三国中立地帯
中天の日差しが眩しい。
ドドガマ渓谷の闇を抜けると、穏やかな草原が広がっていた。
リンザスを出てからずっと穏やかな旅をしていたが、とうとう景色まで穏やかになった。
家では毎日何かしら起こっていたので、何事もないということが何か起こる前兆に感じてしまう。
今の御者はアイゼンだ。
僕とアイゼンの会話はだいたいが知識のすり合わせの会話になる。
貴族として学んだ世界のことをアイゼンに話して、アイゼンは商人としての世界のことを教えてくれる。
これが面白くて会話が弾む。
アイゼンはベックやミサトリアと違って常識が違っても揶揄ってこないし遊んでも来ないから勉強がはかどる。
「へぇーじゃあ三国中立都市は商人が政治をしてるんだね。隣国に謁見するときはどうするの? 国として機能してるなら国家間の問題とかあると思うんだけど」
「それについてはまず三国中立都市の成り立ちから話したほうがいいな」
そう言ってアイゼンは中立都市ゲールの成り立ちを話し始めた。
昔、アーヴェンジェフ公国、魔導国アルケギニア、技術国家ダリオンは長い間戦争をしていた。
公国は北の技術を得るために、魔導国は肥沃な土地を求めて、技術国家は東の資源を求め軍を進めた。
その三国が衝突するサフラン平原。そこが中立都市ゲールの場所だ。
当時から圧倒的軍事力を持っていたのは公国だ。本国に広大な土地を持ち食料も豊富で兵も尽きない。だが問題が一つあった。ドドガマ渓谷のせいで大規模な軍を展開するのが困難だった。
渓谷を越えるなら闇の中を進むしかない、しかしその闇の中でゲリラ戦をされてしまい、部隊が壊滅することが多かったという。ゲリラ戦だけではなく潜り込んだ間者が闇の中で工作をするというのもあったそうだ。
渓谷を警戒をして山を越えようとするとワイバーンなどの魔物と戦わなければならない。そこで犠牲が出てしまう。
公国は手をこまねいた。
サフラン平原から東にある魔導国は世界有数の魔導師団がいて戦いにも強かった。
しかし魔導師団は精鋭のため数が少なかった。
そのため局地戦でしか勝てず、土地を得ては奪われ、また取り返すという一進一退を続けるしかなかった。公国を一番叩いたのはこの魔導師団らしい。
サフラン平原の西、技術国家は北のドワーフ国の技術で発展してきた国で、その技術を使い多方面に軍を派兵し勝利を収めた。
しかし戦えば戦うほど資源が消えていき、軍のかなめの技術が使えなくなっていた。そのため資源確保を最優先し土地を奪っていったが、鉱山などの狭所では魔導国にやられてしまってうまくいかず、ただただ資源を浪費することになったらしい。
三国は泥沼の戦争に沈んでいった。
しかしそこで転機が訪れる。
公国がドドガマ渓谷に砦を作り始めたのだ。
公国の精鋭軍がドドガマ渓谷前のサフラン平原入口に展開。
その間に渓谷内に下級魔導士を大量に集め明かりとした。
精鋭軍が戦っている間に人海戦術で砦を建設したそうだ。
砦の建設が終わると闇の中でのゲリラ活動が鳴りを潜めた。
公国は北進しサフラン平原中央部を占拠した。だがそれは長く続かなかった。
サフラン平原を取ると魔導国、技術国家の両方と戦うことになる。
しかし公国の補給路はドドガマ渓谷しかなく、通れる絶対数は限られている。また補給路も隠せないので狙い撃ちに会う。少しづつ渓谷に後退せざるを得なかった。
戦争で疲弊していく二国と疲弊はしないが進軍できない公国。
あまりの泥沼の戦いに三国は戦争ではなく話し合いの場を設けることにした。
その会談場所が今の中立都市ゲールがある場所。当時はただの平原だ。
テントが建てられ、三国の話し合いが行われた。
そこで三国は初めて相手の状況を把握した。
公国は技術が欲しいので、できる限り二国を傷のない状態で確保したい。しかし二国は戦争による資源・食糧難でこのまま戦争を続けると国が傾くところだった。
魔導国は目的が大地の確保から食料の確保に変わっていた。それほどまでに食料がなくなっていた。だが技術国家にも食料は無く、土地も戦争のせいで荒れ果ていつ農作物が確保できるかわからない状況だった。
技術国は戦争に人員を導入しすぎた。独自の技術のおかげで多くの平民が兵士になることができたが、長く続いた戦争のせいで資源を確保するよりも人員を確保しないと国が荒れてしまう。
話し合いの場で公国は優位に立った。公国は兵を消費したものの本国にダメージは無い。このまま戦争を続けて二国が腐り落ちれば公国の勝利だ。だが公国の目的は二国の技術。腐らせてしまうわけにはいかなかった。
そこで公国は和平を申し入れた。サフラン平原を三国で分け統治しようと提案した。
しかしその提案は飲まれなかった。
二国とも公国を近づけるわけにはいかなかったからだ。
もし公国がサフラン平原に土地を持っていつでもこちらを攻められるようになれば、再度戦争に突入し国が滅ぼされることがわかっていたからだ。
ドドガマ渓谷のおかげで戦えてはいたが、そこを越えられると疲弊した二国に勝ち目はない。
魔導国と技術国家が協力して公国と戦うしか、二国に生きるすべはなかったのだ。
しかし二国とも疲弊しているので協力したところで食料がない。戦い続けることはできない。
二国は国が亡ぶまで戦うか、公国にじわじわと滅ぼされるかの二択だった。
そこで公国は提案した。貿易を解放した不干渉地帯を作ってはどうだろうと。
公国は不干渉地帯を作ることにより人を行き交わせ技術を盗む道を選択したのだ。もともと土地が欲しかったわけではないのでサフラン平原に未練はない。中立地帯に町を作り技術流出をさせればいいと考えた。また二国には貿易を解放することで支援して国力を回復させる。そうすることで未来の技術も手に入れようとしたのだ。
疲弊した二国にとっても良案だった。
貿易を解放した中立地帯ができれば、しばらくの間は戦争は起こらず、足りなくなった食料や資源を手に入れることができる。
しかも貿易を解放した中立地帯での取引なので、国家間の余計な取引がなく正規の価格で手に入れられる。
二国はもろ手を挙げて公国の案に賛成した。
三国の話し合いは進み、中立都市ゲールを建設することになった。
統治者は三国を平等にするため、また国とは無関係の都市にするために各国から選りすぐった商人を中心とした議員制を置くことになった。
「そしてその商人たちはゲールを中心に都市を発展させていった。急激に発展したゲールは二国が国力を回復している間に、国家としてみてもおかしくない自力を持ってしまった。それをみて三国がゲールを警戒してしまい、秘密裏に内政干渉をしてくるようになった。しかし三国の要求が統一されていなく、中立都市内で各国による派閥対立が起きてしまった。そこで中立都市は考えた。建国時と同じように各国の代表を集めて今後の方針を彼らに任せてしまえばいいとね。商人はみんながめついから、隣国に睨まれたくはないが、かといってこの地を手放したくはない。三国で公に話し合いをさせてしまえば牽制しあって中立都市に手出しはされないと踏んだんだ。その思惑は見事に成就した。中立都市が巨大なものになっても不穏な行動をしない限り不干渉としたんだ」
「不干渉ってことはそもそも国家間の話し合い自体が起こらないのか」
「そういうこと。中立都市には不干渉、ただし中立都市が不穏な動きをしたら三国で中立都市を叩いて正す。仮に三国のうちのどこかが中立都市の国力を目当てに進軍したら他二国と中立都市が敵に回る。そういう協定が組まれて今の中立都市がある。国であって国でない安全な都市になったのさ」
なるほど。リンザスでベックが中立都市では戦争は起こるはずがないといってた意味も分かった。
「さぁだいぶたったし、もうそろそろ休憩の準備でもしようか」
アイゼンは休息地を探しながら馬車を進めた。




