたのだ。
今の際允の言葉を聞くまでは、墨然もまだ一縷の望みを抱いていたのかもしれない。最後の謎の契約もあるから、その相手こそが犯人であってほしい、と。
しかしこの刹那、際允が一番最初に輝絡との契約に確認を求めたことは、墨然の目の前に「唯一の正解」を突きつけたに等しかった。
大切な家族が、別の世界で際允を殺した犯人なのだ。
最初の世界のあの六年間という、浅くはないが深くもない時間を共に過ごしたからこそ、際允は墨然を信じ、このことを打ち明けた。
だが、もしもっと早く墨然と輝絡の関係を知っていたなら、話すことはなかっただろうとも思う。
自分の重んじる家族の闇を知ることは、決して気分のいいことではない。そう考えた際允は、墨然に対して申し訳なさを感じずにはいられなかった。




