↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

69/72

第10話 交わる視線④


 透たちは教会の正門前に集まっていた。


 透が客室へ戻って準備したものといえば、水を入れた革袋と、動きやすいよう改めて締め直した靴くらいだった。武器も防具もない以上、見た目だけなら普段ガルドの店へ働きに行く時と大きく変わらない。


 違うのは、周囲にいる人間たちだった。

 先頭にはアルト。その少し後ろに、これまでの調査にも参加していたという二人の冒険者が並んでいる。片方は大きな盾を持つ三十代ほどの男、もう一人は短めの槍を携えた女性だった。

 後方にはハインと、教会所属の術者が二人。

 マルタは同行しない。

 今回は教会側の調整や、万が一負傷者が出た場合の受け入れを担当するらしく、現場での指揮はハインが執ることになっていた。

 そして透と澪は、予定通り隊列の中央に入る。

「本当にこれで全員?」

 澪が周囲を確認しながら尋ねる。

「少ないか?」

 すぐ前にいたアルトが振り返る。

「もっと大人数で行くのかと思ってた」

「人数増やせば安全になるってもんでもないからな。狭い場所じゃ邪魔になるし、守る対象が増えればその分面倒になる」

「私たちは守る対象なんだ」

「戦えないならそうなるだろ」

「言い方」

「事実だろ」

 また始まった。

 透は二人のやり取りを聞きながらも、アルトの言葉そのものには納得していた。

 前回より人数は多いが、十人を超えるような大所帯ではない。墓地内部の道幅や納骨堂周辺の状況を考えれば、無闇に人数を増やせば身動きが取りにくくなるのだろう。

 それに、今回の目的はレイスを片端から倒すことではない。

 黒い靄を確認し、その流れを追う。

 必要なのは戦力だけではなく、隊列を崩さず動ける人数なのだ。

「では、行きましょう」

 ハインの声を合図に、一行は教会を離れた。

     ♢



 旧墓地へ向かう道は、透にとって二度目だった。

 前回は、これから何が起きるのか分からないままハインたちについて歩いていた。

 今回は違う。

 目的も、危険も、ある程度は理解している。

 そのせいか、同じ道でも見え方が違った。

 町の中心部を抜け、建物が少なくなるにつれて人通りも減っていく。やがて舗装された道から外れ、雑草の多い細い道へ入る頃には、街の喧騒はほとんど聞こえなくなっていた。

「そういえば」

 前を歩いていたアルトが、歩調を変えないまま声を掛けてくる。

「トオルって本当に冒険者じゃないんだよな?」

「違います」

「身体の動かし方は素人っぽくないけど」

 透は少しだけ意外に感じた。

 まだまともに動いているところを見せた覚えはない。

「歩いてるだけで分かるんですか?」

「全部は分からん。でも、完全に身体使ってない奴とは違う」

「ボクシングを少しかじってました」

「ボクシング?」

「俺の国の格闘技です。拳で戦う」

「やっぱ殴るんじゃねえか」

 アルトが笑う。

「戦えるってほどじゃないです」

「それは実際に見ないと分からんな」

「見なくていいです」

「何でだよ」

「今日は戦いに来てないので」

「真面目だなあ」

 アルトは軽く笑ったが、透はそれ以上話を広げなかった。

 前回の経験から、自分がレイス相手に何ができるかは分かっている。

 普通に殴っても効かない。

 あの光が出れば別だが、再現できない以上、そこへ期待する理由もない。

 自分の役割は黒い靄の観察。

 それだけに集中するべきだった。

「ミオは?」

 アルトが今度は澪へ話を振る。

「何が?」

「何かできるのか?」

「黒い靄が見える」

「それ以外」

「しゃべれる」

「知ってる」

「考えられる」

「それも見れば分かる」

「透にツッコミ入れられる」

「それ必要か?」

「かなり」

「どこで使うんだよ」

「日常」

 アルトが声を上げて笑った。

 澪も得意げな顔をしている。

 透は聞かなかったことにした。

 ただ、そんな会話をしながら歩いているせいか、前回より空気は重くない。

 墓地へ向かっている事実は変わらないのに、周囲に経験者が増え、自分たちの役割もはっきりしているだけで精神的な余裕が違う。

 それでも、遠くに崩れかけた石壁が見えた瞬間、透の意識は自然に引き締まった。

 旧墓地。

 入口が見えてきた。

「ここからは気を抜かないでください」

 ハインが全員へ声を掛ける。

 アルトたちの雰囲気も変わった。

 さっきまで軽口を叩いていた男が、背中の剣へ手を伸ばす。抜きはしないが、いつでも動けるよう身体の重心がわずかに変わった。

 透はその変化を見逃さなかった。

 話す時は軽い。

 だが、現場へ入れば切り替える。

 少なくとも、マルタたちがわざわざ呼んだ理由の一端は理解できた。

     ♢

 墓地の入口には、以前よりもはっきりした封鎖の痕跡が残っていた。

 道の両脇に簡易的な杭が打たれ、その間へ細い縄が渡されている。さらに地面には、透には読めない文字と幾何学模様を組み合わせたような術式が描かれていた。

 ハインが入口付近へしゃがみ込み、透明石を取り出す。

「まず、ここで確認します」

 透と澪も前へ出た。

 ただし、隊列から離れすぎない。

 昨日決めた通り、二人は互いに先に答えを言わないようにする。

「どうする?」

 澪が小声で聞く。

「別々に見る。場所が決まったら同時に指す」

「せーので?」

「声はいらないだろ」

「雰囲気大事って言ったじゃん」

「昨日の話まだ引っ張るのか」

「じゃあ、せーのでね」

 透は諦めた。

 目を閉じる必要はない。

 一度互いを見ないようにし、それぞれ墓地全体を確認する。

 前回。

 黒い靄は墓地の奥へ向かうほど濃くなっていた。

 入口付近にも薄く漂ってはいたが、目立つほどではなかった。

 今回は。

 透は眉を寄せた。

 ある。

 しかも、以前より分かりやすい。

 薄い煙のようなものが墓地の地面近くを漂い、ところどころ墓石の隙間へ絡みつくように滞留している。

 風は吹いている。

 雑草は揺れている。

 だが、黒い靄は同じ方向へ流されていない。

 煙とは違う。

「決まった?」

 澪が聞く。

「ああ」

「せーの」

 二人が同時に腕を伸ばした。

 指した方向は、ほぼ同じ。

 入口から見て右奥。

 墓地中央へ続く道の先だった。


 読んでいただきありがとうございます!


 昨日の投稿で初めて200PV越えました! お休みの方もそうじゃない方もお疲れ様でした。そして感謝を(泣)


 もしよろしければ、また来ていただけると大変喜びます。ブックマークしていただけたら更に喜びます(汗)


 それでは、次の話で!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。