↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/70

閑話 ガルド視点➁


「お父さん、笑ってる?」


 リナの声で、ガルドは我に返った。


「笑ってない」


「ちょっと笑ってたよ」


「気のせいだ」


「ふーん」


 全く信じていない顔だ。


 こういうところは、誰に似たのだろう。


 いや。


 考えるまでもない。


 ガルドは一瞬だけ、もうここにはいない妻の顔を思い浮かべた。


 妻は、リナがまだ幼かった頃に亡くなった。


 もう随分と経つ。


 娘の顔立ちは自分にも似ていると思うが、ときどき向けられる視線だけは、妻とそっくりだった。


 こちらが誤魔化そうとしている時ほど、妙に鋭い。


 それでいて、自分が正しいと思えば簡単には引かない。


 生きていれば、今の店をどう見ただろう。


 リナを見て何と言っただろう。


 そんなことを考える時は今でもある。


「なあ、リナ」


「何?」


「お前、最初からあの二人を怖がらなかったよな」


「トオルさんとミオさん?」


「ああ」


 あの日。


 ガルドが馬車を止めようか迷っていた時、最後に決め手になったのは、隣に座っていたリナだった。


 娘は、トオルとミオをしばらく見ていたがその後。


『お父さん。あの人たち困ってるんじゃない?』


 そう言った。


 ただ、それだけだ。


 だがガルドは馬車を止めた。


「だって、困ってたでしょ?」


 今もリナは当然のように言う。


「知らない相手だぞ」


「それはそうだけど」


「盗賊だったかもしれん」


「トオルさんが?」


「可能性の話だ」


「ないない」


 リナは即座に手を振った。


「何でそう思う?」


「だって、悪い人っぽくなかったもん」


「それで商人やったら三日で店潰すぞ」


「お父さんだって乗せたじゃん」


「俺は色々見て判断したんだ」


「私が乗せようって言ったからでしょ?」


「……」


 ガルドは黙った。


 リナがにやりとする。


「ほら」


「お前な」


「違う?」


「……最後の一押しにはなった」


「やっぱり」


 勝ち誇った顔。


 こういう時は、本当に頭が上がらない。


 だが、それだけではない。


 ガルドは昔から、娘の人を見る目を信用していた。


 それは、理屈ではない。


 誰にでも愛想よくするように見えて、リナは苦手な相手には意外と距離を取る。


 笑顔で接していても、決して懐には入れない。


 逆に、一度心を許した相手には驚くほど自然に近づいていく。


 幼い頃からそうだった。


 そして、その判断が大きく外れたことを、ガルドは知らない。


 商人として人を見てきた自分より、よほど当てになる時さえある。


 本人に言えば調子に乗るから、普段は絶対に言わないが。


「じゃあ、お父さんは最初、二人のこと怪しいと思ってたの?」


「当たり前だろ」


「ひどい」


「商人はそれくらいでちょうどいいんだよ」


 ガルドは腕を組む。


「身分証はない。金もない。文字も読めない。見たことのない服を着て、遺跡から出てきた。横には見たこともないくらいはっきりした霊体だぞ」


「そう言われると、すごいね」


「今気づいたのか」


「でも普通だったし」


 リナの言葉に、ガルドは少し考えた。


 普通。


 果たして、そうだろうか。


 トオルは普通の若者に見える。


 無愛想というほどではないが、愛想が良いわけでもない。


 口数も多くない。


 だが話せば礼儀はある。


 借りた金は返すと言い、仕事があるなら働くと言う。


 自分の状況が大変だからといって、他人へ横柄になる様子もない。


 店で具合を悪くしたシルを見た時もそうだった。


 放っておくこともできた。


 自分たちには関係のない話だ。


 この世界へ来たばかりで、帰る方法さえ分からない。


 そんな状態なら、自分のことで精一杯でも誰も責めない。


 それでもトオルは、シルの異変を見過ごさなかった。


 危険かもしれないと告げ、体調そのものは教会で診てもらえと言った。


 妙に慎重で。


 妙に面倒見がいい。


 あの二つは、本来あまり同居しない。


 人を簡単には信用しないくせに、困っている相手を完全には切り捨てられない。


 だから、余計なものまで背負い込む。


 昔の冒険者仲間にも、似たような奴がいた。

 そういう人間は、大抵損をする。


「……あいつは、そのうち面倒事に首を突っ込みそうだな」


「トオルさん?」


「ああ」


「もう突っ込んでない?」


「……そうだったな」


 ガルドは額を押さえた。


 昨日店で黒い靄を見つけ、今日は墓地が封鎖されている。


 何が起きたか詳しく知らなくても、無関係だったとは考えにくい。


「ただ」


 ガルドは続けた。


「自分から面倒事を探して歩くタイプにも見えん」


「そうなの?」


「むしろ避ける方だろうな」


 危険だと分かれば、無茶に踏み込まない。


 シルの黒い靄を見た時も、その場でどうにかしようとはせず、教会へ持っていった。


 あれは正しい。


 昔の自分なら、少し知識があるだけで首を突っ込んでいたかもしれない。


 そして痛い目を見る。


 実際、何度か見た。


 自分も含めて。


「じゃあ大丈夫じゃん」


「面倒事の方から寄ってきそうなんだよ」


「あー」


 リナが妙に納得した声を出した。


読んでいただきありがとうございます!


今のところ1日2〜3投稿を考えています。


もしよろしければ、また来ていただけると大変喜びます。


それでは、次の話で!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。