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白王と黒王  作者: ブルースライム
第2章:アイゼンヴァルト王国

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第70話:二十八名

 王都軍医寮 軍医 レンツ


 一、書庫の綴り「死亡の確認」全七件、写しを作成せよ。

 一、写しは封じ、当職宛に直接届けよ。

 一、本件、他言を禁ず。


        参謀本部 エルヴィーン


     *


 三行だった。


 前のときと同じである。ただ、今度は一行目の要件が多い。


     *


 私はあの綴りを、夜に一人で見た。


 誰にも言っていない。書き写したのは日付だけで、その紙は引き出しに入れてある。


 なぜ知られたのかを、しばらく考えた。


 考えて、やめた。


 私が書いたのは、二行である。


     *


 三体、死亡を確認。異常なし。

 埋葬完了。埋葬地に石を置く旨、当該下士官より申し出あり。軍規に定めなし。差し支えなしと判断す。


     *


 どちらも、書かなくてよかった。


 書かなくてよいものを書くと、読む者が出る。


     *


 書庫へ下りた。


 綴りを出して、卓に置いて、紙を用意した。二百年で七件しかないので、写しは半日で終わる。


     *


 一件目から順に写した。


 場所。日付。人数。処置済み。


 写しながら、日付が並んだ。


 三十一年前。五十八年前。九十四年前。百二十二年前。百五十年前。百七十七年前。百九十六年前。


 間が、短くて十九年。長くて三十六年である。


 二百年で七件というのは、そういう散り方だった。


     *


 人数も並んだ。


 四名。九名。十一名。十六名。十九名。二十三名。二十八名。


 多いもので、二十八名。


 場所は、いずれも村だった。


 町のものが一件もない、というのは前に確かめている。今度は、村の名も写した。写しながら、どれも聞いたことのない名だと思った。


 二百年で、七つの村。


 いちばん大きいもので二十八名。


 噂では、西は二十万だという。


     *


 私は筆を置いた。


     *


 二十八と二十万は、同じ話の中に置ける数ではない。


 同じ話でないなら、この七件は、いま起きていることの前例ではない。


 前例でないなら、この写しは何の役にも立たない。


     *


 そこまで考えて、私は自分が何を望んでいるのかに気づいた。


 役に立たないでほしいと、私は思っている。


     *


 七件のうち、六件は写し終えた。


 残りは三十一年前のものだった。


     *


 北の村。十六名。処置済み。


     *


 私はこれを写した者を知っている。


 いや、埋めた者を知っている、だ。


 あの男は、埋めたら駄目でしたと言った。


 あとは書いてないことです、とも言った。


 書いてないことは、写しにも載らない。


 私が今日作っているのは、そういう紙である。


     *


 写し終えた。


 七枚。日付順に重ねて、端を揃えた。


 私はしばらく、その七枚を見ていた。


     *


 書き足すことなら、ある。


 間が十九年から三十六年であること。人数がいずれも一つの村を超えないこと。そして、今度のものが、その両方に当てはまらないこと。


     *


 三行で足りる。


 二十年、私は三行の報告を書いてきた。


     *


 筆を取った。


 取って、置いた。


 書けば、いつか誰かが読む。


 読んだ者が何をするかを、私は知らない。


     *


 あの男は、読まれることを望んでいた。


 三十一年、それを望んでいたのだと思う。


 私は望んでいない。


     *


 私は七枚を封じた。


 一行も足さなかった。


 足さなかったことは、どこにも残らない。


 残らないので、いつか誰かが読むということもない。


     *


 届けに上がるつもりでいたが、その必要はなかった。


 書庫の扉が開いて、参謀本部のエルヴィーン殿が入ってこられた。


     *


「レンツ軍医」


「参謀」


「できたか」


「七枚にございます」


 封のまま渡した。


 この方は封を切らなかった。切らずに、脇へ挟まれた。


     *


「中は」


「命令のとおり、写しました」


「読んだか」


「写しましたので」


「間が空いておるな」


 私は答えなかった。


     *


「短くて十九年。長くて三十六年」


 この方は、私を見ておられた。


「人数は、いずれも村一つを超えぬ。多いもので二十八名」


「今度のものは、そのどちらにも当てはまらぬ」


     *


 封は切っておられない。


 切らずに、中身を言われた。


     *


「参謀」


「なんだ」


「お読みになっておられましたか」


「先月に」


 私は、そこで自分の立場を理解した。


 私が夜に一人で見たと思っていた綴りは、その前に読まれている。


     *


「三行で足りる話だ」


 エルヴィーン殿は言われた。


「軍医、貴殿は三行の報告を二十年書いてきたと聞く」


「はい」


「今日は書かなかったな」


「命令が、写しを作れ、とございましたので」


 この方は、しばらく黙っておられた。


「書かなかった理由は聞かん」


 それだけ言って、扉のほうへ歩かれた。


     *


「レンツ軍医」


「はい」


「石の一行は、書いてよかった」


 扉が閉まった。


     *


 私はしばらく、卓の前に立っていた。


 それから、引き出しを開けた。


 日付を書き写した紙が入っている。夜に一人で書いたものだ。


 私はそれを、引き出しに戻した。


     *


 戻してから、鍵をかけた。


 二十年、かけたことのない鍵だった。

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