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事務的な講習






「冒険者とは、国、町、住民、組織などから寄せられた依頼を完遂するもののことである」



 ベイドラが後ろ手を組んで話し出す。


 声に抑揚がなく聞き取りづらい。



「冒険者ギルドで請け負っている依頼は基本三種の、討伐・採取・雑務。特殊三種の、護衛・開拓・調査。最後に特別依頼の特別強制依頼がある。討伐は文字通り魔物の討伐など危険生物の討伐になる。採取も文字通り依頼された品の入手が仕事だ。雑務は様々な依頼がある。貴様ら新人は主にこの雑務から仕事を始めるといいだろう。町の清掃から迷子探しまで安全な依頼が多い」



 声に弾みがないせいで眠くなってきた。我慢だ。



「新人には受けられないが特殊三種についても軽い説明をしておく。特殊三種の護衛は依頼された護衛対象を守る仕事だ。町の中での護衛や旅での国境越えなどのために書類手続きが必要とされることが多い。開拓は人類未開拓地区を切り開くものだ。これはほぼすべてが大規模任務になり長期間の拘束がある。調査は指定されたこと・もの・人を調査することが任務となる」



 ベックは僕の護衛だったから護衛依頼で、ミサトリアは御者だから雑務になるのかな? でも冒険者ギルドを通した依頼じゃないから関係ないのか。



「最後に特別強制依頼だ。これは所属する冒険者ギルドの緊急時に発令される。貴様らはここゲールで新人登録をした。よってゲール所属の冒険者となる。つまり貴様らはゲール冒険者ギルドが特別強制依頼を発行した時は必ず依頼を受けなければならない。もし貴様らがゲール以外の冒険者ギルドに滞在し、そのギルドで出される特別強制依頼が発行された場合、依頼は任意だ。受けなくてもよい」



 断れない強制依頼のことは知っている。ベックが父のパーティーにいた時に受けた竜退治が特別強制依頼だったと言っていた。


 国防などの緊急時に発令されるらしい。



「次に貴様らの階級について説明する。まずは貴様らにこれを渡す」



 ベイドラが小さな鈍色のプレートを僕ら三人に手渡した。


 隣の女性がプレートを受け取るとき、おっかない顔でベイドラを睨んでいた。



「貴様らに渡したそれは『冒険者識別金属板』というものだ。俗にプレート、タグ、ギルドカードなどと呼ばれている。金属板を見てもらえればわかるが、所有者の名前が記載されている。確認しろ」



 人差し指二本分の大きさのプレートには『ニコラス』と書かれている。名前の右横に六角形の穴が開いている。



「名前が間違っているものは速やかに申し出ろ。……いないようだな」


「わたくしの名前が違いますわ! 何なのですかこれは!」



 女性が激高している。耳が痛いのでやめてくれ。



「ふむ……みせてみろ」



 女性がベイドラに向かってプレートを投げる。ベイドラはそれを素早くキャッチする。



「ちゃんと書いてあるではないか、糞野郎と」


「わたくしの名前はリリアナ・キャンベルトですわ! ふざけないで頂戴平民風情が!」


「ふむ、シリアナ・キャンベルトか。私は臭いものが嫌いなベイドラだ。よろしく頼む」



 ベイドラがプレートをリリアナに投げ返す。リリアナは受け取らず弾いた。プレートが床に落ちる。


 ベイドラがプレートを投げ返すときに一瞬だがプレートが二枚あるのが見えた。一枚はまだベイドラの手の中にあるはずだ。



「リリアナ! リリアナですわ!」



 椅子から立ち上がって顔を真っ赤にしているリリアナ。



「リリアナ、プレートを拾え」


「嫌ですわ!」


「プレートの故意な破棄は冒険者資格の剥奪になる。拾え」


「拾いません、そのプレートはわたくしのものではありません!」



 落ちたプレートを見る。プレートにはしっかりとリリアナと書かれていた。


 やっぱりすり替えか。たぶんリリアナはすり替えに気づいていない。ダルシムという青年もリリアナの怒声に緊張して固まっているから気づいていないだろう。



「もう一度言う。拾え」


「平民風情が!」



 リリアナがスカートをたくし上げ、太腿につけられたナイフを取った。


 リリアナのナイフがベイドラに迫るが、ベイドラは動かない。



「ふむ、あまりの喜びに気が動転して落としてしまった、ということにしておく」



 リリアナが宙に舞っていた。ナイフが当たる直前にベイドラが左手を振ったのだ。


 ベイドラが落ちたリリアナを片手でつまんで運び、会議室の扉を開く。


 つまんでいたリリアナを外に放り投げた。その後落ちたプレートも拾って外に投げている。


 扉を閉め元の位置に戻るベイドラ。



「貴様らのプレートには六角形の穴が開いている」



 何事も無かったかのように講習が再開される。


 僕も名前を答えなかったらああなっていたのだろうか。いや、ないな。



「その穴には階級に乗っ取った鉱石がはまる。ブロンズなら銅、シルバーなら銀の鉱石がはめられる。今、貴様らのプレートには何もはまっていない。つまり冒険者未満ということだ。貴様らが冒険者になるために、やってもらう依頼が三つある」



 登録はしたけど冒険者とは認められていないということか。



「三つの依頼は一人ひとり違う依頼が渡される。内容は講習が終わり次第、下のカウンターで聞くように。その依頼が終わると貴様らのプレートに銅の鉱石がはめられる。そこで初めて貴様らは冒険者となる。わかったか?」


「はい」


「はっはい!」


「返事が早いのはいいことだ。貴様らはきっといい冒険者になる」



 口調が平たんなので褒められている気がしない。


 隣のダルシムは背筋が伸び切っているし、額に大量の汗をかいている。



「では次に階級について――」






 講習が終わりギルド向かいの酒場で一息つく。


 給仕から果実水を受け取り、ベイドラの口調によって眠くなった頭で説明を思い出す。


 依頼には冒険者と同じでランクがあり、基本的にそれを受ける冒険者のランク以下の依頼を受けることができる。


 冒険者と依頼のランクは下から――


 新人が所属するブロンズ。


 新人期間または既定の依頼数を終えた一般的な冒険者のアイアン。


 依頼数をこなしベテランに達したシルバー。


 他冒険者の模範となるゴールド。


 一般的にこの四つとのこと。


 次に、ゴールド級の冒険者が一定条件を満たした時になれるというランク。このランクに上下の差は無いらしい。


 国からの特定の依頼をこなし任命されるミスリル。


 大規模討伐や大型の危険指定種の討伐、新しく魔物の生息地を切り開いたなど、冒険者としての特別な活動をしてなるプラチナ。


 その両方をこなしたアダマンタイト。


 この三つが上級冒険者と呼ばれているランク。


 最後にもう一つ、オリハルコンというランクがあるらしい。


 神話にしか存在しない鉱石の名前だ。ランクの基準もそれにあった基準となっている。


 世界に数人しかいなく出会うことができない。出会えたとしても関わってはいけない。


 強大な力を持ってしまったために誰にもコントロールができなくなった冒険者がオリハルコン級になるらしい。


 会うことは一生無いと思うので気にしないことにする。


 手の中で会議室で渡された小さなプレートを転がす。


 講義後すぐにカウンターに行き三つの依頼とやらを確認した。


 ワーウルフの毛皮一枚の納品、ゴブリン十匹の討伐、ギルド指定の町内清掃。


 すべて十日以内にこなさなければならないらしい。


 ちなみに会議室を出たらやはりベックとミサトリアはいなくなっていた。


 果実水に口をつけ喉を潤す。



「きけよっ、このガキ!」



 横のダルシムがうるさい。講習後から僕に話しかけてきていた。


 僕はベックとミサトリアがいなくなったことを実感して傷心中だ。ほっといてほしい。


 だがそろそろ無視も限界だろう。ダルシムに目線だけ送る。


 使い込まれてはいるが着慣れてなさそうな戦士の皮鎧。新人紹介をした冒険者からのお下がりだろうか。


 会議室ではあれだけ震えあがっていたのに元気なものである。



「どちら様ですか?」


「このガキ……まぁいい。ガキが冒険者になったんだ、お前もクラン所属だろ、どこのクランだ?」



 例え僕が子供だろうとその態度はどうなのだろうか。まぁ成人していると思うので年上だ、失礼な態度でも仕方がない。そういえば家以外で年の近いものと話すのは初めてかもしれない。



「えっと、僕の情報を明かすのであればそちらの情報もいただきたいのですが、構わないでしょうか?」



 務めて丁寧に話す。



「貴族みてぇな話し方しやがって、むかつくぜ。俺はダルシムだ。クランは赤山の狼だ」



 クラン章だろうか、赤い狼が描かれたメダル見せつけてくる。


 失礼な態度の割にはすんなり教えてくれた。もしかしたら平民は失礼なのが当たり前なのかもしれない。でももう丁寧に話しちゃったしそのままでいいよね。



「そうですか、僕はニコラスと言います。クランには所属していません」



 ダルシムが話すクランとは、冒険者が組織した労働組合みたいなものだ。面白いことに冒険者ギルドとは無関係の組織だったため講習では教わってない。なのでベックとミサトリアからの情報でしか知らない。情報の内容は『便利だが糞めんどくさい団体』とのこと。入るのはやめておいたほうがいいと言われた。



「へぇ、未所属なのか、珍しいな」



 そういうとダルシムは僕の隣の席に着いた。水を注文している。



「その、なんだ、同じ日に登録した仲間同士仲良くできねえかなって、な? ニコラス?」



 顔を赤くするダルシム。どうやら仲良くなりたかったらしい。


 具体的にどうなりたいのかを言ってくれないと考えようがないのだが。突然仲良くなろうぜと言ってくる輩は『詐欺かたかりだから気をつけろ』と兄に教わっている。



「……えっと、そうだ、俺のいるクラン紹介してやるよ! クランに入れば先輩からいろいろ教えてもらえるしパーティー斡旋とかしてくれるから便利だぞ! な?」



 僕がどうしようか考えていると追加情報だ。初心者支援でもやっているのだろうか。


 ダルシムが真剣な顔で僕を見ている。


 何が目的なのかわからない。先輩から勧誘してこいとでも言われたか? クランについてもメリットしか言わないし信用ができない。


 だがダルシムの眼は真剣だ。


 わからない。こういう時はとりあえずあれが一番いい。


 撤退だ。


 自分が理解できないときはその場から離れたほうがいい、これは兄によって身に染みるように経験させられた。


 飲みかけの果実水を残し急いで酒場を出た。








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