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新しい仲間






 冒険者になったあの日、支部長に呼び出された理由は『獣人族と冒険者の和平』の立会人として呼ばれた。三年間絶縁状態だった両者の和解が成ったのだ。


 いざこざの原因は三年前にマルダナ商会が各種権利書を持って冒険者ギルドに依頼を出したことが始まりらしい。依頼内容は『不法滞在者達との交渉、および決裂時の対応』だった。冒険者ギルドは依頼内容に不備が無いか確かめ、問題が無かったので受理し交渉に当たった。強制排除であれば衛兵等の公的機関が対応するのだが、マルダナ商会が国を使わないことで内内に処理をしようとしたのだ。


 内々に処理をした理由は定かだはないが、結果として交渉が決裂。冒険者ギルドがマルダナ商会の手先として獣人族に認識され、関係が悪化する。獣人族は冒険者ギルドがマルダナ商会と手を切らない限り金輪際接触を禁じる事態となった。そのため獣人族の冒険者資格を持つものも冒険者ギルドの依頼を一切受けなくなった。


 冒険者ギルドからすると正規の依頼を処理した結果、獣人族の反発を招いただけのことであり、単なる逆恨みということで獣人族からの抗議等全てを黙殺した。しかし獣人冒険者が依頼を受けなくなったために主に獣人族が請け負っていた、調査偵察依頼等一部の依頼が滞る事態となった。


 両者の主張が平行線をたどったために三年間で様々な不備が生まれ、両者を蝕んでいった。


 しかし、三年間その状態が続き、互いに疲弊したところに急遽話し合いの場が持たれることとなる。その原因が僕が起こした立て籠もり事件だった。


 獣人族は種族全体で生命励行主義という思想を持っている。全ての生命には生きる本分があり、その本文に従うことで繁栄と栄華を手にするという思想だ。何者もこれを阻害してはならず、何者もこれに準ずることが使命なのだとか。


 獣人達は冒険者でありながら善悪を問わず自身の命を守るため手を尽くし、それだけではなく命を脅かそうとした対象まで救い守った僕に感動したそうだ。たまたまなんだけどね。


 事件後、獣人達は僕の行為を称賛した。そして獣人族の命を救ったことに恩義を感じたのだ。その結果、絶縁状態だった冒険者ギルドに赴き、僕に言われた町の清掃依頼を実行したのだ。


 冒険者ギルドも獣人族が来たことに安堵した。冒険者ギルドは依頼請け負い専用の機関として存在しているため、依頼以外で外部アプローチができない。これは冒険者ギルドが権力を持たないため、外敵を作らないための仕様だった。そのため獣人族との絶縁を解消するには獣人族側から来てもらうしかなかったのだ。


 こうして三年続いた絶縁が解消され、話し合いの場が持たれた。結果は『互いに何をしようと関知しない』という和平とは言えないものだが、このおかげで獣人冒険者が冒険者活動に復帰。また獣人街の住民も冒険者ギルドに依頼を出せるようにまで回復した。




 僕の予想はこうだ。


 マルダナ商会は三年前から獣人街を整理して新しい繁華街を作るつもりだった。そのため、獣人街と冒険者ギルドを対立させることにした。理由は獣人街を疲弊させるのと、住民を守るために護衛を雇わせないためだろう。それが上手く行き、獣人街は人間をすべて排除するという自衛手段を取るまでになった。僕はそんな場所に安易に入ってしまったため、説明もされずに手を刺されたのだ。


 獣人街の状態を見てマルダナ商会はこの春には街が手に入ると思ったのだろう。区画整理をして店を大量出店するために動いた。そのための従業員としてクアルが雇われていたのだ。教育の度合いから言って高級商店街でも作るつもりだったのだろう。


 だが二十日前。僕が騒ぎを起こした結果、獣人街と冒険者ギルドが和平を結んでしまった。獣人街が冒険者を雇って護衛を付ける等のことができるようになってしまった。もしかしたら内々に処理した理由を冒険者を使って探るかもしれない。


 マルダナ商会はこれで一時的なのかはわからないが、獣人街から手を引くことになった。手を引いた結果、建てる予定だった新規店舗の話が消える。その結果、育てていた従業員がいらなくなったのだ。大人など教育の終わった使い勝手のいい人材であれば別のところに使えただろう。だがクアルのような子供であれば即戦力になることは稀だ。そうなると、契約解除をするしかないのだ。


 マルダナ商会は詐欺をしようとしたわけではない、ちゃんと雇うために教育援助していたのだ。働いてくれるのであれば教育費は後で徴収すればいい、また教育期間中も逃げられては困るので貸付といった形でお金を渡していたのだろう。


 マルダナ商会は計画が頓挫しただけなので不法行為は一切していない。だからクアルのような被害者が国に訴えても相手にされなかったのだ。


 運が悪かったというしかない。


 たぶん、僕がこの町に来なかったら、クアルは新しい商店街で楽しく働いていたのであろう。クアルのような人は存在しなかっただろう。


 だがそうなると、今僕が仲良くさせてもらっているナルラやアルサが路頭に迷っていた可能性がある。シャナハーンのような武闘派であれば仕事には困らないが、ナルラやアルサのような一般獣人は働けるところなど、それこそ夜の仕事や代理ギルドくらいだろう。


 吐き気はあるが吐くほどではない、その程度の嫌な気分だ。


 僕が起こした行動の結果、クアルが路頭に迷った。そこに責任を感じてしまうが、それは僕の勝手な感情だ。僕だって被害者なのだ。突然獣人に襲われただけの被害者だ。ただそれが、たまたま街のことにかかわっていただけで。


 あぁ、そうか、今わかった。この嫌な気分。


 姉が僕にしていたことに似ているのだ。


 姉はただ僕と遊んでいただけだ。子供として当然のことをしていただけだ。だがそれが、僕が死ぬような目に会うとは理解せず遊んでいただけだ。


 僕はただ必死に自分を守っただけだ。人として当然のことをしていただけだ。だがそれが、誰かが路頭に迷うような目に会うとは理解せずに守っただけだ。


 誰も悪くない、悪くはないが傷つく人が出る。いままで傷つく側だった僕が傷つける側に回ってしまった。


 姉を嫌ったはずが、僕は姉になっていたのだ。


 それが無性に気持ち悪かった。




 翌朝、クアルと一緒に朝露の香呂の食堂で今後のことを話し合っていた。


 クアルは仕事が無くなってから貧民街で野宿をしていたらしいのでクアルの分も宿を取った。今後のことも考えると同じ宿のほうが何かと効率がいい。臭いもひどかったからアルサに頼んでクアルを綺麗にしてもらった。


「算術と相場は教えてもらったよ。魔法は火属性と水属性の生活魔法なら使える。あ、それに薬草とかなら見分けがつくから、採取とかもできるよ!」


「へー薬草を取れるならそれで生活すればよかったのに」


「ハルブ村は薬草の産地だから、みんなわかるんだよ。でも一人で薬草を取りに行って魔物に襲われたら死んじゃうかもしれないし」


 話を聞いているだけでクアルが強いことがわかる。それは腕力的な意味ではなく、生きることに貪欲な強さだ。自分の力量を理解してできる範囲で生きる道を模索する。危険と思えば手を出さない利口さはあるし、それに気持ちだけで利益を手放すようなことはしない。


「クアルが薬草を採取してそれを僕が護衛する、ついでに簡単そうな討伐依頼でも受けておけば互いに儲かるか。荷物持ち兼採取係がいれば僕が失敗した時の生存率も上がるしいいかもしれない」


 クアルがいるのであれば僕一人よりかなり安全に魔物討伐ができる。二人になることで視認できる範囲が広がるし、いざ僕が動けなくなった時に助けを呼びに行ってもらったりすることもできる。最悪のことを言えばクアルを囮に僕が逃げることもできる。


「それってニコラスの冒険者活動を手伝うってこと? それだったらうれしい! 私も冒険者になりたかったの!」


「いや、クアルがなるわけじゃないよ。ただ僕の冒険者活動を支援する荷物持ちになってもらるってこと。ちゃんと報酬は払うし、クアルが自分で集めた素材なんかは全部クアルのものでいい。これだったらクアルもいつかは自立できるかもしれないし、僕にとっても助かるからいいかなって思ってね」


 冒険者が冒険者以外の一般人を荷物持ちに使うのはよくあることだ。それをクアルに頼むのだ。読み書き計算ができて相場もわかる、それに火と水の生活魔法が使えるとなれば荷物持ちとしては優良物件だ。子供ということを除けば。


「他にも獣人街のどこかの店に紹介してもいいよ。たぶん僕が頼めば考えてくれると思うし、獣人街の上の方の人たちも最近人間と仲良くなろうと模索してるから、クアルみたいな子だったら歓迎してくれると思うし」


 僕にできることはこの二つくらいだろう。金額次第でクアルの借金をすべて僕が払ってもいい。だがそれはクアルが良しとしなかった。なんでも『自分の失敗は自分でなんとかするの』らしい。手伝うのは構わないが、頼りきりになるのは嫌なのだとか。クアルの中でゆずれないものがあるらしい。基準がわからん。


「んーそれもいいんだけど、ね。ニコラスの世話になるんだから、私も役には立ちたい。こんな機会二度となさそうだし、ニコラスのお手伝いするよ」


「そっか、クアルがそれでいいならそうしよう」


 行動予定が決まったので詳細を詰めていく。依頼を探すのは午後でもいいだろう。どのみち道具をそろえてからになるから今日は外には出られない。昼の鐘が鳴る前にクアルの最低限必要なものをそろえてしまうか。午後からはマーロックに調査依頼の報告がてら、クアルとの今後について報告しよう。時間があったら冒険者ギルドの訓練場を借りてクアルの力量も見ておきたい。代理ギルドにいた子供たちがゴブリンを狩っていたのだ、クアルもそれくらいならできるかもしれない。


 クアルに予定を確認し了解を取る。


「じゃあ今日の予定はそんな感じで。まずは買い物に行こうか」


「うん、買い物は任せて!」


 クアルが張り切って拳を握っている。今回の買い出しはクアルがいるので楽だろう。相場がわかり計算ができるというのは便利だ。僕は計算しかできないからね。ついでに学ばせてもらおう。





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