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明日へ向けて





 門では衛兵に軽い質問を受けた。馬車に乗っている人員と目的を確認する程度の質問だ。


 質問が終わると門を通る許可をもらえた。手荷物検査などは無いようだ。


 門をくぐると三階建ての石造りの建物が左右にずらりと並んでいる。


 僕たちが進む道の幅は馬車が四台並んで通れるくらいで、中央が馬車の道、左右が徒歩の道になっている。この道も石で作られている。


 徒歩の道では平民たちが露店の骨組みを解体している。


 もう日も赤くなった夕刻だ。


 人通りはリンザスの倍はあるだろうか。商人風の人や作業着を着た人、奇抜な装いをした人や貴族服を着た人など様々な人が歩いている。


 さらに種族の種類も多い。多さ順から行くと人間、獣人、ドワーフ、あとよくわからない種族だろうか。


 今日の目的地はこの南門前通りを抜けていくつか通りを抜けた先、宿場区画の宿屋だ。山猫の双頭という酒場兼宿屋らしい。


 そこで僕とアイゼンの門出を祝う、いわゆるお別れ会をするらしい。


 南中央広場と呼ばれる場所に着いて、馬車を止める。



「じゃぁな、山猫の双頭だ、間違えんなよアイゼン」



 ベックがアイゼンに確認を取る。


 アイゼンとはここでいったん分かれる。商人ギルドに顔を出さなければいけないらしい。もう日が落ちるので普通なら店じまいだ。しかし商人に休みは無い。頑張れアイゼン。


 ちなみに冒険者ギルドも一日中開いている。だが登録などの手続きを必要とするものは日中のみだそうだ。


 僕とベック、ミサトリアは自分の荷物を馬車から降ろしてアイゼンと別れる。


 ここからはリンザスの時と同じ、ベックが先導して後ろからミサトリアが僕を護衛する。


 歩いて見るゲールの町はまた違った様相をしている。


 馬車に乗っていた時は視線が高かったためか観光気分で様々なものを見ていられた。しかし徒歩となると、人の多さや喧噪、建物の高さが際立って、自分が得体のしれないものに飲み込まれているような感覚が芽生える。これが町にのまれるということだろうか。


 自分の頬を叩いて気合を入れる。リンザスの二の舞にはしない。


 ミサトリアが手を引いてくれた時の感覚を思い出して人混みを躱していく。


 前を歩くベックは時々街を見るふりをしてこちらを確認している。たぶん前も同じように確認していたのだろう、僕が追いかけるのに必死で気が付かなかっただけで。


 まぁそれがわかるようになっても街を見ている余裕はない。油断すると人とぶつかりそうだ。


 なぜ町人たちはこれをさも当然のようにこなすのだろうか。それとも彼らも僕と同じように練習していたのだろうか。


 ベックを見失わずに付いて行って日が落ちた頃、僕たちは山猫の双頭に到着した。


 店の両開きの扉に二匹の猫が描かれている三階建ての建物だ。


 中から酒と油の匂いが漂ってきている。


 ベックが扉を開けて中へ入る。


 入ってすぐが酒場だ。どこの店でも見る丸いテーブルと顔を赤くしたおっさんたち。奥のほうに階段がありその横にカウンターと受付らしき人物がいる。


 僕たちはそのカウンターへ行き一泊分の料金を払って部屋を取る。


 部屋には行かずに酒場の空いているテーブルに着いた。


 ベックがテーブルを片付けていた給仕を呼びつけた。どうやらこの酒場は給仕の呼びつけも可能らしい。呼び出した給仕に「うまいもん適当に、それと酒二つと果実水」と言ってお金を握らせた。



「先払いは初めて見た」



 僕がそういうとミサトリアが言う。



「今日はお祝いだからな、しけたことはしない。お金払って適当に料理持ってきてもらうんだよ。そのほうがうまいもんがでる」


「そうなんだ。頼み方にもいろいろあるんだね」



 飲み物はすぐに来た。給仕も上客と判断したのか対応が丁寧だった。


 ベックとミサトリアはお酒を、僕は果実水の入った木のコップを持って前に掲げる。



「旅の終着とニコラスの門出に、あとまだいねぇがアイゼンの今後に」



 三人でコップをぶつけ合い打ち鳴らす。リンザスの酒場で教わった祝いの作法だ。ぶつけた時の音が大きいほどいいらしい。ただしこぼすなとのこと。似たようなことは貴族社会でもあるが、あちらは盃を天に掲げ祈るだけだ。ぶつけ合うほうが楽しい。


 僕のコップは少しこぼれてしまったが、いい音が鳴った。


 一気に果実水をあおる。薄い果実水だ、薄すぎて何の果実水かわからない。


 僕が微妙そうな顔をしているとベックが笑う。



「ここはビールがうめぇ店なんだよ。ほかの飲みもんはだいたいだめだ、葡萄酒なんて飲めたもんじゃねぇ、酢とかわりゃしねぇ」



 なかなかひどい宿に案内してくれたな。



「まーでも飯はうめーんだよなーここ。給仕ービール二つー!」



 ミサトリアも飲んでいるのはビールだ。


 僕もビールを飲みたくなる。が、やめておく。ベックたちからも酒は飲むなと言われているのだ。僕が酔っ払ってベックと戦い終わった後が大変だったらしい。もちろん僕は覚えていない。


 追加のビールが来る。給仕に他の飲み物は無いかと聞いてみたが無いらしい。仕方ないので水を頼んだ。



「アイゼンはどれくらいで来るかな?」


「飯食ってる間には来るだろ。っかぁー! うめぇ!」



 追加で来たビールも飲みほして次を頼んでいる。


 酔っ払われる前に明日の予定を聞いておこう。



「今日はここにとまるんでしょ? 明日はすぐにギルドで登録?」


「あぁ、新人には講習があるからな、朝から動くことになる」


「講習があるのか、よかった。ベックたちはその間どうするの?」


「俺たちはお前が冒険者登録を終わった段階で次の依頼にいく。すぐにこの町を出ることになるからもう会うことはねぇだろう」


「えっマジ? もう次の依頼来てるの?」



 ミサトリアがベックに問うと、ベックは懐から何かの書かれた板を取り出した。それを見たミサトリアは「うへぇ」と言って体を弛緩させた。



「ま、そういうこった。坊主も聞いておきたいことがあったら今のうちしかねぇぞ? きっとそこのおねぇさんが何でも教えてくれる」



 お姉さんという言葉に反応してミサトリアが背筋を伸ばす。


 聞きたいことか……そうだ。



「どれくらい冒険者を続けていたら、二人にまた会えるの?」



 僕は二人を見る。僕の質問に難しそうな顔をしていた。



「そうだなー。ニコラスの実力なら十年あれば俺と仕事できると思うぞ、ベックとはもうちょいかかると思う」


「まぁいい線だな、俺と仕事してぇなら運が良ければ十五年ってところだ」



 十年はかかるのか……遠いな。



「新人が俺たちのレベルになるのはそれだけかかる。冒険者ランクってわかるよな」


「うん、少しは」



 冒険者にランクがあるのは知っている。ランクの名前は鉱石の名前を取っていて、下からブロンズ、アイアン上はゴールドやプラチナという感じで希少な鉱物の名前が使われているほどランクが高いらしい。


 前に気になって二人の冒険者ランクを聞いたが教えてくれなかった。そういえばリンザスの商人ギルドでも身分を明かそうとしなかったし、何か隠す理由があるのかもしれない。



「俺たちのランクはたけぇ。ランクやら詳しいことは講習で聞けるからな、めんどくせえから省く。そんな俺たちは普通の依頼は来ねえ。普通の依頼を受けちゃいけねぇってわけじゃぁねえが、指名依頼が多くてな、受けてる暇がねぇ。そうなると坊主と会うには坊主が俺たちと同じ指名依頼を受けるような冒険者にならなきゃならねぇ」



 ベックの言葉にミサトリアが頷いている。


 指名依頼を受けられるようにか、どのくらいのランクからだろうか。明日の講習で聞いておこう。


 しばらく話していると、テーブルに豪勢な肉料理が運ばれてきた。何かの魔物のステーキ肉だ。取り分けられるように細かく切られている。なんだろう、旅をして初めて食欲をそそる匂いというのを感じた。



「さぁ祝いだ、吐くほど食えよ坊主」



 吐くほど食わせてくるのか。いいだろう、やってやる。


 その後も様々な料理が運ばれて来た。ベックは給仕にいくら払ったのだろう。


 たわいのない話をしながら食べているとアイゼンが来た。



 格好が旅装束から商人のものに変わっている。



「もう始めていたのか、給仕さん私にもビールを」



 そう言ってアイゼンも席に着く。


 アイゼンが来たことでもう一度乾杯をし、食事に舌鼓を打つ。


 アイゼンは酒に弱かった。ビール二杯で舌が回らなくなっている。


 会話は大いに弾む。話題は様々だ、今回の旅のこととかアイゼンや僕の今後のこと、またゲールの名所や区画などの情報。


 夜が更け客が減り始めても話題は尽きなかった。







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