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白王と黒王  作者: ブルースライム
第2章:アイゼンヴァルト王国

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第100話:見ていない月

「メルダース士官」


「はい」


「境がいつ動いたかを出せ」


 エルヴィーン参謀は、卓に何も置かなかった。


「動いた日付だけでよろしいでしょうか」


「日付と、どれだけ動いたかだ」


「承知しました」


 この方は、要るものだけを言って帰る。どこを探せとは言わない。あると思っているのだと思う。


 わたしは書庫へ下りた。


     *


 ない。


 境の報せは、月ごとに束ねて、年ごとに箱へ入れてある。日付では引ける。事案では引けない。


 書庫の目録も同じである。年で引けて、事で引けない。


 わたしは三日かけて、四つのものを並べた。


 境の各隊の報せ。南の港の帳簿。生還兵の聴取書。そして五つの村の徴税の綴り。


     *


 初めの日付が出た。


 七月である。


 ただしこの七月は、西で何かが起きた日ではない。


 港に西の麦が入り始めた月である。三年前は荷にして十一しかなく、去年は夏まで一件もない。夏から急に増えた。


 境の報せも同じで、夏より前の二年に西から来た者の記載は一件もない。八月に二名が初めて越えてきた。


 つまり、七月という日付は、麦と人から逆に引いたものである。


 誰も見ていない。


     *


 二つ目の日付は、はっきりしている。


 一月の末である。


 五つの村が明け渡された。徴税の綴りが、その月で切れている。


 同じ月に、境の東の森で、四名のうち三名が死んで、三名とも起き上がった。生還兵の聴取書に日付がある。この一件だけは、こちらの者が見ている。


     *


 わたしは、二つの日付のあいだを見た。


 六ヶ月ある。


 その六ヶ月に、境が動いた記載は一件もない。


     *


 わたしは筆を止めた。


 動かなかった、と書けば、そう読まれる。


 書ける材料がない。あの六ヶ月に、西の内側を見ていた者は一人もいない。


 斥候が越えたのは十一月で、王都まで行って戻ってきた。境のことは書いていない。境を測りに行ったのではないからだ。


     *


 見ていない月に何もなかったとは、言えない。


     *


 わたしは紙を二つに分けた。


 左に、報せが上がった日を書いた。


 右に、事が起きた日を書いた。


 左右が合っているものは、生還兵の一件だけだった。


 あとは全部、右のほうが早い。早い分は、七日から、長いもので四十日ある。


 それから、右の欄の下に一行足した。


     *


 七月より一月末までの六ヶ月、西の内側を見たる者なし。


     *


 書いてから、これは要らない一行だと思った。


 要らないが、書かなければ、次に読む者が同じところで止まらない。


 動いた距離も出した。


 境の杭から、森までは近い。杭の上に立てば見える。


 ただしそれは、こちらの見た端である。線がどこまで来ているかは、誰も見ていない。


 同じ月に失ったもので、いちばん遠いのは五つの村である。境から東へ、馬で一日ばかり。


 わたしは二つとも書いた。


 二つの日付と、二つの距離。


 わたしが出せたのは、それだけだった。


     *


 翌朝、参謀本部へ持っていった。


 エルヴィーン参謀は、紙を受け取って、端を揃えた。


「二つか」


「二つでございます」


「ほかにないのか」


「ございません」


「距離が二つある」


「近いほうが、こちらの見たものにございます」


「遠いほうは」


「同じ月に失ったものの、いちばん遠いところにございます」


 参謀は、しばらく紙を見ていた。


「遠いほうを使う」


 参謀は、左の欄を指でなぞった。


 それから、右の欄も見た。


 わたしは、下の一行のことを申し上げようとした。


「よい」


 そう言われたので、申し上げなかった。


 参謀は紙を持って、奥へ入っていった。


     *


 わたしは廊下に残って、自分の書いた欄を思い出していた。


 左は、こちらが知った日である。


 右は、起きた日である。


     *


 二つある日付のうち、片方しか要らないのなら、どちらを使うのだろうか。

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