重ね合わせの殺人1.1
1.
大講義室に入ると、いつもと違う雰囲気を感じ取って講義室を見上げた。
後ろへ行くにつれ段差が積みあがっていく講義室には、多くの生徒が談笑する姿がある。
必修の科目は同じ学科なら受講する生徒にほとんど違いはない。受講生全員の名前と顔が一致しなくとも、顔なら見れば分かった。
教卓、黒板、窓を順に見て、最後に学生を上段まで見ていく。講義室にいる学生を、僕は一人として知らなかった。
最前列にいる人の顔を見ても、言葉を交わすどころか、どこかで会った記憶さえない。
間違った。
そう思い大講義室を出た。
対称性のある建物で起こりがちなのは一つ隣のエリアへ来てしまうことだった。講義室の名称はアルファベットとナンバーで割り振られる。数字の意味として階数は理解できても、その他の傾向は、興味が無かったので把握していなかった。
Nが実はMだったりと、細部を見落とすことはよくあった。
どこかに貼られているはずの地図を探し歩いて、現在地を調べる。さっき間違えた講義室は。他の講義室の位置も確認した。
場所は合っていそうだった。
なのに、そこにいた生徒が違っていた。
睨んでも変わらない地図を見続けた。
休講。そう思って学生ポータルを確認した。それらしい連絡はなかった。
となると、どこか別の場所で休講あるいは場所の変更を知らされていたのを、聞いていなかった、または見ていなかった可能性が浮かんでくる。
そんな非合理的な方法が採用されるか?
頼れるのは友人しかいなかった。
藤城にメッセージを送ると、すぐに返信がくる。
時間割も確認した。
七月二日、火曜日。
僕が間違えたのは曜日のほうみたいだった。




