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欠けた心






「そんなことがあってさ、どうしたらよかったのかなって」


「んー何から言ったらいいのだろうか」



 僕の質問にアイゼンが眉間にしわを寄せて悩んでいる。


 酒場から逃げたらダルシムが追ってきたので、それを撒くために街中で人通りの多い露店近くを走っていた。そこでたまたま買い物中のアイゼンに出会った。


 なんでもゲールの市場相場を調べていたらしい。


 今は南中央広場で二人で露店で買ったポパイというふかした芋料理を食べている。


 眉間にしわの寄ったアイゼンは鋭い目つきと相まって機嫌の悪い野盗のように見える。おかげで周りからどんどん人がいなくなっている。



「それはたぶん、友達になりたかったんじゃないかな?」


「友達?」


「そう、ニコラス君と友達になりたかったのだと思うよ……友達ってわかるかい?」



 考えてみる。友達という言葉は知っている。だがそれが何なのかは知らない。知らないものは考えていても知らないままだ。



「ごめん、わからない」


「そうか。では私とニコラス君はどんな関係だい?」



 僕とアイゼンの関係か。



「旅の仲間」


「んーそうだね、ほかにはあるかい?」



 旅の仲間以外か、それなら――



「いろいろ教えてくれる、先生?」


「私はニコラス君に貴族のこととかも教えてもらったから、先生ってわけじゃないな」



 そういえば確かにアイゼンとは教えてもらうというより情報交換が多かったな。となると、なんだろう。


 僕の眉間にもしわが寄ってきた気がする。



「私はニコラス君のことを友達だと、思っているよ?」



 悩んでいたらいつのまにかアイゼンが微笑んでこちらを見ていた。



「ってことは、僕とアイゼンの関係が友達ってこと?」


「そうだね、少なくとも私はそう思う」



 僕とアイゼンのような関係が友達というもの。ダルシムはそうなりたかったということか。考えてみるが厳しい。メリットが見えない。


 ん? でもアイゼンは商人だったよな。



「ノイマン兄が『商人はお金だけが友達』っていってたけど、違うの?」



 正確には兄から教わったことは『商人はお金だけが友達だから気を許すな』だ。だがアイゼンは旅の仲間でもあるので気を許している。



「それは……間違ってはいないのが難しいな。よく考えたら私も友達が少ない……どう教えたらいいか」



 また眉間にしわが寄っている。



「ニコラス君は年の近い遊び相手とかはいなかったかい? 貴族でも平民でも」


「遊び相手って稽古の相手ってこと? 年の近いのはアリーナ姉だけだったかなぁー。あとだいたい家にいたから使用人以外の平民とは会う機会がなかった。貴族の子はみんな一回来たらもう来なくなるから遊んだことはないよ?」


「稽古を遊びとは……それに箱入りか、これはなかなか難題だな」



 なにか悲しそうな眼をしているアイゼン。そんなに真剣な質問じゃないからわからなかったら答えてくれなくてもいいのに。


 アイゼンと僕の関係をさらってみる。


 旅の同行者であり仲間だったアイゼン。道中いろいろと教えあって楽しかった。それにアイゼンの眼は怖いがころころと表情が変わるので話しているだけで面白い。揶揄っても来ないので気軽に話せる。気が合うし信頼もしている。アイゼンと話すだけでたくさんのメリットがある。それにスキル持ちの商人だ。このつながりは大事にしたい。


 これが友達というのだろうか。


 そうであるならばやはりダルシムとは友達にはなれないな。


 最初から失礼な奴だったし、強そうでもない。クランに所属しているのでその情報は欲しいが、別に彼じゃなくてもいい。楽しくもないし面白くもない、メリットもないのだ。



「んーベックは師匠とか言いそうだ、ミサトリアも姉とかいうだろう……ニコラス君の友達……僕だと仲間と言いそうだし……」



 すごく悩んでいる。そこまで真剣な質問じゃないからわからないならわからないでいいのに、ほんとに。



「まったくどうなっているのですかこの町はっ! わたくしに手を出した平民を裁けないなんてどうかしてますわっ!」



 聞き覚えのある声が聞こえた。声の方を向くと五人のお付きを連れた貴族女性が怒りをまき散らしながら歩いている。


 あれはリリアナ……だったっけか。


 リリアナの周りには執事服を着た老人と護衛であろう騎士の格好をしたものが四人付き添っている。



「これは本国に帰りお父様に報告しますっ! キャンベルト家を侮辱したことを後悔させてあげますわっ!」



 僕は外套のフードを深くかぶる。平民風の今の僕にあのタイプの貴族が話しかけてくることは無いと思うが、見つからないに越したことは無い。


 アイゼンはまだ悩んでいた。別の話題を振ろう。



「別の話なんだけどさ、冒険者が貴族に手を上げた場合ってどうなるの?」


「ん? あぁよくある問題だな。だいたいは公的機関がその冒険者を捕まえて裁判にかけられる」



 そうなのか、しかしリリアナは先ほど裁けないだなんだ言ってたはず。状況が違うとかかな?



「例えばだけど、貴族が冒険者になったとして、その冒険者貴族を冒険者が殴ったら?」


「そうだな、その場合は国によるとしか言えないな。例えばアーヴェンジェフ公国でそれをすると、冒険者同士の小競り合いとして処理される。処理はされるが貴族の権威は強い、手を出した冒険者は闇に葬られるだろう。魔導国アルケギニアでは冒険者は即縛り首だろうな。ここ、ゲールだと貴族として、国としての介入は禁忌とされているから事件にもならないだろう。事件にしてしまったら町への政治的介入にみえてしまうからね」



 ゲールの中では貴族と冒険者のいざこざはもみ消されるってことか。


 リリアナの言葉に合点がいった。



「良くも悪くもここでは貴族の権威が低い。実力と金がものをいう町だ。もしかして講習で何かあったのかい?」


「いや、僕は何もなかったよ、ありがとう。じゃあ宿とか取ったりしなきゃいけないし行くね。またねアイゼン」


「そうか、私も仕事に戻るとするよ」



 僕は残った芋を口に放り込んで広場を後にする。






 冒険者ギルドのあるゲール東地区の東中央広場。


 円形の広場にはいくつもの露店が開かれている。


 南門前の露店は食料や生活用品が並んでいたが、こちらは薬草や魔物の素材などといった冒険者から買い取ったであろう品が並んでいる。


 興味深いものがたくさん売られていたが、目的のものを見つけるまで見るのを我慢する。


 しばらく探していると見つけることができた。図鑑で見た毛色と同じだしこれに違いない。


 品物を見ている女の子を避けて店主に話しかける。



「おじさん、これってワーウルフの毛皮だよね?」



 地べたに座った店主は僕に一瞥をくれると、小さな声で「そうだよ」と答えた。



「一枚ほしいんだけど、いくら?」



 相場は知らないので言い値で買おうと思う。どうせもう買うことは無いだろうし。



「……銀貨五枚だな」


「わかった」



 腰袋から銀貨五枚を出す。



「君っ、ワーウルフの毛皮の相場は銀貨二枚だよ? はいっ」



 隣で品物を見ていた女の子が僕から銀貨を取り上げた。


 思わず腰のナイフに手が伸びそうになったが、取ったのに逃げもしない女の子、敵意は見えないので手を止める。


 女の子は僕から奪った銀貨の内三枚を店主に差し出した。店主が舌打ちして女の子から銀貨を受け取る。


 残った銀貨のうち一枚を僕に返してくる。



「手間賃ね」



 犬歯の欠けた笑顔を見せ、女の子が残りの銀貨を懐にしまう。



「ありがとう」



 よくわからないが言い値より安く買えたのでお礼を言っておく。



「ふーんワーウルフの毛皮を買うくせに、貧乏人ではないのね。もしまだ買い物があるなら私が相場教えてあげるよ? また手間賃もらうけどね」



 この子、金欠の時のミサトリアと同じ雰囲気がする。逃げよう。


 女の子に返事はせず、店主から毛皮を受け取って広場を後にする。



「私、クアルっていうの! またあったらよろしくねー!」







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