表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/51

取捨選択




「これはいるーこれはいらなーい。これはー、うーんいらなーい」



 荷物が仕分けされていく。ミサトリアの仕分けはルーサの何倍も速い。いやルーサが遅すぎただけか?


 箱貸家の中はただの倉庫だった。入口にカウンターがありそこで手続きするとカウンター隣の扉から別の広い部屋に通された。


 その後従業員が魔法で大きな木箱を部屋に入れ箱を開いたら部屋を出ていく。


 そこで僕たちは荷物の仕分けをしている。


 どうやら箱貸家というのは名前の通り箱を貸してくれる店のようだった。ベックに聞くと冒険者が金以外の大きな荷物を預けるときによく使うものらしい。いつか僕も世話になるかもしれない。


 荷物の仕分けに僕は何も言わない。何が必要なのかわからないからだ。


 仕分けされていく荷物を見て勉強する。


 僕の荷物の仕分けも頼んであるのでどれだけ準備を間違えたかわかるだろう。



「いらなーい、いらなーい、いらなーい、いらなーい」



 ほとんどが『いらなーい』の場所に置かれていく。


 ミサトリアが僕の荷物の仕分けに入った。



「いらなーい、いらなーい、いらなーい。お、図鑑だ、しかも専門書だし。んーいらなーい」



 本が旅から消え去った。



「いらなーいいらなーい」



 軽快に仕分けされていく。小さな体で手際よく働く姿は少し嫉妬する。


 昨日知ったことだがミサトリアはドワーフという種族らしい。初めて見た。僕がいたアーヴェンジェフ公国の北、中立都市ゲールの北の山によくいるらしい。その山を超えるとドワーフの王国があるのだとか。


 寿命は三百から四百年、百歳代のミサトリアもまだ若者らしい。実はミサトリアには申し訳ないが、それを聞いた今なら僕もベックがばばあと連呼する気持ちがわかる。


 まだ百歳が若者ときいて頭で理解ができないのだ。ちなみに正確な年齢を聞いたら怒られた。


 ドワーフは基本的に背が低く力が強いらしい。男は髭もじゃ女は子供とたまに髭もじゃ。ベックも最初はドワーフの女性を見分けるのは苦労したとか。見分け方を聞いたら『陰気くせぇ穴倉っぽいにおい』がする子供がドワーフらしい、ほかは見た目ですぐわかるってさ。


 覚えた知識を反芻するとなぜかミサトリアに睨まれていた。いけない、頼んだのだからそこから学ばなければ。


 仕分けが再開される。



「いらない、いらない、いらない、いる、いらない」



 心なしか声のトーンが低い。なんだろう。



「いらない、ん、モルトナの香水じゃん! わたしがいるー!」



 平民は香水をつけないんじゃなかったのか。


 香水を大事そうに胸に抱きちらちらとこちらを見ている。


 よくわからないがうなづいておく。判断は任せているからね。


 なぜ喜んでいるのかあとでベックに聞いておこう。



「いらなーい、いらなーい、いるーぅ」



 上機嫌になっている、なんなのだろう。



「いらなーい、おもっ、これは!」



 いそいでそれを奪う。捨てられてはかなわない。それに僕のことを金の生る木といったミサトリアに触らせるのが怖い。


 お金だ。



「っち、いらなーい、いらなーい、いらなーい」



 何事もなく再開される。よかった。


 僕が用意した荷物のほとんどがいらないもののようだった。わかってはいたが少し落ち込む。



「かばんおーわりー。あとはーお? なんでメイス? 戦槌もってたよな? それにボロボロだし」



 僕が腰につけていた鋼の棍棒だ。



「予備武器か? ニコラスって聖騎士めざしてんのか?」



 ミサトリアがこちらを見上げているので棍棒を受け取る。


 旅に出るとき腰につけていた稽古用の鋼の棍棒。



「いや、ちょっと思い入れのあるものなんだ」



 そういって僕はそれを『いらなーい』の場所に置く。



「……いいのか? 大事なものなんじゃないのか?」


「そうだね、大事なものだ。でも、もういいかなって」


「……そっか……いらない、いらなーい」



 あの棍棒は初めて姉を殴れた思い出の品だ。姉が学園に旅立つときに、僕を抱きしめようとしてきたからあの棍棒で頭をぶんなぐった。


 初めて姉にやり返せた記念の品だ。


 姉はケガも何もしなかったけどそのあと泣いて出て行った。姉への初勝利。


 だけど今はみんなにもらった戦槌がある。荷物になるだけだ。


 役に立たないのなら捨てるしかない。



「いらなーいっと。おわったー! ベックそっちはー?」



 見事に仕分けされてしまった。残ったものはほとんどない。


 僕の荷物で残ったものはお金と武器と背嚢。あとどこかに行った香水だけだ。


 要は全部いらないものだった。


 メイドたちが馬車に積んだ荷物のいくつかは残っているが、それもほとんど捨てるようだ。馬車がなければ邪魔になるものが多かったのだろう。



「あぁこっちも終わった。しかしまぁ見事にいらねぇものだらけだな」



 積みあがった捨てる物たちをみてベックが感嘆する。



「ニコラスの荷物はほとんど買いなおしだね。食器とか陶器製でびっくりしたよ」



 家に陶器製のものしかなかったのだ。メイドに頼んでも陶器製のしかかってこないし、それでいいんだと思っていた。



「っかぁーこれだから貴族のぼんぼんは」


「うるさい」


「っは、言い返せるようにはなったみてぇだな」


「うっせぇ!」


「言葉が貧弱すぎて意味ねぇわ、裏通りでケツ穴剥かれてから出直しな」


「ベック……そんなことが」



 かわいそうにベック。



「ちげぇ! 例えだ例え! 真面目に受け取るな!」


「ミサトリアー聞いてくれよーベックが裏通りであいたっ」



 殴られた。調子に乗りすぎたみたいだ。いや、過去を隠したいだけかもしれない。


 その後従業員を呼んでいらないものの買い取り鑑定をし始めた。どうやらここで買取もやっているようだった。


 しばらく待つと金額が提示される。ちゃんと僕の家の荷物とベックたちの荷物で分けてあったらしく別々に値段を言われた。


 相場などわからないのでベックに託す。



「んーまぁいいんじゃねぇか。ここでごねても街を回って売りまわることになるからな、それで売っとけ」


「わかった」



 従業員にそれでいいと伝える。


 お金を持ってきた。革袋はサービスらしい。


 そのまま背嚢に入れようとしたらミサトリアが『お金は目の前で数えてから受け取るのが基本だ』と教えてくれたので数える。


 いわれた数より少なかった。


 ベックが従業員の胸倉をつかんで脅している。


 慌てて後ろからもう一人従業員が来てお金を置いていった。


 今度は少し数が多かった。


 返そうとすると従業員に頭を下げられ断られた。


 そんなひと悶着を終え外に出る。


 今持っているのは背負った戦槌とお金の入った背嚢だけだ。



「坊主、それをよこせ。お前が持ってるとすられそうだ」



 背嚢をベックに渡す。



「なっ重っ! お前いったいいくら持ってきた!」



 そういえばいくら入っているのか数えていない。



「んーと僕のお金全部。コツコツ貯めたからそれなりにはあると思うけど。あ、護衛代払うの忘れてた! いくらでいいの?」


「依頼料ならお前の兄貴からもうもらっってっから大丈夫だ。それよりもこんな重い量は持ち歩けねえ。買い出し終わったら両替屋だな」



 どうやら兄が依頼料を払っていたらしい。僕の本を燃やしやがったし感謝はしない。と、言いたいが礼には礼をだ。感謝を祈るだけはやっておく。



「ベックベック、みてくれこれ! モルトナの香水! ニコラスがくれたんだいいだろー!」



 とても晴れやかな顔で僕の香水を自慢している。あげたつもりはない。


 まぁいいか。


 ベックが目線だけで僕を見ていた。よくわからないのでとりあえず睨んでみた。



「意味ねぇ睨みはトラブルのもとだ、やめとけ。ったく、そういうところはユルグに似てんだな」



 父と血がつながっていなかったら家が大変なことになるのでやめてくれ。


 それとミサトリア、僕の背嚢を物欲しそうに見ないでくれ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ