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第二章11 死神と一緒に夜食☆タイム

――墨然すみしかくんは、最初から輝絡てつなを知っていた。


 激しい衝撃が際允あいゆるの脳内を襲ってくる。その事実に気づき、長い間思考を取り戻すことができなかった。


 同時に輝絡は、泰然自若とした態度でスーツのポケットから黒縁眼鏡を取り出してかけ、際允が見慣れたあの黒いコートを脱いで玄関の横に掛けた。

 食堂にいる四人の疑念に満ちた注視を浴びながらも、まるで気づいていないか、あるいは気にも留めていないかのように。


 輝絡は黙って食堂まで歩いてくると、夜食らしきものが入った袋を妲依娜ダイナの隣に置く。

 それから一言も発さぬまま対角線上に座る際允をじっと見つめた。自ら説明するつもりは毛頭ない様子。


 どうやら輝絡には、今すぐ際允に手を出すつもりはないようだ。際允としても、三人の同居人の前で、特にそのうち二人が未成年である状況で彼が凶行に及ぶことはないだろうと考えた。

 今はまだ、輝絡が明日自分を殺す犯人であることを知らないふりをして、静観しながら情報を集めるのが正解だろう。


 際允は『思の元霊』である由心ゆうしをチラリと見たが、彼女もまた驚きと困惑の表情で輝絡を見つめていた。

 今の考えを由心に聞かれていないことを確認して視線を戻すと、正面の墨然がわずかに目を細めて自分を凝視していることに気づく。

 際允の反応を気にしているようだったが、目が合うと墨然は視線を逸らし、結局何も口にすることはなかった。


 ここでようやく妲依娜が耐えきれず、先陣を切って問いかけた。


「輝絡、際允くんのことを知ってたなの?」


 その問いを聞くと、輝絡はひどく真剣な表情で数秒間考え込み、それから答える。


「知らない」

「……」


 一同に沈黙が流れる。


 キッチンから水の入ったグラスを持って食堂に戻ると、輝絡は妲依娜の隣に座って数口飲んだ。一連の動作は優雅でゆったりとしており、自分の言動がどれほど周囲を困惑させているかという自覚は一切ないようだった。


「輝絡は際允さんのことは知らないけど、時の元霊――際允さんの前世のことは知ってるってこと?」


 一番早く状況を理解したのはやはり、思の元霊である由心だった。


「うん」

「際允くんも、輝絡のことは知らないんですか?」


 輝絡がこくりと頷いたら、妲依娜が際允を向く。


 際允にとっては、輝絡について知っていることといえば、第一の世界で明日の夜、寮の玄関先で接触した数分間のことだけだ。

 青年が本当に「輝絡」という名前であることすら今知ったばかりで、とても「知っている」とは言いづらい。

 そのため、際允は妲依娜に対して首を横に振った。


「じゃあ、先に紹介しましょう」


 輝絡を指差しながら、妲依娜は際允に言った。


「輝絡。火の元霊。私たち四人で一緒にこの家で暮らしてるんですよ」


……。

――火の元霊?

――輝絡は元霊である上、火の国に能力を貸し出し、神のごとく崇められている、あの「火の元霊」だと?


 その事実を知り、いかに冷静な際允でも、こればかりは隠しきれないほどの驚愕を露わにした。


 第一の世界で「際允・ランニオン殺人事件」の犯人だった輝絡が火の元霊。

 それなら、あそこで『帶契者だいけいしゃ』となった止湮としずも当然、「輝絡」が火の元霊の名であることを知っていたはずではないか?


――「名前は輝絡? 二十代前後で、金髪、緑色の目の男? ……知らないな。聞いたことがない」


 あの時の止湮は嘘をついたのだろうか。それとも、守秘契約のせいで際允に教えることができなかっただけなのだろうか。

 止湮がこれまでの六年間、輝絡の行方を懸命に探していたのは、火の元霊が火の教会と契約管理協会によって隠蔽されており、正体を知っていても居場所がわからなかったからだろうか。


 それに、輝絡が火の元霊であるならば、あらゆる能力の中でも最高クラスの殺傷力を誇る「火」を操れる。にもかかわらず、第一の世界で明日の夜、際允を殺す際に凶器など使ったのだ。

 その理由はなんだろう。

 すでに答えを知る術はないことだと分かっていても、際允はどうしても気になってしまう。


 だが、今最も重要なのは、明日輝絡に殺される運命をどう回避するかだ。

 ようやく輝絡の正体と潜伏先を突き止めた。未来を変える計画は、最初からこれほどまでに大きな一歩を踏み出したとは。


 しかし、際允はもう一つの事実に直面した。明日の死という運命を、武力で強引に阻止することは不可能だ、ということに。

 相手とは対照的に、自分の『時の能力』には殺傷能力など皆無なのだから。

 説得するしかないのか。無視できるほど低い自分の社交能力でそんなことが可能だとは、際允には到底思えなかった。


 際允の驚いた反応を意外に思うこともなく、妲依娜は輝絡に向き直って紹介し続ける。


「輝絡、こちらは時の元霊・際允くん。墨然の先輩よ」

「こんにちは、際允くん」


 輝絡は礼儀正しく際允に会釈した。


 目の前の青年が明日自分を殺す犯人だと知っていても、今の輝絡はまだ何もしていない。そう自分に聞かせてようやく理性を保った際允は、礼儀としてぎこちなく挨拶を返した。


「こんにちは……。際允でいいです」

「墨然から聞いたよ。際允の目的は、ある契約の相手を早急に確認することで、日付が変わって成人したらすぐに妲依娜に契約を調べてもらうために、今夜は泊まることにしたそうだ。そうかね?」


 輝絡は際允の明らかに不自然な態度を気に留める風もなく、穏やかな表情で尋ねた。


 輝絡は一体、いつから際允――契約相手の転生者――を殺そうと考え始めたのだろうか。

 もしその意図がすでにあるのなら、その殺害目標が「契約相手を探すために」と言いながら、自ら目の前に現れたことを奇妙に思うのだろう。計画が漏れたのではないかと疑うまで考えられる。

 ならば、今の言葉には試探さぐりの意味が含まれているに違いない。


 だが際允がどれほど観察しても、輝絡の表情にはそのような心理の痕跡は微塵もなかった。まるで本当に、ただの世間話として尋ねているかのようだった。

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