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一歩一歩





 二度休憩を取った後、御者はベックに変わって今は野営の場所を探しながら馬車を進めている。


 日はまだしっかりと昇っているので野営は早いのではないかと不思議に思ったが、野営の準備は時間がかかることが多く、日が陰る前に準備を始めるのがいいとのことだ。


 少し前に道に備え付けられた野営地を見つけたが、どこかのキャラバンが使用していてスペースがなかった。


 しばらく進んで道の小脇に草が刈り取られた小さな場所を発見した。



「俺たちは人数が少ないからな、あそこにするぞ」



 ベックが馬車を野営地に入れる。


 馬車が止まると全員が降りた。


 野営地は民家一軒分くらいのスペースがあり、中央に石で組まれた年季の入ったかまどがある。



「てっきり石組とかから準備するんだと思ったんだけど、違うんだね」


「馬鹿か坊主、町をつなぐ街道はいろんな奴が使うんだ。毎回毎回かまどを作るよりも、置きっぱなしにして使いまわすんだよ。まぁ魔物の出る未開の地は自分たちで組まなきゃならねぇけどな。わかったらさっさと馬車から薪を下ろせ」



 ベックが僕の質問に答えた。


 馬鹿はいらないと思うが、黙って薪を下ろすことにする。


 平原地帯では薪になる木も無いので基本は持ち寄りだ。


 個人的には生木と薪木の区別がついていないので教えてほしかったが諦める。


 僕が薪を下ろしている間にミサトリアとアイゼンが馬を馬車から外して休ませる準備をしている。


 下した薪木をかまどに入れておく。


 馬のほうが気になるので、ベックから次の指示が来る前に馬に近づく。


 馬は連結縄が外されたのにおとなしくしていた。


 横から近付いて馬の背を撫でる。


 僕が乗っていた馬と違い、膨れ上がった筋肉がたくましい。



「お疲れ様。君はたくましいね」



 馬を撫でながら呟いたら、馬に伝わったのか首を向け鼻息を掛けられた。


 臭い。


 鼻筋を撫でる。


 ミサトリアが飼い葉を持ってきた。馬車に積まれていた飼い葉だ。



「御者はできないのに馬の扱いは慣れてるんだな」


「馬は好きなんだ。馬の練習するときは一人になれたしね」



 家で馬にはよく乗っていた。最初は馬の高さに怖い思いをしたが、馬に乗っていれば姉にも兄にも邪魔されないことを知って、たくさん乗馬の練習をした。


 そのうちに馬が好きになっていた。



「そ、そうか。それはよかった。とりあえず飼い葉に混ぜる草を適当に取って来てくれ。俺は水の用意をするから」



 愛しむように馬を撫でているとミサトリアがなぜか急いで馬車に戻ってしまった。


 馬を離れて野営地周りの草をちぎっていく。


 春先だからか丈の低い草が多い。馬を連れてきてそのまま食べさせてもいいが、そうなると青葉ばかり食べて栄養が偏ってしまう。


 両手いっぱいに草を取ったら飼い葉と混ぜていく。これで青と茶の馬のごはんができた。


 すでに水桶は置かれ、馬が水を飲んでいる。


 馬の前に草を持っていき食べさせる。


 馬はすぐにがっついた。体が大きい分食べる量も多いのだろうか。



「ミサトリアーこれ飼い葉足りるのー?」


「大丈夫ー、それ食べ終わって足りないようなら外につないで食べさせるからー」


「誰だかまどに薪全部入れたバカは!」


「わかったー。だってさ、たんとお食べ」



 がっついている馬の頭を撫でてかまどのほうに戻る。


 かまどではベックが薪を取り出していた。


 どうやらかまどに入れる薪は少量でいいらしい。僕は少量入れたつもりだ。



「あぁー……坊主、かまどの薪はこんなに要らねぇ。飯炊きにしか使わねぇからな。それより焚火用に薪を組んでくれ」


「わかった」



 森での雪辱戦だ。


 今回は腰袋に種火の魔道具があるので一人でもできる。


 野営地で一カ所、土が黒ずんでいる場所に薪を置いていく。黒ずみは焚火跡だからここで焚くのが正解だ。


 薪を置いたら腰袋から親指大の金属棒を取り出す。これが種火の魔道具だ。棒の中に火の魔石が入っていて、棒の先の蓋を外して魔力を通すと火が灯り種火になる。


 種火を薪に近づけ火をつける。種火が小さいのかなかなか薪に火がついてくれない。


 もしかして不良品をつかまされたのかと疑う。


 しばらく火付けに挑戦すると、やっとのことで薪に火が移った。


 これで待てば火が大きくなって焚火になるはずだ。


 日が落ちてきて空が茜色に変わった。


 結局火は消えた。なぜだ。


 夕飯の下準備が終わったベックが薪を組みなおして火をつける。


 すぐについた。なぜだ。


 不満顔でベックを見るとデコピンされた。



「薪を横に重ねるだけで火がつくわけねぇだろ」



 そう言ってベックは火のついてない薪を手に取り教えてくれた。


 薪には根を基準に上下があり、根の方から火をつけないとなかなか火が回らないそうだ。なんでも下からつけると火が中を通りやすいらしい。


 それに重要なのは薪を組むということだった。


 火を中心に薪の下側を向かせて空気が回るように組み立てる。


 これが最低限の焚火のやり方と言われた。


 試しに薪の下側に種火を持ってきたらほとんど待たずに火が移った。驚きだ。


 火属性適正がないから焚火ができないんだ、とか思っていた僕は間抜けなのだろう。


 何事にも覚える技術があり、それがないと立ちいかないのだ。


 才能云々の問題ではない。


 燃える火を見ていると森での出来事を思い出す。


 しかしあの時と違い悲観的にはならなかった。


 そもそもできないことはできないのだ。だがもうできるようになった。


 そう思うと足がうずうずする。


 練習しよう。


 焚火ができるようになったのだ、きっと苦手なナイフも覚えれば使えるようになるはず。


 焚火から離れて馬車から布を持ってくる。


 休憩の度に練習していたのでだいぶ短くなってしまった。ちゃんと縦に裂ければもっと長いままだったろうに。


 ナイフを刺して下に引っ張る。


 また横に破けてしまう。



「……成長しないなぁ」



 ぼやいてみるが変わりはしない。練習を続けるだけだ。


 やり方は教えてもらえているんだ、考えながら続ければきっといつかできるはずだ。


 次は軽く刃を寝かせてみよう。






 焚火を囲んで夕食を食べる。


 リンザスで食べた野菜のごった煮みたいなスープだ。違うところは干し肉が入れられているところだろうか。


 相変わらずおいしくはない。



「明日には宿場のボルーラ村だな。ボルーラで一泊したら残り二日でゲールに着く。もうすぐ坊主との依頼も終わりだ」



 ベックがスープを飲みながら言った。


 あと三日で中立都市ゲールか。長いような短いような旅だったな。



「そうだなぁ、あ、でも冒険者登録するまでは一緒にいられるんだろ? ニコラスまだ知らないこと多いし、登録遅らせればいいんじゃ!」



 ミサトリアがスプーンを加えながら提案してくる。


 しかしベックがすぐに反論した。



「お前なぁ、依頼が達成できるのにわざと達成しないとかありえねぇのわかってんだろ。坊主を気に入ったのは構わねぇが、それと依頼は別だ。それに次の仕事もある」


「うぅーわかってるってば……でもマラドからリンザスまで三日以上短縮できたじゃん。それくらいの時間はとったってかまわねえだろ?」


「はっ! 駄目だ」



 ベックはミサトリアを睨んで席を立った。かまどの鍋を片付けるようだ。



「……ちぇっ。あーあーあと三日かぁ」



 両手を投げ出してあおむけになるミサトリア。


 そうだ、あと三日だ。


 あと三日でベックたちと別れることになる。


 僕は考える。


 ベックたちと別れるのは寂しい気がするが、依頼が終わるのだから諦めるほかない。彼らは冒険者なのだから。


 しかし二つ名持ちに会える可能性はしばらくないと思う。二人から何かを教われる機会などこの先ないかもしれない。


 となれば残り三日を無駄にするわけにはいかない。


 残り三日でできることはないだろうか。


 旅のことは道中教わっているし、ナイフの使い方も勉強中だ。


 基本的な野営の仕方も今日教わった。御者の仕方も話だけだが教わった。


 ……思いつかないな。


 ミサトリアと同じように大の字になる。


 食べ終わった木のお椀を置いて星を見る。


 覚えることに集中して忘れていたが、はじめて外で寝るのだ。


 家で考えていたより夜は明るい。


 風で草の擦れる音が聞こえる。


 耳を澄ませても他は僕たちの音だけだ。


 少しの間、目をつむる。


 その後すぐに起き上がって行動に移す。


 食器をナイフの練習で使った布で拭って馬車に置いた背嚢にしまう。


 ついでに背嚢からマカハトで商人から買った布を取り出す。


 今はこれしかないから――


 僕はひたすらナイフを振る。







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