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負けず嫌い





 翌日の昼過ぎ、僕たちはボルーラ村に到着した。


 野営地から一回しか休憩を取らなかった分、早めにつけたのだ。


 昨日僕は興奮して寝れなかったため、道中は荷台の中で寝ていた。


 ベックとミサトリアに「寝るときに寝れるようになれ」と言われてしまった。


 ボルーラ村はゲールに続く宿場として機能している。


 おかげで宿屋と酒場が多い。むしろ宿と酒場しかないといっていいほどだ。


 その宿の一つに馬車を預け、今はみんな別行動をしている。といっても僕とベックは一緒にいるが。


 アイゼンは村を回ってゲールの情報収集、ミサトリアはおいしいものの店を探して村を回っている。


 僕とベックは村はずれの何もない広場に来た。


 ベックに模擬戦を頼んだのだ。


 頼んだ時最初は拒まれたが、ナイフを実際に受けてみたらいろいろわかるかもしれない、とお願いをしたら受け入れてくれた。


 ベックは乗り掛かった舟から降りることは無いからな。嫌そうな顔はしてたが。


 僕とベックは距離を取って向かい合う。



「坊主、手加減はしてやるが、ケガしてもかまわねぇんだろ?」



 ベックは手元でナイフを回して感触を確かめている。


 僕は今日は予備の薄衣に戦槌、外套は切れたらいやなので置いてきた。



「大丈夫、ベックもケガしても治してあげるからね?」


「言ってろ」



 半身を引いて戦槌を構える。対するベックは普段通り立っているだけだ。


 戦槌は一撃が大事だ。一度外せば大きな隙ができてしまう。


 近づく前に一度振って間合いを確かめる。


 よし――


 僕は体を崩すように前に出た。


 低く、低く前に出る。僕という的を低くして懐には入らせないためだ。


 間合いに入った――振りぬく。


 ベックが口笛を吹きながら避ける。


 縦に振ったため体をそらしただけで避けられた。だがそれでいい。


 戦槌の頭が地面に着く前に足を広げ持ち手を広く持つ。


 そこから一気に引き上げてピック側で横振りする。


 一連の動作で土埃が舞う。


 ベックはステップを踏んで下がり躱した。


 横に振った戦槌はまだ死んでいない。引くように振ったことでそのまま構えになる。


 間を置かずに縦ぶりに移行する。


 今度は振りながら持ち手を狭め、振っている間に間合いを伸ばす。



「ナイフと違って悪くねぇな。重い長物の癖に動作に隙がねえ」



 当たらない。


 土を叩いた反動で浮いた戦槌を引き寄せベックから距離を取る。


 引き寄せる際に振る素振りもしておいた。これをやらないと懐に入られる。



「この武器で四年以上頑張ったからね」


「ふつうは四年でそこまでできねぇよ」



 一合交わすはずがすべて躱されてしまった。


 ナイフを振る素振りもない。



「ナイフの使い方見せてくれないと勉強にならないんだけど」


「あぁん? 振らせてみろや坊主」


「……わかった」



 そういうことなら仕方ない。意地でも振らせてやる。


 僕は少し下がって間合いをとる。


 ベックと僕の力量はだいぶ離れている。だが姉ほどではないと思う。


 先ほどの一合を脳裏に映して考える。


 安定した体幹と素早い足さばき。それだけで避けられた。


 ならば、避けられない間合いで振り続けるだけだ。


 体を沈ませ前に出る、間合いに入る瞬間に戦槌の頭で地面をえぐりつぶてを放つ。


 ベックが目を手でかばう。だがちゃんと隙間からこちらを見ている。


 もっと低く――


 手でできた死角に入って低い体勢からベックを見上げる。


 今から戦槌を振るとまた下がって避けられるだろう。


 だから、蹴り上げる。


 ベックの内股を蹴って体制を崩させる。蹴りの感触が軽い。


 そのままベックの体に倒れこみながら腹へ石突を当てる。


 体を回していなされた。だが回転させたことで体幹の軸ができた。


 こうなれば避けることはできない。今ナイフを振って僕を牽制しない限り。


 やはりナイフを振った。だがそれが狙いだ。


 瞬時に二の腕に魔力を通してナイフを迎える。


 肉の断たれる痛みと感触。だが切られた端から治っていく。


 ここだ。


 ベックがナイフを振り終わる前に構えていた戦槌を振る。


 ベックの横腹に戦槌の頭が入っていく。


 体幹をとらえた一撃はベックを大きく吹き飛ばした。手に伝わった感触からベックが威力を殺すために自分から飛んだことがわかる。


 だが一撃は一撃。当ててやった。


 構えなおして笑ってやる。



「振らせたし一撃いれたよ?」



 ベックが立ち上がって体に付いた土を掃う。



「ちっ、気持ちわりぃ戦い方だな。切られるのは当たり前ってか……骨の感触があったぞ糞が」



 ベックがナイフを振って血を飛ばす。


 骨まで切られなければ戦える。思った通りナイフじゃ骨は断てない。



「切られてもすぐ治せるしね。それに切られたおかげでナイフについても少しわかったよ」



 そう、ナイフで切られたことにより切る際の動きがよくわかった。


 滑るように、撫でるように、そんな感じだった。


 これで布切りの練習もはかどると思う。



「切られて学ぶのかよ……気味わりぃぞお前」



 気味が悪いとは失礼な。


 僕はこうやって戦い方を学んできたんだ。



「その気味の悪い僕に一撃入れられた二つ名冒険者さんは、プライドが傷ついちゃうね」



 煽られたら煽り返す。冷静さを失わせるのだ。



「冒険者でプライドなんてもつやつぁ三流だけだ。わかったかい冒険者未満のイきり坊主」


「そのイきり坊主に余裕こいて土を舐めた禿げ頭が何を言ってるんだか」


「あんるぇえ? もしかしてさっきのだけで舞い上がっちゃったぁ? そいつぁいけねえ。ひじょーにいけねぇ。戦いでは常に冷静にな?」



 言葉が終わると同時にベックが間合いを詰めてきた。


 速すぎる。これは屋敷で見た速度だ、反応できない。


 苦し紛れに戦槌を縦に構えて正中線だけは切られないようにする。


 ベックが僕の後ろに抜けた。そのとたんに体のいたる場所から血が吹き出る。



「っち……見られてるってのは気持ちわりぃな」



 すぐに体全体に魔力を通して治癒をする。


 ベックの動きは見事というほかなかった。


 足から腕、腕から首まで流れるようにナイフを滑らす様は水のようだった。


 背を取られているのは不味いのですぐに体を振り向かせ構える。



「見えてても動けないからね……どうやったらそんなに早く動けるの?」


「さぁな。体で覚えたいんだろう? 切られて覚えろや。こっちも遠慮がいらねぇのわかったからな。ったく、ひでぇ戦い方だよ坊主は」



 どうやら僕はこれからたくさん切られるようだ。


 治るからといってわざわざ切られたくはない。痛いもん。


 だがどう頑張っても実力の差は変わらない。だったらベックが切る瞬間に合わせて攻撃するしかない。



「それはノイマン兄にも言われたよ。でもこれしかないからね」


「そうかい」



 さぁ泥沼にはまれベック!






 その後結局僕はベックに一撃も入れられなかった。


 最初の一撃はベックが飛んだためダメージはないが、土につけたので入ったとする。


 でもその後、同じように一撃入れてもその場で宙返りされて吹き飛びもしなくなった。


 最終的に僕の攻撃に慣れたベックが、僕の攻撃の威力を使って反撃してくるまでになった。


 惨敗だ。


 だがベックとて無事ではない。


 汗を流して膝をつくまでやりあったのだ、ある意味僕の勝ちだ。


 僕は結局切られたけど膝はついてないしね。


 今は二人で酒場を見て回っている。


 どこかにミサトリアがいるはずだ。


 僕はミサトリアを探すのをベックに任せて移動しながら練習をしている。


 あの感触を思い出して。



「ベック!」


「あぁ?」



 振り返ったベックに布を見せる。


 ベックは少しだけにやっとしてまたミサトリアを探し始めた。


 僕の手にはちょっとだけだが縦に切れ目が入った布がある。


 やっぱり僕は体で覚えるのがいいようだ。







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