重ね合わせの殺人1.2
夢を見ていたみたいに講義を聞き終えた。
「遅刻してきて一番前の席に座る神経を俺は評価したい」
藤城がそうからかってくる。
僕は少しだけ意識を向けて「黒板が見えないから前に座る。こんな綺麗な理屈を忘れている」と適当な反論をした。
「後ろに座るほど視力が良くなるってわけかい」
「あるいは聞く必要がないほど優秀か、後から同じ内容を手に入れられる生徒か」
そこまで言って僕は、自分の発言が矛盾したことに気が付く。
前へ座る人も同様、その理由は第三者からすると実際に聞いてみるまで断定ができない。
「だから自分の頭がいかれた可能性も、まだ十分にある」
「着地で足をくじいたな」
「いや、ただ、着く場所を間違えただけ。それだけ」
藤城から「次の講義に遅れるぞ」と言われ、それもそうかと僕はまっさらなノートを閉じ次の講義へ向かった。
二限目が終わる。講義室内の喧騒が出口へ流れていった。
「おかしい」
そうぼやくと「おかしいのはお前の頭の方だ」と藤城に訂正された。
「うん、まあ」と僕は認めつつも、「今日の授業、二回目だった」と言わずにはいられなかった。
藤城は無反応だった。聞き流すと決めたように片付けを優先させている。
「まったく同じ内容の講義をつい昨日も受けた」
そう強めに言った。
「睡眠学習で先取りしたのかもな」
相手にされていない様子だったので、「冗談を言う目に見える?」と指で自分の目元を叩いた。
「見える」
「どこが」
「動揺しているところとかだな」
僕は言い返す言葉が思いつかず「藤城が百パーセント正しい」と頭を抱えた。
現在までのことを振り返る。
やはり、違和感があった。既視感を起こすことはよくあっても、おかしいのは、それが連続して起きていることだった。ふとしたときの断片的な再生ではなくて、一秒一秒がまるで再現されたかのように昨日の記憶と一致した。
あり得ない。
そう思いながらも、心のどこかで偶然かもしれないと否定しようともしていた。
「昼、どうする?」
「今日は午前中だけみたいだから、適当に済ませて帰るつもり」
「そっか。じゃまた明日な」
それが火曜日の過ごし方だった。




