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白王と黒王  作者: ブルースライム
第2章:アイゼンヴァルト王国

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第95話:置く場所がない

 参謀殿が坂を下りていった。


 わたしは鑿を持っていた。石には当てなかった。


 しばらくして、当てた。


 削る音が、いつもと違った。


 手が違うのではない。息が違う。息が短いと、鑿は浅く入る。


 わたしは手を止めて、石を置いた。


     *


 言われたことを、順に並べる。


 一つ。起こす者が必ず一名ある。中心なる者と言う。


 二つ。中心なる者は、いずれも生者である。


 三つ。いずれも年少である。上は十七、下は六つ。


 四つ。長くて百日、短くて三日で死ぬ。


 五つ。待たずに処すべし。中心なる者を先に。


 わたしは、覚えることを仕事にしてきた。去年埋めたのは四百七十二である。どれが誰かは、全部言える。


 だから、五つくらいは覚える。


     *


 三十一年前。北の村。十六名。


 そのほかに、一人いた。女。十くらい。


 息をしていた。握り飯を渡したら、食った。震えていたので、外套を掛けた。


 ひと月ののちに死んだと聞いた。


     *


 三日から百日の内である。


     *


 わたしは坂の下を見た。


 川が光っている。あの日も同じ川があった。


 あの日、わたしは十六名に触れた。順に触れて、順に運んだ。それが役目だった。


 十六名は冷たかった。


     *


 十七人目に触れたとき、温かかった。


     *


 わたしはそのとき、この子は違う、と思った。


 思ったので、そうした。


 温かいことに気づいたのは、わたしだけである。


 命じた方は、触っていない。触らずに十七名を見定めて、順を指した。少女が先だった。


 わたしは、その順を守らなかった。


     *


 いま、五つ目を聞いた。


『中心なる者を先に、然るのちに動く者を』


 順は、間違っていなかった。


 温かい者を見つけたのは、わたしだ。


 見つけて、逆のことをした。


     *


 妹は九つで死んだ。わたしは十一だった。


 埋めたのは、わたしではない。そういう役の者が来て、運んでいった。


 どこへ運んだかは、教えてもらえなかった。


 少女の手を取ったとき、指が短かった。妹も短かった。


 それだけである。顔は似ていない。


 それだけであるが、あの時、確かに妹の面影を見た。見てしまった。


     *


 半月して、村へ行った。


 軍規にはない。行く用もなかった。


 少女は井戸のところにいた。水を汲んでいた。


 わたしは何も言わなかった。少女もこちらを見なかった。


 見られたら困ると思って行ったのに、見られないと分かって、それでも半刻ほど立っていた。


 次に行ったときには、おらなかった。


 病だと聞いた。


     *


 三十一年、わたしはそれでよいと思ってきた。


 助けたとは思っていない。帰しただけである。


 帰した者が、ひと月生きて、死んだ。


 病で死んだのだから、わたしがしたことと、死んだこととは、別のことである。


 そう思ってきた。


     *


 三日から百日の内である。


     *


 あの子は、わたしが何をしても死んだ。


 そしてわたしが何もしなくても、村は二度目にならなかった。


 ならなかったのは、あの子が死んだからである。


     *


 日が傾いた。


 石の影が伸びて、列が二重に見える。


 わたしは、いちばん手前の列の端に立った。


 ここが次に置く場所である。次に誰か埋めたら、ここに置く。


     *


 石は、埋めた場所に置く。


 三十一年、それだけを守ってきた。


 埋めていない者の石を置いたことは、一度もない。


     *


 わたしは、その端に手を置いた。


     *


 置いて、離した。

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