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幕間・マーロックとアイゼン1




 ニコラスとクアルが森を彷徨っているころ、ゲール冒険者ギルドの第五会議室ではギルドに呼び出された糸目の商人アイゼンと冒険者ギルド職員のマーロックが机を挟んで対峙していた。


「ニコラス君の情報、ですか。それが私を呼び出した理由ですか?」


 糸目を少し開いてマーロックの表情を見るアイゼン。マーロックの表情には色が無く心根が読めない。


「あぁ、そうだ。ニコラスの情報が欲しい。どんな情報でも構わない。こちらが知らない情報があれば買い取る。それだけだ」


 アイゼンとマーロックが互いの眼を見つめ沈黙が流れる。二人の表情は微動だにせず時間だけが過ぎていく。


 しばらくして、先に折れたのはマーロックだった。


 マーロックは睨むのを止めて懐から手のひら大の袋を取り出し、その中身を机にぶちまける。机に広げられたのは百枚はあろう金貨だった。


「情報次第では全額渡そう」

「わかりました。そうですねぇ、ではマーロックさんでしたっけ? マーロックさんはニコラス君のことをどこまで知っていますか? そちらの知っているような情報を渡してもお金にならなそうですし先に教えていただきたいのですが」


 アイゼンの口端に商人らしい笑みが生まれる。それにマーロックは眉を引くつかせたが、すぐに無機質な顔へと戻した。


「ニコラス・ヴァンデリン・ドラグスレイヤー。アーヴェンジェフ公国北方辺境伯ユルグ・ドラグスレイヤーの第三子。生命属性の特殊な魔法を操る現在十歳の魔法戦士……それだけだ」

「ほぉ、よく調べていますね」

「馬鹿にするな。ニコラスが冒険者登録をしてからずっと調べているが、それだけしか出てこない。俺たち冒険者ギルド職員が調べてそれしかわからないんだ」


 悔しそうに歯ぎしりするマーロックを見て目を細めるアイゼン。


「マーロックさんが私に何を期待しているのか知りませんが、私もニコラス君の情報はあなたと同じ程度しか持っていません。私が情報を持っていないという情報しかありませんよ」


 そういうとアイゼンは金貨を一枚だけ取り扉へ向けて歩き出した。


 アイゼンが扉に手をかけたところでマーロックがアイゼンの肩を掴む。


「リンザスのミザリナ商店、あそこの店主は毎朝町の外に出て薬草を取りに行くらしいな。近くだとしても魔物が出ることはあるだろう、よく今まで無事だったもんだ」


 アイゼンの動きが止まる。マーロックが言葉を続ける。


「それに跡継ぎの青年は二人の子供がいるそうだな。上の子は夕方に人気のない下町で友達と遊ぶのが楽しいらしい。右目の上下に黒子がある金髪のかわいい男の子だとか」

「……それが冒険者ギルドのやりかたか?」


 肩に乗った手を払ったアイゼンの眼に殺気が宿る。マーロックは両手をひらひらと上げて勝利の笑みを見せた。


「やりかたってなんだ? ただ俺は世間話をしただ――」

「マーロック・ハウゼン。生まれは技術国家西砦村ダンガル。現在四十二歳、元冒険者、プラチナ級。ゲール西地区の南外れに一軒家を持つ」

「……それがどうした」

「暗殺者系のスキルを多数お持ちのようで。最近殺したのは……去年の冬に若者を複数人でしたか。理由は最近活発な邪教の信者、だったからですね……これも職員としての活動ですか?」


 マーロックがアイゼンを床に引き倒し喉元にナイフを突きつける。


「てめぇ、何者だ。どうしてそれを知っている」

「あなたが私のことを知っているのと同じように、私もあなたのことを知っているんです。もう少し時間をかければもっといろんなことを知れますけどね」


 一つ舌打ちをしてアイゼンを離す。体に着いた埃を払いながらアイゼンが立ち上がる。


「ずいぶんとニコラスの肩を持つんだな、ギルドと対立したいのか?」

「いいえ、冒険者ギルドと対立するなんてとんでもない。ただ知らないものは知らないのですよ」

「いくらだ?」

「だから知らないと」

「いくらだって聞いている」

「だから知りません、どうしてそんなにニコラス君のことを知りたいのですか?」


 その問いにマーロックは口をつぐんで思案を始める。それをみてアイゼンも動かずに言葉を待った。


「……部下を助けるのは、上司の仕事だ」


 腹からねじりだすように出た言葉だった。

 細い目で見つめるアイゼン。


「部下、ですか。ただの職員と冒険者でしょうに」

「おまえもただの商人と冒険者の関係だろう」

「……本当に、ニコラス君のことを助けたいのですか?」

「これは支部長と俺と獣人街の総意だ。俺たちはあいつを助けたい。あんなになっちまった子供を助けたい」

「子供を助けたいなら貧民街に行けばたくさんいるじゃないですか、彼らを助ければいいでしょう。職員として冒険者を助けたいならもっと助けるべき人がごまんといますよね。ごまかされませんよ、ニコラス君をさぐる本当の理由は?」

「……わかった。腹を割って話す。だがさっきの言葉は嘘じゃない。俺たちがニコラスを助けたいのは本当だ」


 マーロックが乱暴に椅子に座り、顎で向かいの椅子に座るようにアイゼンに促す。渋々といった感じでアイゼンが椅子に着いた。


「はぁー……俺はただニコラスの情報が知りたかっただけなんだけどなぁ……商人と親しいって聞いて楽な仕事だと思ったんだが」


 愚痴を漏らしながら背を持たれ刺すマーロック。

 彼は気づいていた。もし本当に情報を持っていないのであればアイゼンはここまで言葉を交わすことなく去っていただろう。しかし去らずに回りくどくこちらの真意を探ろうとしてきた。これはいい情報を持っているが高く売ろうとする商人ならではの行動だ。

 しかしそこでマーロックの中に違和感が生じた。最初の違和感はアイゼンが金に興味を向けていなかったこと。話始めこそ金の話をしていたが、彼の家族の情報を出し脅しをかけると、彼は逆に脅しをかけてきた。これは商人としてかなりおかしい。家族の安全を取るのであればニコラスの情報を渡して金を受け取れば済む話だ。それが商人としての正解だ。だが彼は逆に脅しをかけてこちらに制限をかけてきた。これは一見すると脅しに怒ったゆえの行動や、立場を対等にし情報金額を吊り上げる行動に見えるが、違う。なにせ彼はその後も金の話をしようとする素振りがない。

 そしてもう一つ。アイゼンの言動にはある一貫性があった。それは冒険者ギルドがニコラスについて何を探ろうとしているのかを探ろうとしていることだ。

 マーロックは確信した。アイゼンはニコラスを守ろうとしている。それも商人と冒険者の枠を超えたところで。


「アイゼン、正直に答えてくれ。おまえとニコラスはどういう関係だ」


 アイゼンが疲れたマーロックの顔を見ながら微笑んだ。


「友達です。まだ一方的に、ですがね」


 マーロックはそれを聞いてため息を吐きだした。


「そうかい、じゃあニコラスの友達のアイゼン、頼みがある。これはニコラスを思う俺たちギルドと獣人街からの頼みだ。俺たちギルドと獣人街との関係にはあいつが必要だ。あいつがあのままじゃあ、また獣人と人間が争うことになる。あいつの心の闇を晴らしたい、あいつが子供の様に笑えるようにしてやりてえんだ。頼む」


 言葉と同時に、マーロックは深く頭を下げた。


「いいでしょう、ニコラスの友達として協力は惜しみません。私もニコラス君に子供の様に笑ってほしいですから」


 マーロックが頭を上げると、手を差し出すアイゼンが目に入った。差し出された手を握って頷きあう。


「助かる。あんな子供が今じゃゲールの重要人物だからな、それにいろんな奴に気に入られてやがる。獣人街の奴らだけじゃねえ。支部長も気に入ってるし、職員も名前覚えてもらっただなんだでキャーキャーいってやがる。おまけにここら辺の露店でニコラスの名前を知らない奴はいないときた」

「はははっ流石ニコラス君、彼はなぜか人に好かれますから。あ、協力はしますがこの金貨は全部貰いますね、私を脅した慰謝料です」


 そういってアイゼンが机に散らばった金貨を袋にまとめだす。


「ちょっ待ってくれ! それ俺と支部長の個人資産なんだ! せめて半分! 半分は残してくれ!」

「政治的不可侵の冒険者ギルドがゲールの商人を脅したんです。これくらい当然でしょう? 諦めてください。邪魔したら先ほどの脅しを商人ギルドに報告しますので」

「ホントダメだから! また仕事に家の金使ったって上さんに怒られるから頼む勘弁してくれ!」

「あいにく独り身の私にはその気持ちがわかりません、せいぜい幸せに怒られてください」

「くそがああああああああああああ!」


 袋一杯に詰められた金貨はアイゼンの懐へと消えていった。





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