第2話 あなたで4人目(ぜんいん)よ
「さてさて私の事務所まで案内するわ、着いてきなさい」
そう言いながら裸のままで歩き出すツユラと名乗る女の手を慌てて引き止める。
その時だった。
髪で隠れていた、うなじ部分になにかの紋様が見えた。
「ツユラ、そのーーー」
「あら、もう行為とかはいいのに。呪いも、異性が同じ部屋にいるだけで勝手に解けるから気にしなくてよかったのに」
「は??」
「意中の相手と……っていうのは冗談よ」
「冗談なのかよ!!」
「でも、あなたには不思議と引き寄せられるのは事実」
そう言ってツユラは笑った。
それが妖艶に見えて、アキヒコは少しドキッとした。
「引き寄せられるって一体どういう……あ、外出るな! 服着ろって! 今、魚じゃないだろお前!」
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
なんやかんやあり、甘味処でお茶と何やら蠢くお菓子をいただいていた。
なんとか食べることができたがどっと疲れがきてアキヒコは机に突っ伏す。
「女性を目の前にして、男の君がそう言う態度なのはどうかと思うぞ〜。せっかく事務所に行く前に蠢くシリーズの「ドキッ!宇宙生物アメ綿菓子ソテー」とお茶を買ってあげたのに」
「大体があんたのせいだ!! お菓子をご馳走になったのは嬉しいけど、蠢くシリーズなんて買うな〜!」
てか、なんで噛んで飲み込もうとする度にうぞうぞ動くんだよ、ビビるわ!
宇宙生物のアメ綿菓子ソテーってどれなんだよ
ぶつぶつといいながらもアキヒコは彼女の顔を見た。
彼女は不意に笑んで
「アキヒコのそういうだらしない感じも見れたことだし、じゃあ、本題に行きたいと思いまーす」
「どう言うことだコラ!!」
「んじゃ、払っておくから勝手に着いてきて〜。
遅れたら倍額働いて返してね」
「ちょっ! 待てって!」
慌ててツユラと名乗る女の後ろを着いて行った。
しばらくして事務所前に着いた。
簡素な作りだが、木造だし支柱が漆塗りされていて高級感がある。
扉を開けて中に入ると膨大な数の資料が積まれたデスクの両脇に、2人の男女が立っていた。
女の方は、女の子と言った方が正しいかもしれない。
今年10歳になったばかりのように見える。
「私たちは異能の刀を召喚できるこのバングルを装着してる。私のはこれよ」
ツユラは言いながら右手首に装着した金属質に輝く腕輪を見せた。
よく見ると、蛇のような龍のような紋様が刻まれていた。
尾を噛むウロボロスのような形をしている。
そして、尾を噛んでいるところが赤い宝石のようなものが綺麗にはまっていた。
「綺麗だな」
「でしょ? ちなみに他の2人も、色や紋様も違うそれぞれのバングルを装着しているわ」
ほお、とアキヒコは覗き見る。
「で、異能の刀を召喚? どう言うことだ」
「分かりやすく言えば、振り切った時に炎の刃が飛ぶとかそんな感じの刀を、このバングルがあることで時空の渦から引き出せるわけ」
「へええ、それは俺もできるのか?」
「できるとは思うけど……あなたはそもそもまだ、『ジャンパー』の能力を解放してないから異能の刀を召喚してもその異能が発動しないと思うよ」
「じゃ、ジャンパー??? 上着?」
「違うわ、バカなの?」
「バカは言い過ぎ」
「こういう感じの異能の刀よ。見てて」
「聞けよ!」
無視してツユラは話を続ける。
私のは破邪の龍砲って言うのでね、とんでもない威力で敵をこの世から抹消できる砲撃を放てて、とツユラがウキウキした表情でバングルに手を当てる。
《時空の渦》が現れ出した。闇と微かな星を渦巻くようにして、ぐるぐると回転している。
その向こうから少しずつ刀の柄が見えてきた。
「ツユラ、待った〜〜!」
レイメイとウイトがバングルに手を当てたツユラの手を押さえた。
何やら怯えた様子だった。
「お前、それやったらここら一体吹き飛ぶだろ!
会敵してからでいいんじゃないかな!?」
「そうそう! 修繕費とかもバカにならなくなっちゃうからマジで勘弁してください、だんちょー!」
ええ〜と言いながら、何やら嬉しそうなツユラ。
その光景をみながら、異世界の人間関係もいいもんだなとアキヒコは思った。
ツユラに「これがあなたのバングルよ。改めてよろしくね」と言われながら、バングルを渡された。
何も刻印がない無地。
「ああ、それと夜、話があるから」
レイメイとウイトに何やら憂いた顔で「がんばって」と肩に手を置かれて、意味が分からなかった。
夜
ツユラに言われ、路地に出る。
「明日、一つ目の依頼を受注してもらいます。事務所に入るためのテストでもあるわね。そこで示しなさい、あなたが有用であると」
「待ってくれ」
「怖気ついたの?」
「違う。」アキヒコは首を横に振った。
「俺はお前に認められたんじゃないのか? バングルだってもらったのに、いきなり依頼も受けろってどう言うことだよ」
「言ったでしょ?」
ツユラはため息をつく。
わざとらしく大きく。
そして言った。
「異能の刀を召喚しても能力が使えなければ、意味がないって。ただの鈍な刀で一体何ができるの? 」
「で、でも、俺は……!」
「それに!」
ツユラが言葉を遮った。
「私たちは、『四世』を股にかける大役を担っている。だからこそ、あなたには明日の依頼で死を体感してもらい、『ジャンパー』を開花してもらう。それができなければ敵に殺されるかこの世界で野垂れ死になさい」
「分からないことだらけだけど……まず『ジャンパー』ってのはなんなんだ? 開花させるにしてもそれをみたこともない俺が発動なんて難しい。見せてくれないか?」
無言を返すツユラ。
本当に心までも雪女になってしまったかのような冷徹な面持ち、そして視線。
けれど、アキヒコはすがる。
「俺に、教えてくれよ……頼むから」
そもそもだ。
現実世界で殺されてこの世界に来た。
その段階で意味がわからないのに、混迷極まる世界で、能力を開花させろ?
それができなければ死ね?
過酷がすぎる。
混乱に混乱が凄まじく、アキヒコは頭がおかしくなりそうだった。
アキヒコのすがるような目に、ツユラはやっとため息をついて
「分かった。明日、手本を見せるわ。今日のところは休みなさい」
そう言って背を向けて去っていった。
アキヒコはその背中に
「ありがとう」
そう、呟いた。
急に冷たくなっても、ツユラはツユラらしくあるんだなとアキヒコは思った。
それが間違いだったことに、気づくまでは。




