重ね合わせの殺人4.2
インターフォンの音で目を覚ました。いつの間にか眠っていたみたいで、時刻を調べると一時間程度が過ぎていた。再びインターフォンがなる。覚め切らないまま、モニターへ向かった。
「あ、雨坂。よかった。連絡、つかなかったから」
画面上の雨坂が「ごめん、気が付かなかった」とスマートフォンを確かめる。
よそ行きの恰好をしているので、見ている暇がなかったのかもしれない。
「七月二日は」僕は質問した。
「繰り返してるよ」
端的な返答だった。しばらく雨坂の様子をうかがう。
考え事をしているときの雨坂はよく視線が動いた。まっすぐと見てくるときは、なにかを確信しているときだった。
「原因までは、分かっていないよね」
雨坂の目つきが好戦的になる。
「そのことで話したいことが」
「場所は」
「歩きながら」
「着替える」
そう言って僕は接続を切った。
ドアを開けると雨坂が玄関前で待っていた。外へ出るのを妨げるように立ち位置を変えたので、「どういうこと」と聞かずにはいられなくなる。一歩もここから出させない意思を感じた。
「まだ白を切るつもり?」
刺すような声。細部まで徹底してくるときの雨坂だった。
「簡単な推理。誰にでも解くことができる」
僕は一拍おいて責められている対象を理解した。自分が疑われる理由が分からず、「正気?」と追求する。
「あるなしクイズの話は覚えてる?」
「情報の取捨選択の話」
カフェでそんな話をしたのを思い出す。
「私が三回繰り返した七月二日においてすべてに登場したのは鉢木くん、君だけなんだ」
その理屈が、あまりにも短絡的すぎて、僕は声が出せなかった。
「事故死の可能性、これを検証するって話で昨日は別れたんだけど……その必要性は皆無。調べるまでもなく、三度目を繰り返した時点でこの可能性を排除することができる。同じ場所、同じ時刻に、意図せず私たちが居合わせることは不可能で、考えるのは殺人の可能性だけで十分だった」
「それは――」
反例として電車時刻のことを出そうとした。これだと僕たちは意識せず、同時刻、同地点に両日とも居合わせることができる。
しかし、その反論は雨坂の主張に遮られ、飲み込まされた。
「私が出した結論はこうだった。鉢木くんが私を殺害して、そのあと鉢木くんが自殺する。それで二人は七月二日に同時に死ぬことになる」
「粗すぎる」
「私が優先するのは感覚よりも事実」
その言葉で観測者が雨坂だったときのことを考えさせられた。
僕だけが知っていることは、第三者からすると不確定要素になる。無実を証明するためには、再考の余地を提示する必要があった。
「そもそも繰り返す理由として、死ぬことが関係していることから曖昧で」
「知ってた、鉢木くんが適当なことを言ってはぐらかそうとすることも」
雨坂は肩から下げていたポーチを開ける。金属のようなものが見え、取り出されたときには刃物だと分かった。
「それは、さすがに冗談じゃ済まされない」
両手で握りしめられた刃物の先端がこちらへ向けられた。
「本気。七月二日を終わらせるには、鉢木くん、君だけを殺すしかないんだ」




