第75話:二十年ぶん
五日目から九日目まで、村を七つと、町を二つ通った。去年、縄で引かれて通ったのと同じ道である。
人は同じだった。畑に出ている。夜も出ている。会えば会釈をされる。市の台には品が並んで、売り手と買い手が向かい合ったまま動かない。
去年もそうだった。ここは書くことがない。
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道が、違った。
去年、二日目に川を渡っている。板の橋が架かっていて、その板が三枚割れていた。馬が渡れないので、一行は半日かけて上流を回った。
おれは縄で引かれて歩きながら、この国は橋も直せんのか、と思っていた。
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橋があった。
新しい板で、手すりまでついている。荷車が二台すれ違える幅がある。渡ってから、土手を下りて橋脚を見た。石が足してあった。継ぎ目がまだ白い。
橋だけではなかった。道の泥が落としてある。轍の深いところに砂利が入れてある。用水の縁が石で組み直してあって、苔がついていない。
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七日目に、堰を見た。
川をせき止めて、水を二本に分ける造りである。片方が村へ、片方が下の畑へ行く。できたばかりだった。木の色が白い。
おれの村にも、同じものが要る。上の村が先に水を取るので、下の村は毎年足りない。
おれが子供の頃から揉めていて、いまも揉めている。去年の夏に一人が、鎌で切られて死んだと聞いた。
ここでは、それが済んでいる。
人が二十人ほど、そこで働いていた。石を運ぶ者、積む者、突き固める者。おれは日が落ちるまで見ていた。
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日が落ちてからも、音が続いた。
畑と同じである。あのときは鍬の間が、初めの百と終わりの百で同じだった。ここでは石を打つ音がそうだった。
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八日目に、荷車の列とすれ違った。
こちらへ来る車である。南から来ている。積んでいるのは、麦ではなかった。
石だった。
切り出して面を揃えた石が、荷台に隙間なく並べてある。
次の車は材木だった。その次は鉄の棒である。
おれは道の脇に寄って数えた。石が九台、材木が六台、鉄が二台。
この国から麦が出ていく。それと入れ違いで、石と材木と鉄が入ってくる。
二十年直らなかったものが次々に直るカラクリ。
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荷を受け取る場所を、九日目に見た。
道の脇に平らな地面があって、そこに車を停める。西の者が六人出てきた。南の御者が帳面を出し、西の者も帳面を出す。二人が並んで、数を合わせた。
石が九台。九台。材木が六台。六台。
それだけだった。
値の話をしなかった。荷を検めもしなかった。多いとも少ないとも言わなかった。
東の市なら、ここで必ず揉める。
濡れているとか、寸が足りないとか、先月はこの値ではなかったとか。揉めて、下げて、それで商いになる。おれの村では、それを見るのが子供の楽しみだった。
ここでは、数が合えば終わりである。
合わなかったらどうするのだろう、と思った。
合わないことが、この国では起きないのかもしれないが、そんなことがあるのか。
南の御者は、そのあいだ一度も車を降りなかった。
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十日目の昼に、王都に着いた。
門の外に、倉が並んでいた。石造りで背が高い。十四棟あって、そのうち六棟の扉が開いている。
荷車が着いて、六人が出てきて積み始めた。
六人は速く、息も切らさなかった。積み終わると、六人が揃って腰を折った。
「ご苦労さまでございました」
まったく同時に。
『中を見たいとは微塵も思わない』と、初日に道中で会った、南の男は言っていた。
その気持ちが、とてもよくわかる。
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門は開いていた。
去年、おれはここを縄で通った。前と後ろに兵がいて、五十人ほどが五日のあいだ、おれを囲んで歩いた。
今日は、門番が二人いた。
おれは東の顔をしている。上着も東のものである。腰に武器も差している。それでも二人とも、頭を下げた。
止められなかった。名も聞かれなかった。
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斥候は、壁を見る。門の数を数える。兵の立つ場所を覚える。
おれは門の内側で立ち止まって、それをやろうとした。
数えるものが、なかった。
壁は高い。門は堅い。それは去年と同じである。守る者が、いない。
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いや、いる。
通りにいる。畑にいる。堰で石を積んでいる。橋を架けている。倉で麦を担いでいる。
二十万人が、疲れずに、眠らずに、命じられたことをしている。
つまりは、そういうことだ。
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去年、おれはこの街で吐いた。今日は、吐かなかった。
ただ、気分は良くない。
受け入れてしまっている自分に対してだ。




