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華やかなプレゼント





 ベックから背嚢を返してもらい僕たちは商人ギルドを出た。


 ベックとは露店街にある軽食店で落ち合うことになった。場所はミサトリアがわかるらしい。


 露店街に行く前に専門店が並ぶ、明るいが人通りの少ない路地に来た。


 扉の上につるし看板が掛けられている家が、通りいっぱいに並んでいる。


 最初は針と糸、それに鞄が描かれた服飾店に入った。


 中は宿の部屋を思い出すような狭さで、何着か飾られた服が壁に貼られている。大きめのテーブルに背嚢や腰袋などの物入れのたくいが飾られている。


 入口の反対側にはカウンターがあり老年の女性が「いらっしゃい」と声を掛けてくれた。


 ミサトリアがカウンターに行き女性に話しかける。



「加工を頼む、後ろの子の背嚢のサイズをあわせてやってほしいんだ」


「あらあら偉いわねえ二人とも、いいわ、そちらの僕、こっちに来てもらえるかしら」



 商品を見るのを止めてカウンターへ行く。



「そうねぇ、確かに大きすぎるわね。その背嚢を貸してもらってもいいかしら?」



 背嚢からお金の入った袋を取り出して女性に渡す。


 女性の眼が鋭くなり生地をいじる。



「面白い生地ね。麻にこれは……ズラゴンの髭ね。形の希望はあるかしら?」


「俺たちはこれから旅するんだ、こいつが疲れず旅できるならどんな形でもかまわねえ。それと防水処理もしてくれ!」


「わかったわ、僕はちょっとサイズを測らせてね」



 そういうと女性はカウンターから出てきた。


 手に持った糸で僕の体を計っていく。


 すぐに魔獣の髭が混じっていることに気が付かれたのには驚いた。そんなにただの麻製とは違うのだろうか。僕には見分けがつかない。



「鍛えてるんだねぇ。僕の歳はいくつ?」


「今年で十歳になりました」


「あらあら、おめでとう。そうしたら体がおっきくなってもいいように大きめのほうがいいわね」



 体を計り終えた女性はカウンターに戻る。



「そうねぇ、シンプルな背嚢だし生地の痛みもないから出来上がりは夕方くらいかしら」


「そうか、ありがとう。それとこいつにあう腰袋も欲しいんだ。見繕ってくれ」


「わかったわ、子供用のポシェットを持ってくるわね」



 そういうと女性は店の奥へと消えた。


 その後僕の腰に合うベルトと腰袋を買って、次の店へと足を運んだ。






 服飾屋、古着屋、雑貨屋、薬屋、魔具屋と回って旅の道具をそろえた。


 店での対応はほとんどをミサトリアが行った。


 どこの店でも目新しいものばかりが並んでおり、僕はそれらに目を奪われてしまったからだ。


 服飾屋では外套と大きめの毛皮を買った。外套は茶色の生地のシンプルなものだ。丈は僕の膝元で織られていて全体的に動きやすく作られている。防水防刃仕様だ。


 外套を着ると腰袋も隠れる。おかげで安心してお金を腰袋にいれておける。旅人が外套を着るのはこういう理由もあったのかと納得した。


 毛皮は野営の時に下に敷くものだ。


 古着屋では下着と薄い予備の服を一着。


 ほかの店では全部ミサトリアが見繕ったので、何を買ったのかは知らない。並べられた品物を見ていた間に買い物が終わっていたのだ。


 全てミサトリアの背嚢に入っている。


 露店街に来た。


 たくさんの人が行き交っていて、またはぐれそうなので離れないようにミサトリアにくっついて歩く。


 興味をそそる露店がいくつかあったが我慢してついていった。


 飲み物と羽の絵が描かれた店に入る。


 中では飲み物を飲みながら談笑する婦人や見るからに屈強そうな集団、気立てのいい商人などがいた。ここがベックと落ち合う場所だろうか。


 僕たちは隅の空いている席に座る。


 給仕を呼び飲み物を頼む。


 荷を下ろしたミサトリアは「ふぅ」と息をつくとテーブルに突っ伏した。



「つかれたー、ニコラスずっと品見てて相手してくれないんだもん。つまんねー」


「そんなこと言われても……もうしわけない」



 僕の旅のために買い物をしているのだ。任せっぱなしで相手もしなかったのは悪かったと思うけど。


 僕の謝罪に顔だけあげて、にまっと口を笑わせるミサトリア。



「どうだ? 勉強にはなったか?」


「実は商品をずっと見てたから何買ったとかは……」


「まぁそうだな、でもどこの店にどういうのがあるとかはよく分かっただろ?」


「確かに」


「ふふーん、お姉さんも頑張ったかいがあるってもんだ」



 飲み物が運ばれてきた。僕は紅茶でミサトリアは水である。


 たぶんもう僕一人でほしい道具の店探しはできるだろう。基本的に看板を見れば何が売っているかわかる。


 いざとなったらお店で何かを買って店員に店の場所を聞けばいいというのもわかった。



「そうだ、忘れてた。はい、これあげる」



 そう言って腰袋から質のいい二枚の紙を僕に渡してきた。


 受け取って確かめると二つに破けた兄の手紙だった。



「ノイマン兄からの手紙か。なんで破けてるの?」


「いつのまにか破けちまった。まぁ読めるだろ?」



 明らかに人の手で破いたような跡なのだが、何かあったのだろう。


 紙をつなげて内容を読む。




『ノイマンよりニコラスへ


 この手紙を読んでいるということは、俺はもうこの世にはいないということだろう。


 冗談だ、書いてみたかっただけだ。


 まぁ読んでいるということは俺が近くにいないのは間違いない。


 とりあえずアリーナは俺が連れて帰る。一週間くらいなら見張ってるからお前を追いかけていくことはないだろう。あいつもまだ学校があるしな。


 お前の旅が実りあるものになることを願う。


 それと俺と親父からのプレゼントの話だ。


 気が付いていないと思うが、お前の指には三つの指輪がはまっている。


 指輪を意識すれば現れるからやってみろ。』



 指を見て意識してみる。


 僕の指の付け根が円状に盛り上がって皮膚を破って指輪が現れた。


 ちょっとまって、これもしかして体の中に入ってるの?



『それは魔法を込めた指輪だ。二つは俺が考えて作った、一つは親父が考えて俺が作った。なかなかの力作だから大事にしろ。


 それぞれの指輪の効果と使い方を書いておく。全部一回しか使えないからよく覚えろ。魔力を通して使うと意識すれば発動するから、間違ってもいたずらで使うなよ?


・魔力障壁の指輪


 これは親父に言われて作った指輪だ。親父からのプレゼントだと思ってくれ。


 効果は指輪を起動させるとお前を中心に円形の防御壁が張られる。親父からはオークの突進でも耐えられるものって言われたが、古龍のブレスでも防げるように作った、いざというときに使うといい。』



 古龍のブレスって……兄は僕の旅に何を求めているのだろうか。


 まぁでもありがたい。使う機会が来ないことを願おう。家にいたときに作ってくれればよかったのにと、少しだけ思った。



『・風塵の指輪


 これは発動するとお前の意識した方向に扇状の風と土の複合魔法が出る。一応戦略級の自作魔法だから、町とかに使ったら町そのものがが消えるぞ。いざというときにつかうといい』



 なんてものを持たせるんだ。これは間違っても使わないように後で捨てておこう。町を消し飛ばすようないざという時なんて一生来ないはずだ。そんな人生は嫌だ。


 指輪を外そうとして指を見る。


 あれ? 指輪が全部同じ形だからどれがどの指輪かわからない。


 これは全部捨てることになるかもしれない。


 とりあえず危ないので指輪を外そうと思ったが――外れない。


 うんともすんとも言わない。必死になって外そうとしたら付け根の骨が嫌な音を出した。


 あわてて治癒を施す。


 これは嫌な予感がする。


 手紙の続きを読む。



『・死なばもろともの指輪


 これは一番の力作だが、発動しないことを願う。


 効果は所持者が死んだ時に発動する。


 火と水と風と土の多重複合魔法で、俗にいう爆発魔法という奴だ。威力は風塵の倍の威力が出るはずだ。


 お前が死んだときに周り全てを消し去ってくれるから、とんでもない敵に会った時に死ぬ気で突っ込めば玉砕できる。


 いい指輪だろ?』



 ――あんまりな内容に死にたくなった。いや、死んではいけなくなった。


 指輪の内容は一見すれば眉唾物であるが、僕にはわかる。


 兄ならやる。間違いなく楽しそうに笑いながら作る。


 指輪を見る。くすんだ指輪だ。どうみてもそんな頭の悪い子供が夢見るような魔法がこもっているようにはみえない。


 体が震える。


 震える体で救いはないのかと手紙を読み進める。


 せめて外し方ぐらい書いてあってくれ。



『プレゼントは以上だ。


 あ、消えろと思えば指輪はお前の体の中に消えるから、食事のときとかに邪魔だったら消してくれ。


 それと全部外れないようになってるから、よろしく。


 つけてる指を落としても別の指に指輪が現れるから無駄だぞ?


 腕を落とせば鼻と口にピアスになって現れるようにしたから。


 じゃ、よい旅を。


 追伸


 かゆい……うま』



 震える手で手紙をゆっくりと下し、テーブルに置く。


 手を開いて指輪をミサトリアに見せる。


 僕の口元が痙攣しているのがわかる。


 ミサトリアが半目で僕を見る。



「まーそうゆーことだ。しんじらんねーが、ニコラスは爆弾になっちまったのさ」



 窓から差す昼の日が、眩しい。


 僕は今後、この鈍く日を反射する銀の指輪を、一生をかけて大事にするのだろう。






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