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冒険者登録






 翌朝、冒険者ギルドに来た。


 街の中で異彩を放つ赤いレンガ造りの建物。入口に扉は無く朝から様々な人種、格好の人が出入りしている。


 中に入ると石造りの広いホールになっていた。


 ホール内ではいくつもの集団が固まってなにかを談義している。


 ホールの正面には横に長い木の掲示板があり人だかりができていた。


 掲示板の横には長い木のカウンターが置かれており、何人もの受付らしき人が前に並んだ人々の応対をしている。


 人々は小声で会話するのがほとんどで、思っていたよりも騒がしくない。


 ベックに従い受付に並ぶ。


 前に並んでいる人々を見る。戦士風の格好の獣人、蒼いローブを着た魔導士、斥候であろう軽装の人間、どう見ても戦う格好ではない人間。


 商人ギルドと違い衣類に類似性がない。


 僕は周りを観察しているが、周りも僕を観察していることがわかる。


 この場にいる子供は少ないので注目されてしまうのだろう。しかも僕の場合は隣にミサトリアがいる。


 人相の悪い禿げ頭に子供二人となると注目せざるを得ないのだろう。


 僕ら以外の子供に見える人を見る。二人いる。


 一人は犬であろうしっぽをはやした獣人、もう一人は魔導士の格好をした人間だ。


 周りを見ている間に僕の並んだ列はすぐに消費され、カウンターにたどり着く。



「依頼ですか? 報告ですか?」



 猫系の獣人の受付嬢だ。



「新人登録だ。こいつを登録したい」



 ベックが僕の頭に手を置いて答える。



「……人族の未成年でしょうか? 未成年の登録は基本的にできませんので」


「未成年の特別登録制度を使う。紹介者は俺だ」



 ベックが首から金属製のタグのようなものを取り出す。


 受付嬢はそれを見ると喉を鳴らしてつばを飲み込んだ。



「紹介者は、ベック様、ですね。だ、大丈夫です、登録手続きをさせていただきます」



 受付嬢がカウンターの奥から紙を持ってきた。手が震えている。


 なんとなくは察しているが、ベックのランクが驚くほど高いのだろう。


 出された紙を見ると羊皮紙のようだ。手に収まる大きさの羊皮紙の淵には一周するように魔術紋であろう模様が描かれている。



「こっちらが登録用紙となります。新規登録者様のお名前をこちらにお願いしまう」



 しまう。受付嬢が震える手で羽ペンを差し出してくる。



「坊主、字は書けるだろ」



 ベックが僕を前に出す。小声で「名前だけでいい」と言われた。


 受付嬢から羽ペンを受け取り名前を書く。インクが付いておらず書けなかった。


 慌てて受付嬢がカウンター下からインク壺を取り出す。


 インクをつけて『ニコラス』と書く。



「ま、魔力を通してください……」


「何にですか?」


「かかかっ紙にですっ」



 なんとなくはわかってた、申し訳ない。


 紙に触れて魔力を通す。


 紙に書かれた魔術紋が淡く光って消える。



「これでっ登録は終わりです。新規講習を受けていただきたいのですが、よろしいですか?」



 強制じゃないのか? とりあえず「はい」と答える。



「ではお名前をお呼びしますので、ホールでしばらく、いえ、客間を用意させますのでそちらで」



 ベックが受付嬢の言葉を遮る。



「いんや、俺たちはホールで待つ。こいつのことも一般の新人として扱ってくれ」


「わかりますた」



 ますた。頑張れ受付のお姉さん。


 僕らはカウンターを離れホールで待つ。



「二人とも、ありがとう。特別登録制度って何?」



 ここで二人とは別れる。別れる前に質問攻めにしておく。



「今回のは高ランク冒険者の弟子なんかを登録するための制度だ。ゴールドより高い冒険者からの紹介なら未成年でも登録できるんだ」


「なるほど。僕が十五歳だったらどんな感じになったの?」


「坊主が青年だったらシルバー級の冒険者の紹介で登録できるな」



 シルバーはアイアンの上だったっけか。まだ基準がわからない。



「ミサ姉の紹介でも登録できたの?」


「ミサトリアでもできるな。あいつもゴールド級より高い。誘導が露骨だぞ坊主」



 ベック相手に掛け合いなどしない、雑でいいのだ。ミサトリアもゴールドより高いのか。



「あれ? シルバー級からの紹介で登録ってことは、冒険者はだれでも登録できるわけじゃないんだ」


「あぁ、そうだな。冒険者ってのは誰でもなれるが誰でも登録できるわけじゃねぇ。新人登録には必ず冒険者からの紹介が必要だ」


「誰もかれも登録受け付けたら無法者のギルドになるからなー。その抑止としての紹介制度なのさ。冒険者は信用が大事だからな」



 ミサトリアが補足をしてくれる。



「まーそれでも抜け道はいろいろあってあんまかわんねーんだけどな」



 両手をあげひらひら振るミサトリア。登録にも抜け道とかあるのか。知りたい気もするが、登録を済ませた僕には必要のない情報だ。


 だがミサトリアが教えてあげるから聞けという顔をしている。


 世の中の暗闇に手を出そうとは思っていない。別のことを聞こう。



「ふーん、そういえば冒険者ってパーティーとか組むんだよね? そういうのはどうやって組むの? 斡旋とかしてくれるのかな?」


「パーティーかーどうなんだろ。昔はパーティー制度無くて自分たちで勝手に組んでたな。今はパーティー登録申請とかあるらしいしいろいろ変わってると思う。ようは、知らなーい。そういうのは講習の時に教えてくれると思うぞ」


「そっか、そうする。それじゃ――」



 名前が呼ばれるまでの時間、聞けることをどんどん聞いていく。


 なるべく講習で教えてもらえなさそうなことを聞いた。そうなると冒険者以外のことを聞くことになり、そこから派生して雑談に変わっていく。雑談の話題は宿のことや道具屋のことから始まりこの町に住むにあたって気を付けなければいけないことなどだ。


 雑談を始めてしばらくすると、ホールの人がまばらになった。それに気づいたタイミングで名前を呼ばれる。



「ニコラス様、ダルシム様、リリアナ様は講習がありますので二階の第二会議室までお越しください」


「あ、よばれた」



 僕がそうつぶやくと背中を押される。



「いってこい坊主。達者でな」


「ばいばいニコラス、また会おうな」



 背中を押したのはベックとミサトリアの二人だ。



「うん、またねベック、ミサ姉」



 笑って別れる。きっとまたいつか会えるだろう。


 別れとはあっけないものだ。






 会議室に入ると成人になったばかりであろう男女が席についている。その隣に空いた椅子があるのでそこに僕も座る。


 正面には顔に傷の入った大柄の男がいる。彼が講習をしてくれるのだろうか。



「今日の新人はおとなしいな。行儀がいいというのは悪くない。全員クラン加入者か?」



 目の前の男の低い声には誰も答えなかった。



「……行儀が良すぎるというのもつまらないものだ。そこのお前、名前は」



 男が椅子に座った青年を指さす。



「ダルシムです」


「そうか、ダルシムか。俺は講習を担当するベイドラだ。よろしく頼む」



 男はベイドラという名前らしい。



「そこの女、名前は」



 今度は女性を指さす。だが女性は何も答えず目を伏せるだけだ。



「……ふむ、では貴様は糞野郎と呼ぶ。私はゴールド級冒険者のベイドラだ。よろしく頼む」



 女性を糞野郎と呼ぶのか、この人のキャラクターがつかめない。



「そこのお前、名前は」



 今度は僕の番だ。糞野郎呼ばわりは嫌なのですぐに答える。



「ニコラスです」


「そうか、ニコラスか。俺は気が短い冒険者のベイドラだ。よろしく頼む」



 ベイドラの表情は部屋に入った時から全く変わらない。何を考えているかが読めない。言葉も無機質でとらえにくい。



「では講習を始める――」



 ベイドラは淡々とした口調で説明を始めた。






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