第7話 できること⑥
その後も検査は続けられた。
距離を変え向きを変える。
互いを見る場合と、視界から外す場合。
澪だけが意識を集中する場合。
透側から繋がりへ注意を向ける場合。
さらに安全な範囲で、驚きや軽い刺激も加えた。
それでも、先ほどのような反応は再現できなかった。
結局、午前中いっぱいを使って得られた情報は多くなかった。
透単独の魔力量は平均的。
魔力の偏りも、現時点では特別なものは確認できない。
澪が意図して力を送ろうとしても、反応は起きない。
ただし、相手への危機感が、考えるより先に湧き上がった時、魂の繋がりに、ごく弱い変化が現れる可能性がある。
確定ではない。
だが昨日よりは一歩進んだ。
透にとっては、それで十分だった。
知らないものを無理に名前へ押し込めるより、分かった範囲だけ積み上げる方がいい。
間違った理解を早く得るより、遅くても正しい方がましだ。
「今日はここまでじゃな」
マルタが器具を片づけ始める。
「これ以上続けても、疲れるだけじゃろうて」
「ありがとうございました」
透も素直に頷いた。
集中していただけでも、意外と疲労が溜まっている。
「午後はどうするの?」
澪が尋ねる。
検査が終わった途端、声にいつもの軽さが戻っていた。
「ガルドさんのところに行く」
「あ」
「仕事の話、してただろ」
「今日から?」
「始められるならな」
昨日は墓地探索で今日は朝から検査。
それだけで一日を終えても、誰も責めはしないだろう。
だが透たちは、この世界で生活を続けなければならない。
帰還方法が明日に見つかる保証はない。
一週間後かもしれないし一か月後かもしれない。
もっと先になる可能性だってある。
その間ずっと教会に食事も部屋も任せ、借りた金で生活するつもりはなかった。
文字を覚え、金を稼ぎこの世界の生活を知りそして常識を学ぶ。
どれも帰還の謎とは直接関係ない。
それでも、生きるためには必要なことだ。
帰還方法だけを追っていても、生活が成立するわけではない。
「無理はするなよ」
マルタが念を押す。
「分かってます」
「右手も使いすぎるでないぞ」
「はい」
「背中もまだ傷むんじゃろ?」
「……はい」
「全部じゃん」
澪が笑う。
「笑ってる場合か。お前も働く気なら、自分にできること考えろよ」
「私も?」
「前に言ってただろ」
「働いていいの?」
「ガルドさんがいいって言えばな」
その瞬間、澪の表情が目に見えて明るくなった。
物は、持てないし商品にも触れられない。
普通の店仕事ならできることは限られる。
それでも、最初から諦める様子はなかった。
「じゃあ行こう!」
「まだ昼前だろ」
「早い方がいいじゃん」
「はいはい」
透は立ち上がる。
右手を一度開き、ゆっくり握る。
痛みはもうほとんど気にならなかった。
未だ力の仕組みは分からない。
黒い靄の正体も不明。
墓地の問題も、何一つ終わっていない。
それでも、分からないことばかりに意識を取られていても仕方がない。
今できることはある。
先ずは、この町で自分たちの足場を少しずつ作っていく。
その積み重ねが、結果的に帰る方法を探す余裕にもつながるはずだ。
「透、早く!」
扉の前から澪が呼ぶ。
「分かった」
透は小さく息を吐き、その後を追う。
自分にできること。
澪にできること。
そして、一人ではできなくても、二人なら届くかもしれないこと。
その境界は、まだ曖昧なままだ。
けれど昨日よりは少しだけ。
自分たちが何者なのか、その輪郭へ近づけた気がしていた。
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