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白王と黒王  作者: ブルースライム
第2章:アイゼンヴァルト王国

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第99話:書いてあるとおりにする

*ニクラスのイメージイラストを後書きに掲載しています。

 朝、名簿に自分の名があった。


 ニクラス。二十。歩兵。


 移る先は、回収隊とだけ書いてある。


 何をする隊かは、書いていない。


     *


 北の練兵場に、四十名が集まった。


 顔は半分ほど知っていた。同じ隊にいた者が三人いる。


「回収隊って、なんだ」


「知らん」


「志願したのか」


「してない」


 誰も志願していなかった。


 昼前に、荷が入った。油の樽である。数えたら十九あった。


 こんな数を一度に見たことがない。灯りに使うぶんなら、一隊で一年もつ。


     *


 午後に、隊長が来た。


 背は高くない。肩が厚い。手が大きい。


 襟のところが新しかった。ほかは古い。


 参謀職と思われる男が一人、後ろに立っていた。


 その男が紙を配った。それから、読み上げた。


     *


 軍務規程 四-八-三。


 一、同種の事案に際しては、生者を現場より退去せしめたる上、処置にあたるべし。


 二、同種の事案とは、病名の定まらざる異変を認めたる場合を言う。


 三、これを認めたるときは管区へ報じ、管区は医官を派して病名を定めしめ、方面司令官の承認を経て参謀本部へ上申すべし。


 四、処置は焼却によるものとす。


 五、急を要する場合は、第三項によらず、当該隊の指揮官の判断をもって足るものとし、参謀本部これを保証す。


     *


 読み終えて、その者は帰っていった。


 何も足さなかった。


 隣の者が、小さく言った。


「なぁ、四の八って、確か疫病の章だよな」


「そうなのか?知らん。詳しいな」


「西で出てるのかなぁ」


 誰も答えなかった。


「新しい病でしょうか」


 前の列の者が聞いた。


「病名が定まらぬ、と書いてありましたが」


「書いてあるとおりです」


 それだけだった。


     *


 夕方、馬を焼いた。


 脚を折って、朝に始末したものだと聞いた。練兵場の端まで運んで、薪を積んで、油をかけた。


 隊長は、油の量を先に言った。


 樽の四分の一。それ以上は無駄になる、と。


 薪の組み方も、風上に立つ位置も、始めから終わりまでどれくらいかかるかも、先に言った。


 馬が終わるまでのあいだ、隊長は動かなかった。二度、薪を足させただけである。


「隊長」


 自分は聞いた。


「随分と手慣れていらっしゃるようですが」


「昔、やりました」


 いつですか、とは聞かなかった。


 聞ける言い方ではなかった。


     *


 火が低くなってから、前の列の者がもう一つ聞いた。


「異変とは、どう見るのですか」


 自分もそれを聞きたかった。


 病名が定まらないなら、医官にも分からないということである。医官に分からないものを、自分たちが見分けるのか。


 隊長は、少し黙った。


「お手元のものを、五つ目からお読みなさい」


 紙をめくる音が、四十枚した。


 判断をもって足る。


「判断、とありますが」


「はい」


「誰の判断ですか」


「その場にいる者の」


 前の列の者は、それ以上聞かなかった。自分も聞かなかった。


     *


 夜、寝床で紙を出した。


 判断をもって足る。


 足るというのは、それでよいということである。


 確かめよとは、書いていない。


 自分は、書いてあることを順に数えた。


 退去させる。異変を認める。報ずる。焼く。急ぐときは、その場の判断でよい。


     *


 どこにも、確かめよ、がない。


     *


 翌朝、隊長が油の帳面をつけていた。


 樽の四分の一を、きちんと引いていた。


 自分は、そこで一つ聞いた。


「隊長」


「はい」


「焼くのは、亡くなった方だけですか」


     *


 隊長は、自分を見た。


 それから、帳面に目を戻した。


     *


 自分は、返事を待っていた。


 だが、返事が返ってくることはなかった。

ニクラス

挿絵(By みてみん)

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