↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白王と黒王  作者: ブルースライム
第2章:アイゼンヴァルト王国

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

93/152

第93話(幕間):お返事はまだですか

 二月の畑に、人が出ている。


 城の窓から見えるのは南の緩い斜面で、そこだけで五十人ほどいる。麦の芽を踏まないように、間を空けて歩いている。


 冬に畑へ出るのは、去年までは咎められることだったと聞いた。根が傷むからだそうだ。


 いまは誰も咎めない。


 私は、その斜面をしばらく見ていた。


 見ていると、必ず一つ分からなくなることがある。


 あの人たちは、昼になっても戻ってこない。


     *


「陛下」


 ヴァレリーさんが来た。


「四度目の荷が決まりましてございます。三月一日、ヴァルツを出ると」


「二千八百ですか」


「二千八百にございます」


「多いですね」


「多うございます」


 ヴァレリーさんは、そう言ってから少し黙った。


「蔵は、まだ空きませぬ」


 私はうなずいた。


 三度出して、蔵はまだ空かない。


 去年の夏に刈ったぶんが、まだある。そのうえ今年の芽が出ている。


 みんなが働いてくれるからだ、と私は思った。


 でも、去年もみんな働いていた。


 去年は、蔵が空いた。


     *


「陛下」


「はい」


「書付にお加えになりますか」


 一度目のとき、私はアンリさんに聞いた。


 書付というのは量と値と日付を書くもので、ほかのことを書く欄はないと言われた。


 それでも、いちばん下に少しだけ余りがある。


 二度目のとき、私はそこに一行書いた。


     *


 海は、こわいですか。


     *


 ドナートさんは南の人で、船で来る。


 三十年、海の上を行ったり来たりしていると言っていた。


 私は海を見たことがない。だから、慣れてしまうものなのかを知りたかった。


 返事は来なかった。


 三度目のとき、もう一行書いた。


     *


 マルコさんは、よくなりましたか。


     *


 中庭で倒れた人だ。


 城の者が抱え起こしていて、私はあとから行った。


 マルコさんは目を開けて、私を見て、叫んだ。


 私は何かしてしまったのだと思う。何をしたのかは分からない。


 あのとき謝れなかったので、書いた。


 返事は来なかった。


     *


「陛下」


 ヴァレリーさんが言った。


「商いの書付は、返事を書く紙ではございませぬ」


「そうですか」


「向こうも、書く欄がございませぬので」


「では、欄を作ればよいのでは」


 ヴァレリーさんは何か言おうとして、やめた。


 この人はときどきそうする。


 私は書付を引き寄せて、四度目のところに一行足した。


     *


 お返事はまだですか。


     *


「陛下」


「これなら、返事の欄が要りませんね」


 ヴァレリーさんは、印を押した。


 押してから、紙の端を揃えた。


 アンリさんもよくそうする。困ったときにそうするのだと、私は最近気づいた。


     *


 窓の外は、まだ明るい。


 斜面の人たちは、まだ歩いている。


 夜になっても歩いている。私は一度、灯りを持たせようとして、要らないと言われた。


 見えているのだそうだ。


     *


 ドナートさんは、三月に来る。今度は本人が乗ると書いてあった。


 二度目も三度目も番頭さんだったので嬉しい。


 嬉しいと思ってから、なぜ今度は乗るのだろうかと思った。


 値が動く時期だからだと、ヴァレリーさんは言った。


     *


 値というのは、動くと誰かが得をして、誰かが損をするものらしい。


 うちは、いま、どちらなんだろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。