第1話 異世界で生誕
光があった。
瞼を開けると、白い髪の女が僕を見下ろしていた。
窓から差し込む朝の光が、長い髪の一本一本を透かしている。褐色の頬には汗が浮かび、目の縁は赤く腫れていた。女は僕と目が合うと、驚いたような顔をして息を止めた。
「―――」
次の瞬間、泣きそうな顔で笑った。
言葉は分からない。
声だけが、ひどく優しかった。
ここはどこだ?
首を動かそうとしても、ほとんど動かない。身体が布に包まれ、手足の感覚も妙に小さかった。
戸口の向こうで荒い足音がした。
のれんのように革を張っただけの扉が押しのけられ、大柄な男が飛び込んでくる。青い髪は乱れ、顎には無精ひげが伸びていた。男は女の傍へ膝をつくと、何かを確かめるように僕の顔を覗き込んだ。
「―――ッ!」
理解できない声を上げ、男は僕を抱き上げた。
頬にひげが当たる。硬い。痛い。抗議しようと口を開いた。
「おぎゃあっ!」
室内に赤子の泣き声が響いた。僕は絶句した。もう一度声を出そうとする。
「おぎゃあ、ああ‼︎」
同じ声だった。
視界の端で、小さな手が動く。皺も血管もない。指は短く、男の頬を叩いても、ぺちりと軽い音がするだけだった。
記憶が戻った。
赤い荒野。
胸を裂く痛み。
地面から湧き出した黒い霧。
女神のような声。
僕は、死んだ。そして今、赤子になっている。
胸の奥から熱が込み上げた。
八十年かけても届かなかった場所へ、本当に来たのかもしれない。
笑おうとした。
けれど口から出たのは、やはり泣き声だった。
「おぎゃああっ」
白髪の女が男から僕を取り返し、胸元へ抱き寄せた。柔らかな布越しに、速い鼓動が伝わってくる。
女は男へ何かを言った。
男が困ったように顎をさする。
意味は分からない。
それでも、二人が僕の声を聞いて笑っていることだけは分かった。
知らない言葉。
土壁の部屋。
見覚えのない男と女。
確かなことは、ただ一つだった。
僕の二度目の人生が、始まった。




