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生活の知恵




 箱貸屋を出た後、僕らはリンザスの商人ギルドに来ていた。


 商人ギルドは箱貸屋の建物の倍はある大きな施設だった。


 豪華な装飾のされた入口はひっきりなしに人が出入りするし、中は人でごった返している。


 面白かったのが、商人ギルドの中には様々な人種が出入りしていたことだ。


 僕は人間以外はミサトリア以外の異人種に会ったことがなかった。


 ずっと屋敷にいたし、外に出ても近場を護衛と使用人と一緒に歩くくらいだ。異人種に会ったことはない。


 動物らしき耳と尻尾をはやした人、図鑑で見たシープという魔物に似た角をはやした人、あそこにいる髭もじゃの樽男はドワーフだろう。


 異人種については兄からいろいろと教わっている。なぜかはわからないが兄は異人種がとても好きだ。兄が結婚を待たせている人の中にも何人かいるらしい。


 ベックに置いて行かれそうになったので急いでついていく。ここでベックを見失ったら迷子になってしまう。


 そういえば迷子になったらどうすればいいのだろうか。急に不安になってきた。


 だが人がかわるがわる行きかうのでなかなか追いつけない。焦ってしまう。


 そんな心境を悟ってくれたのか、ミサトリアが僕の手を引いてくれた。


 人の間を縫って遊漁のように流れていく。すぐにベックに追いついた。


 ベックは「これも練習なんだがな」とため息をついたが、失敗した時のことも考えてほしい。失敗したから手を引かれたのか。いや、ベックなら僕が路頭に迷うまで練習させそうだ。


 ロビーの右奥のカウンターに着いた。



「本日のご用は」



 受付だろう女性がぶっきらぼうに言う。



「依頼、もしくは交渉がしてぇ。ゲールまで行く馬車か魔車持ちの商人はいねぇか? 急ぎの用だ、すぐに動く奴を探してくれ」


「そうですか、少々お待ちください」



 そういうと受付の女性はカウンターの奥へ消えていった。



「どういうこと? 馬車に乗せてもらうの?」


「さぁな、相手次第だ」


「そういうのって冒険者ギルドでやるんじゃないの?」


「お前は冒険者ギルドをなんだとおもってるんだ? 冒険者ギルドじゃ基本張ってある依頼しか受けられねぇ。依頼が出されなきゃ交渉もできねぇ。俺たちはゲールにすぐに向かうんだ、明日ゲールに向かいますなんていう商人が、いつ相手が来るかもわからねぇ依頼を出すはずがねぇ。それだったらギルドの酒場で交渉を持ち掛けるからな。仮にそんな都合のいい商人がいたとしても、そいつは間違いなく信用ならねぇ。だからこっちから探す。そうなると商人ギルドで紹介してもらって交渉したほうがはえぇんだよ」



 そういうものなのか。



「それにだ、冒険者ギルドにゃ欠点がある」


「欠点? ごめん実をいうと冒険者ギルドのことは本でしか知らないから……」



 ベックの眉間の皺が濃くなり絶句している。



「おまえ……よくそれでユルグを説得できたな」


「半年間も冒険者になりたいって言い続けたからね。それに僕がアリーナ姉やノイマン兄にやられてきたことをずっと言い続けたから、かな?」


「えげつねぇ……常識知らねえのにそういうのはできるんだなお前」


「できなきゃ貴族の子供なんてやっていけないからね」


「貴族のガキが性悪に育つのにも、親だけじゃねぇ理由があるってことか……」



 まぁあと僕の場合は兄のせいもあると思う。



「それで、商人と会ってどうするの?」


「交渉すんだ。俺たちには足がねぇ。それを手に入れる。別に歩いてゲールに行けなくはねぇが、そうなると早くても十日かかる。その内半分は野宿でな。俺らだけならまだいいが子供のお前が十日も歩いて野宿もするんじゃリスクが高すぎるからな」



 それはそれで楽しそうではあるんだけど。ベックが危険だっていうならそうなんだろう。



「まぁ個人的に早くこの国を出てえってのもある。ここから国境砦マカハトまでは馬車なら一日、徒歩だと二日か三日だ。お前の姉ちゃんは勇者で大貴族だ、国からは特別な任務でもない限り出られないだろう。逆を言えば国内なら何でもできる。そうなると、早く出たいだろ?」



 馬車旅が楽しみだ! 一刻も早く馬車に乗ろう。きっと徒歩なんかより素晴らしい旅が待っているに違いない!



「なぁなぁー俺ひまだぞー」



 ミサトリアが僕の服の裾を引っ張る。


 僕はもっと世の中のことを知っておきたいんだが。


 無視してベックと話を続ける。ベックもミサトリアの言動に慣れているのか、いないものとして扱っている。



「交渉内容は? どういう風に交渉するの?」


「基本はこっちがゲールに行くことを伝えて、俺たちを護衛として雇わないか? って感じだな。それが感触悪かったら同行させてもらえないか。それでもだめなら金を払ってこっちが雇うかだな」



 なるほど、相手次第という感じか。



「じゃあゲールに行く人自体がいなかったら?」


「中立都市ゲールは三国の中継地点だからな。いないことはめったにねぇ……が、いなかったら暇な馬車持ちの商人捕まえて一緒にゲールに行かねぇかと持ち掛ける。それでもだめなら徒歩だな」


「俺は徒歩でもいいぞ! そのほうがニコラスにいろいろと教えてあげられる! ニコラスもそのほうがいいだろ!」


「却下で。今は一刻でも早く国から出たい」



 ミサトリアが口を開けて固まっている。


 旅のことをゆっくり教えてもらうのは魅力的だけど、今は知識より安全確保だ。


 受付の女性が戻ってきた。



「お待たせしました。直近でゲールに行く予定の方は三十八名把握できました。ご希望を言っていただければもう少し絞れますが」


「思ったより多いな、俺たちに取っちゃ朗報だが、ゲールで何かあったのか?」


「詳しいことは会員様でないと伝えられませんが、ゲールでは現在食料が不足し高騰しているようです」


「嫌な感じだな。不作でもあったのか?」


「すみませんがお答えできません」


「そうか、商人がこぞって出入りしてるってことは戦争とかじゃあねぇな。中立都市が戦争になるわきゃねぇしな」



 中立都市が戦争になるのは僕も考えられない。万が一にでも戦争にならないような国を選んだのだ。そもそも国であって国でない都市なので戦争自体が成り立たない。



「キャラバンと個人を分け、明日出る奴を教えてくれ。それといたらでいいが帰るだけの荷物のねぇ奴とかいたら、日付関係なく教えてくれ」


「明日出るキャラバンはありません。個人ですと二名ほど。荷無しはいません」



 間をおかず流ちょうに答える受付女性。全部覚えてきたのだろう、すごい。



「その二名ってのは会えるか?」


「可能です」


「二人の特徴を」


「公開情報をお買い上げいただくのであれば一人につき銀貨五枚と個人を証明するものが必要です」



 ベックが腰の小袋からお金を取り出す。



「情報をたのむ。片方だけと会う」



 カウンターに出されたのは金貨一枚と銀五貨枚だった。


 ベックが金貨を受付女性の手元に滑らす。


 受付女性は滑らかに袖に入れた。なにか今、世間の闇を見ている気がする。



「一人はガンダランダ商会のベテランの商人です。出立は明日、主に食料を運ぶようです。ドワーフの男性です。護衛は専属のものが四人ほどついています。もう一人はミザリナ商店の次男です。こちらは移動申請が先月に出ているので移転、もしくは移住かもしれません」


「そうか、ベテランのほうがいいが専属がいるんじゃ交渉にならねえな。ミザリナ商店の次男坊ってのを紹介してくれ」


「承知しました。書類は依頼、交渉、どちらで作成しますか?」


「交渉で頼む」


「では少々お待ちください」



 受付女性がまた奥に消えた。



「ベック、さっき渡していた金貨は? それと情報料が一人分だったけど」


「何言ってんだ? 金貨なんざ渡しちゃいねーし、そもそも最初から一人の情報しかおれぁ聞いてねえぞ」



 ベックが僕のお腹をつねる。けっこう痛い。


 とりあえず悪いことをしているというのはわかった。悪いというか生活の知恵なのかな?


 なんにせよここで聞くのは不味いということだ。僕は黙ることにする。



「ミサトリア、坊主と二人で買い出ししてこい。こいつがいるといろいろと邪魔だ」


「いやっほーい! ひまでひまで死にそうだったぜ! いくぞニコラス! お姉ちゃんとお買い物だぁ!」



 厄介払いされてしまった。書類作成とかみたかったのに。




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