第6話(幕間):東部管区巡察隊 出動記録
ヴィタリス王国東部管区 巡察隊本部 保管文書
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【一 訴状】
受理 七月十一日 東部管区代官所
訴人 フェリエ村 鍛冶 トマ 四十四歳
訴人は文字を解さず。代官所書記が口述を筆記。末尾に拇印あり。
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フェリエ村にて、六月末より熱病が流行し、七日のあいだに八名が死亡いたしました。八名はいずれも村の墓地に埋葬され、送りの言葉も読まれております。私はその八名すべての埋葬に立ち会っております。
しかるにこの八名は、現在、村を歩いております。
歩いているだけではございません。物を言い、名を呼び、笑いもいたします。しかし食わず、眠らず、息もいたしません。私は自分の目でこれを見ました。妻も見ております。
これをなしたるは、エリアスと申す十六歳の者にございます。
この者は数年前より村の裏手の森に住みついておりまして、出自も、親の名も、誰も存じません。薬草の心得があり、七日に一度ほど村へ降りてまいります。人柄は温和で、これまで村の者と諍いを起こしたことは一度もございません。
私はこの者を、悪しき者とは思っておりませんでした。
七月七日、パン屋ジャンの娘リゼットが死にました。翌朝、この娘が歩いておりました。エリアスが触れたのだと、村の者が申しております。
私は村を出ることに決め、十日の昼、荷を積んで発ちました。その折、エリアスに引き止められましたので、私は問いました。お前は何をしたのかと。
この者はこう答えました。
助けました、と。
私はこの者が偽りを申しているとは思いません。この者は本気で、そう思うております。
そこが恐ろしいのでございます。
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以下、村の者の名を挙げます。
まず、死亡し、埋葬された者。現在、いずれも歩行が確認されております。
一、ピエール 十二歳 農夫アランの三男 七月四日死亡
二、ベルト 三十九歳 粉屋ロベールの妻 七月五日死亡
三、マノン 十九歳 織女 七月五日死亡
四、ギ 七十一歳 元農夫 七月六日死亡
五、マルグリット 年齢不詳 寡婦 七月六日死亡
六、アガット 五十二歳 礼拝堂守 七月六日死亡
七、名なし 生後六月 織女マノンの子 七月七日死亡
八、リゼット 六歳 パン屋ジャンの娘 七月七日死亡
マルグリットの齢は誰も存じません。八十は越えていると申します。
次に、いまも村にとどまる者。
一、ジャン 四十一歳 パン屋
二、クロエ 三十六歳 ジャンの妻
三、エリアス 十六歳 森の者 出自不明
ジャン夫婦は、娘を置いて出ることを拒みました。
最後に、村を離れた者。二十七名。内訳は別紙に記しました。私の妻と子を含みます。
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村の者は皆、逃げました。残ったのはジャン夫婦だけでございます。あの二人は娘を置いて行けなかったのでございます。
どうか兵をお出しください。
私は先導いたします。
拇印
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【二 出動記録】
七月十九日 東部管区巡察隊 第三分隊 出動
隊長 ロラン 四十三歳
副長 ドニ 三十一歳
隊士 七名
装備 騎馬九 聖別油二壺 松明 規定に従い携行
先導 訴人トマ
隊長ロランは在職十九年。東部管区における同種事案の処理を三件担当しており、いずれも規定どおりに完了させております。
規定第七条により、生者は現場より退去させたうえで処理にあたるものといたします。
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【三 当所日誌 抜粋】
七月十九日 巡察隊第三分隊、出立。晴。
七月二十日 伝令一。フェリエ村に到着、対象を確認せりとの由。以後、伝令なし。
七月二十一日 払暁、庁舎内に異状あり。全員、執務を中断。
(同日の記載、以下四行、判読できず。筆圧により紙が裂けております)
七月二十二日 執務を再開。
書記長ペラン、以後の記帳を辞したき旨、申し出あり。事情を問うも答えず。よって以降は代官が自ら記す。
七月二十三日 異状なし。
七月二十四日 異状なし。
七月二十五日 異状なし。
七月二十六日 異状なし。
七月二十七日 異状なし。
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【四 追記】
七月二十七日 記
同隊は帰還しておりません。
七月二十日夕刻を最後に、伝令も途絶えております。
フェリエ村への街道は、麦畑の手前で封鎖いたしました。
なお、同日より、東部管区の各村より同様の訴えが相次いでおります。いずれも、埋葬した者が歩いているという内容にございます。
届出のあった日と村数を記します。
二十日 一村
二十一日 二村
二十三日 三村
二十五日 三村
二十七日 二村
計十一村。
十一の村は、フェリエ村を中心として、ほぼ円を描いて広がっております。届出の間隔から察しますに、広がる速さは徒歩の倍ほどかと存じます。
円は、いまも広がっております。
この速さで参りますれば、王都に達しますのは、月の変わる前かと。
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当代官所につきましても、御報告申し上げます。
七月二十一日払暁、当所は本件の範囲に入りましてございます。
職員三十一名、書記四名、雑役七名。合わせて四十二名。
全員、現在も出仕しております。
この七日、欠勤者は一名もございません。夜間も同様にございます。医務室の使用もございません。
職務に支障はございません。書庫の整理も、例月どおり進めております。
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本書は、規定により王都へ送達すべきものにございます。
しかしながら街道は通れず、使者の到着も見込めませぬゆえ、当所書庫に保管いたします。
いずれ、どなたかがお読みになることと存じます。
東部管区代官 署名
(本紙、七月二十七日以降の追記なし。以下、白紙)




