第2話 狙う者たち
ーーー時は遡る
空を飛ぶ馬車『宇宙馬』がひく荷台の中でアキヒコはツユラに声をかけた。
「ツユラさん」
「なにかな、アキヒコくん」
「修理って大体どれくらいで終わるものなんですか?」
「ヒビの程度にもよるけど、王様との会談、ヒビの具合把握、修理着工、完了で……大体1週間もあれば終わるかな」
ちなみに最長で1ヶ月と人差し指で示す、ツユラ。
アキヒコは「そうなんすね……」と納得しようにも難しい顔をした。
「なによその顔」
ツユラがつまらないというような顔をする。
「まあとにかく! 私たちはそのヒビを治す役割を担ってるわけ。ちゃんとこなすのよ?」
「分かってますよ」
「返事はちゃんとする!」
ツユラがアキヒコの耳たぶを引っ張った。
地味に痛いし、ウイトもレイメイも助けようとしない。
なんでやねん!
そう内心で突っ込みつつも、地味に痛いのは正直しんどい。
「分かりましたって! 痛い痛い!耳引っ張らないでくださいよ、ツユラさん!」
「分かったならはじめから返事する!」
「すいません!」
涙目になりながら謝るアキヒコに、指を突きつけて笑うレイメイを、アキヒコはウイトと一緒にぶん殴っていた。
そしてテレムジアに辿り着く。
蒸気都市テレムジア
その都市は、奥に聳え立つ城の内部にあるコアによって賄われるエネルギーが、電線のようなものから住宅、商店に伝播される。
その際に生じた『力の名残』が蒸気となって現れるらしい。
空が黒々としているが害はないと、ツユラは話していた。
とはいえ
「一番、空を黒く染めてるのはぼんやり紫色に光ってるあの城ですよね。あれが依頼もと」
アキヒコがそう呟くとツユラは言った。
「そう、向かう場所はあの城。割とでかいでしょ? 庭園もあるのよ。ちなみに、空を黒く染めても害はない……とは言っても」
ため息をついて
「少し不気味よね」
まあ仕事だから毎回来てるけど、この空だけはなれないわ
言いながら遠い目をするツユラを見て、「俺も同感」と苦笑した。
ウイトとレイメイは互いに頬をつねり合いながら口喧嘩をしていた。
「あれいつもなのか?」
「そうそうーーーまあ気にせず」
そうこうしていると、城の巨大な門前に着いた。
そもそも城が見上げても全容が掴めないほどの大きさなのだ。
ーーーえぐいデカさだな、さすがは異世界
口をあんぐり開けそうになりながらも耐える。
「衛兵というか門を守る人はいないのか?」
「出払ってるみたいね。まあ私たちは顔パスきいてるからどうとでもなるけど」
言いながらツユラは門に手をかざす。
すると両扉の隙間に蒼い光が走り、少しずつ開いてきた。
「これ私たちだから開くけど、他の人が無理矢理入ろうとすると魔法防衛式プログラムが働いて、粉微塵に吹っ飛ぶから気をつけて」
ーーー衛兵さんいらなくね?
防犯対策きっちりしてんじゃないかと内心突っ込むアキヒコだった。
門を抜けて、庭園に入るとーーー使用人なのか、羽織を着た女性が湧き出る噴水の傍に建てられた小屋の前に立っていた。
「あの人は……使用人?」
アキヒコが聞く。
ツユラは目を細めた。
「いや……見かけないかな」
ツユラは短く指示を飛ばした。
「ウイト、行って」
「分かった」
言いながらウイトはものの数秒で遠ざかっていった。
「ーーーはや」
驚くアキヒコを横目に見やり、レイメイはアキヒコの手を引く。
「任せていいのか?」
引っ張られながらアキヒコは聞く。
レイメイは「構わん構わん」と笑った。
「ウイトの膂力は並じゃないからな。任せて俺たちは城にさっさと入ろうぜ、見ろよあの階段。
段差いくつあんだか」
レイメイの指さす先は、100段以上も連なる階段だった。
山の中にある神社に続く階段みたいだ
家族と一緒によくいったっけな
と考えて、アキヒコは眉をひそめた。
ーーー無事だろうか
「アキヒコ、依頼に集中」
「ごめん、ツユラ」
「いいってことよ。さ、レイメイに投げ飛ばされる前にさっさとのぼっちゃいなさい」
「そうだぞー、遅いと段差に頭からダイブする羽目になるぜ」
ケラケラと笑うレイメイ。
アキヒコは「このやろ……」と毒づきながらも、レイメイに続いて階段をのぼっていった。
ツユラは軽やかに階段を登っていっている。
汗もなければ、息も荒げていない。
風のような速さだった。
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
ーーー小屋の前で
一人は黒いコートを羽織った女
もう1人はウイト
その2人が睨み合っていた。
「あんた怪しいけど一体何者?」
「嬢ちゃんに話すことはないよ、おとといきやがれってんだ」
ウイトはため息を吐くと、バングルで呼び出した刀を抜き放ち、壁を斬りつける。
瞬間、爆散した。
刀剣能力は解放していない。
ただの膂力だ。
女は冷や汗を垂らしながらも言う。
「おいおい、嬢ちゃん怪力すぎだろ?
一回、刀を振り抜いただけで壁が半壊って相当いっちゃってるな」
「おばさんに言われたくないよ、ケバいなりしてさ。年齢を考えたら?」
「なにを……。私たちの仲間を人柱にしておいてその態度、やはりジャンパーズは死ぬべきだ」
女が構えると荊が地面から這い出してきた。
そして少しずつ女の身体が浮かび上がる。
荊は蛇のようにとぐろを巻きながら触手のごとくゆらゆらとゆらめいていた。
それが7本も伸びている。
(空中浮遊と……特殊な荊のようだね、ぼんやりとだけど光ってる)
思考しながら現状把握しつつ、ウイトは煽るように言う。
「人柱〜? 呪法インカナムかしら? 私たちがそんなんに関係してるわけないでしょ。むしろ四世を守るために動いてるのよ、もしかして疑ってんの?」
女が無言を返す。
ウイトは大袈裟にため息を吐くと、
「分かった。色々言い腐っておいて失礼にも程があるから100倍にして返してやるよ。その罪を詫びながら吹き飛ばされな」
そう呟いて拳を握った。
「は!……誰があんたみたいなクソガキに吹き飛ばされるかよ、荊に巻き込まれて死に晒せ!」
荊が飛んでくる。
それを拳で叩き込んだ。
ミシミシと軋みを上げながら吹き飛ぶ。
「な……に……!」
驚く女に、「まだ終わらないよ、次は私の跳躍能力を見せてあげる」とウイトは不敵に笑った。
「跳躍起動ーーー! 時間跳躍!」
告げると同時
ウイトの身体が瞬間的に消えた。
いやーーー時計のような紋様が刹那的にだけ見えていた。
けれど、それだけ。
残像すらなく姿形が掻き消えた。
「は……! 時間跳躍だとか言いながら、逃げ腰かよ! 舐めてんじゃないよ、クソアマが!」
女が潰れた荊以外の6本に即座に意思を伝える。全方位に向かって蹂躙せよ、と。
荊は轟音を放ちながら、庭園の噴水、小屋、城内部へと続く階段をも破壊し尽くして、最後にはウイトも吹き飛ばされて内臓を撒き散らし、死ぬ。
その運命を迎え、ジャンパーズは終わるーーーはずだった。
鐘の音がした。
刻限を告げるような音とともに世界が時を止める。
影が、伸びる。
「なに……これ……」
自分だけじゃない
全てが影を伸ばしている。
太陽などこの都市にはないのに。
蒸気によって隠されているはずなのに!
世界も、なぜか蒼く碧く輝いている気がした。
しかしーーー気づけば、自分の身体の左半身は血みどろに斬られていた。
「ぐ……!」
悲鳴はあげない。
膝もつくものか。
涙目になりながら、周囲を見回す。
姿は相変わらず見えない。
影も全て伸びたままだ。
「出てこい!! 逃げてんじゃないぞ!」
『逃げてないわよ、勝手に決めつけないでくれる? そもそもそっちから襲ってきたんでしょ、ほら、隠れてるわけじゃないんだからさっさと続きをどうぞ?』
「舐めやがって……!」
『ああ、そっちじゃないってばーーーまあ、死ぬまで切り裂き続けるけどね。もっとも刻限を告げる鐘がもう一度鳴り響いた時、あなたは人の形をしていないと思うけど』
「うぜえ……調子に乗りやがって……!」
しかしーーー女の攻撃は当たらず、ただ斬られ続け。
けれど、一本は防刃チョッキのように服に忍ばせたためにある程度のダメージは軽減できた。
刻限を告げる鐘が鳴った時
荊が破壊した箇所は全てが治り、けれど、女の身体はズタズタに斬られ、砲弾を撃ち込まれたかのようにぐちゃぐちゃになった右手が激しく傷んだ。
がああ……!
悲鳴をあげたくなる。
けれど、怒りがそれを許さない。
報告をせねば。
ーーー防刃までしたのが悔しいが、生きているだけいい。さっさとリーダーのもとへ
その想いだけで、女はその場から逃げ去った。
「ち……口悪いから頭回らないと思ったのに」
ウイトは能力を解除して現れると、小石を蹴り飛ばした。
ーーーーーーーー
城内とある場所で。
「はあはあ……! あのドワーフ、怪力だけじゃなくて跳躍能力も異次元すぎる! なんだよ、時間跳躍って! ……この私が、逃げなきゃいけないなんて! はあ!……くそ!」
絶対目にものを見せてやる
そうして女はどす黒い殺意を燃やした。




