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幕間・転生者達






「あーだるい、くそっ、なんで生まれ変わってまでサラリーマンやってんだ私は」



 アナスタシアは、度重なる上司からの重圧と部下の不出来で苛立っていた。


 今はバルジア帝国軍西方攻略部統括に呼び出された帰りだ。


 呼び出し内容は『北西部攻略はまだかね?』だ。


 アナスタシアは速足で次の目的地へと向かう。



「だいたいなぜ私がやらねばならない。ほかに動かせる軍はいくらでもあるだろう。南のエルフか? 南のエルフがそんなに怖いか? 馬鹿どもが。どうせエルフの砂漠は攻略できないのだ。だったら砂地のエルフなど捨て置けばいいものを、その分人員をこっちに回してくれてもいいじゃないか! あぁくっそ! 私じゃない、俺だ!」



 速足で大きな独り言をつぶやく彼女は奇異に見えるだろう。


 幸い周りには誰もいない。それもそのはず、これからむかう特殊魔導研究所は彼女ともう一人の男以外は近づけないからだ。



「くっそ、くっそ、くっそ! すべてはこの体のせいだ! なぜ私がこんな、ちがう、俺がこんな姿に! くっそ、くっそ!」



 愚痴を叫んでいる間に目的地に着いた。


 研究所の大扉を開けてアナスタシアは叫ぶ。



「アルチョム! いるか! いるよな! また上からケツをひっぱたかれたぞ! 居留守なんてしたらぶっ殺すぞ!」



 叫びながら何度も開いたドアを叩く。



「アルチョム!」



 研究所の中は様々な器具と書類が転がっている。


 その一角から気だるげに一人の青年が現れた。



「あーぁーあーまたストレス貯めてるんすかアナスタシアさん、そんなんじゃ胸が育ちませんよ?」


「ぶっ殺すぞアルチョム、俺は男だ」


「そんなこといってー知ってるっすよ? 最近自然と私口調になってるの。それに今何歳でしたっけ? 八歳? 女の子の日はいつごろから始まるんでしたっけ?」



 アナスタシアの額に青筋が走る。



「それ以上言ったら殺す。殺してバラバラにして北極海に沈めてやる」



 アナスタシアが足音をたてながらアルチョムに近づいていく。



「やだなぁ冗談っすよ冗談、それにしても北極海ってこの世界にもあるんすかね? 北のほうは魔族と巨人族が占領してますし調べられないんすよねー」



 へらへらと笑うアルチョム。アナスタシアは舌打ちをして話を進める。



「そんなことはどうでもいい、研究の成果はどうなんだ。いい加減ごまかすにも限界があるぞ」



 威嚇するようにアルチョムの机をたたくアナスタシア。だがアルチョムはそれを気にする様子はない。



「あぁそれですがね、つい先日、できたんですよ。いやぁー苦労したっす! ちょっとまっててください」



 そういうとアルチョムは薬品棚から瓶を取り出した。


 瓶の中には粉が入っており、その粉の一部を手のひら大の紙に取り出す。



「これが……あれか? すまんが私は見たことがないからわからん」



 アナスタシアは粉を凝視するがそれが何の粉か判別できない。



「アナスタシアさん、また『私』になってるっすよ、もう諦めたらどうっすか? 僕も幼少のころは体に感情が引っ張られたっすからねぇーアナスタシアさんは体が女になったんですから、もう心もおんなぐふぉ!」



 アナスタシアがアルチョムの体に一撃を入れた。


 アルチョムは粉を持った右手をあげて苦悶の表情で耐えている。



「あ……アナスタシアさん……これマジで危ないんで、そういうおふざけは後にしてほしいっす……」



 アルチョムは右手を揺らさないようにしながら必死に訴えた。



「ふんっ、ふざけてなどいない。私は男だ。しかしその反応なら、本当に出来上がったようだな」



 アナスタシアは魔法を使いアルチョムの持つ粉を宙に浮かせる。


 そこに火魔法を灯す。


 けたたましい音と共に、粉ははじけ飛んだ。



「ふふっはっは、あはははははは! 流石だアルチョム! お前は今、この世界で初めて、魔法に頼らない爆発を作り出した。最高だよアルチョム! あはははははははは!」



 アナスタシアが高らかに笑う。幼女が目を見開いて笑うさまは不気味としか言いようがなく、この世の不安を感じさせる。



「まぁ言われたから作ったっすけど、これで前の世界と同じような戦争が起こるとか、いやっすからね」



 アルチョムがアナスタシアに釘を刺す。



「大丈夫だ、そんなことにはならん。この世界には私たちがいた世界と違い『魔法』というものがあるからな。こんな『火薬』など生産するよりはるかに効率のいいものがあるのだ。これが使われることなどあるまい」



 アナスタシアがアルチョムに開発させた火薬は、この世界では必要のないものだ。


 大規模爆発を起こしたいのであれば火属性適正のある魔術師を育てればいいし、属性を組み合わせて爆発魔法を使う輩さえいる。


 この世界でわざわざ手間をかけて火薬を作成する必要はないのだ。



「だが、あのドドガマ渓谷の壁は魔力を吸収する。だからこその鉄壁だ。だからこそ魔導国アルケギニア、技術国家ダリオンが協力しても落とせなかったのだ。しかし! これなら可能だ。火薬であれば、魔力を使わないものであれば、あの崖を崩せる! 難攻不落と言われた国境砦マカハトを落とせるのだよ! あはははははは、これで安泰だ! これでもう上司から執拗に愚痴を言われなくて済む! もうあのロリコンと顔を合わせなくて済むのだ! 最高だ! 最高だよアルチョム!」


「あぁーそっすね。それは何度も聞きました。西部攻略軍務長やばいやつっすもんね。でもこれまだ花火程度のものっすからね。あの壁を破壊するもの作るのはどれだけかかるやら……」



 アナスタシアは勢いよくアルチョムの机をたたいた。



「やれ。一刻も早く作れ。もしやれなければお前の四肢をちょん切って男好きのあの貴族に引き渡してやろう、さぞ楽しい人生が待ってるぞ?」


「しゃ、シャレにならんっすそれ、うっわ、目が本気だ。やります。やりますから!」



 アルチョムは散らばった書類を急いでまとめだす。しかしすぐそれを止めた。



「そういえばアナスタシアさん、マカハトって確か『黒い鳥』の部隊がいるんすよね? 僕たちと同じ転生者の。どうするんすか?」


「『黒い鳥』か。正直奴の実力はわからん。南部戦線に現れては両者の戦線を崩し戦争を台無しにする輩だ。何を考えているか知らんが、桁違いに強いことはわかる。だが向こうも、私たちのことなどまだ存在も知らないはず。となると情報戦ではこちらが優位だ。そこをつく」



 アナスタシアは腹を空かせた獰猛な獣のように口をゆがめた。



「……そううまくいきますかねぇー。『黒い鳥』は僕ら孤児出身と違ってあのドラグスレイヤー出身ですからポテンシャルやばそうなんすよねー」



 アルチョムはそう言って自分の鼻頭を掻く。



「なぁに、『黒い鳥』は基本単独だ。裏を突く隙などごまんとある。それに奴は転生者の持つ魂の魅了の存在に気づいていない。きっと今もどこかでほころびを作っているはずだ」


「どうなんすかねぇー意外と気づいてるかもしれないっすよ? 気づいててなお魅了をつかうやばい人の可能性もあるっす」


「ふんっ、そうであれば同郷といえど遠慮なく殺せる。心配するな、『黒い鳥』に関してはこちらで何とかする。お前は早くドドガマ渓谷を落とせる火薬を作れ」


「へいへい」



 アルチョムは書類を整理して研究を再開する。


 それを見て満足そうに微笑むアナスタシア。



「それに『黒い鳥』には不出来な弟がいるらしいしな」



 そう呟いて、アナスタシアは研究所を後にした。






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