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白王と黒王  作者: ブルースライム
第4章:ウーケン王国

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212/213

第212話(幕間):遠い国の話

 斥候の書付が上がった。


 陛下が命じた者たちである。出した数のうち、戻ったのは半分である。


 残りに何かあったのではない。まだ向こうにいるというだけである。


     *


 陛下の呼び出しがあり向かう。


 部屋にはメルダース士官がすでにおり、卓に括りが置いてあった。


 メルダース士官が括りを解きながら報告を始める。


「陛下。並べ替えてございます。古いものが下に」


「日付は」


「入っております。いちばん新しいもので、三十日ほど前かと」


「南の連邦は」


「通しておりません。直に持たせました」


 連邦を回せば五十日の紙になる。これはそれよりは新しい。


 新しいというだけである。三十日前までは書いてある。それから先が、どの紙にも無い。


     *


「セフォー王国、ドラント王国、ガーレン王国、ダウス王国。四つが、同じ旗の下にございます」


 陛下が筆を置かれた。


「速いな」


「セフォーとドラントが結び、ガーレンがその軍門に降りました。ダウスはその後に落とされたようです」


 セフォー王国は確かレーヌ諸国の中でも勢い弱き国であったはず。


     *


「エルヴィーン」


「は」


 私は書付の端を揃えた。


「四つが同じ旗の下に入ったということは、間が済んだということでございます。境も、関も、通行料も」


「済ませた者がいるな」


「ドラントは武の国でございます。兵の練度において、あの一帯では抜けております。その国が、同じ旗の下にいるというのは些か得心がいきませぬ」


 旗を同じくするには、どちらかが折れねばならぬ。


 折れたほうが、書かれていない。


 メルダース士官が、紙を横に滑らせた。


「書付は、いずれもセフォーの側から出ております」


「そうか」


 陛下は続けられた。


「レーヌに、一つの体制を築こうとしている。核となるのはセフォー王国」


 だが、と言葉を挟まれた。


     *


「その中心は恐らく、ヴィタリスの王だろう」


     *


 封じてある国である。出てきた者は焼く。決められたのは陛下だ。


 その決まりを通らずに出た者が、遠い国の旗の下にいる。


 メルダース士官が、次の紙を出した。


「もう一つ、ございます」


「言え」


「死んだ者が、起き上がっております」


「どこでだ」


「セフォーにて。ドラントにて。ダウスの落ちた跡にて。いずれも同じ書き方でございます」


 同じ書き方になるのは、写した者が同じときである。あるいは、見たものが同じときだ。


「生きている者はいるのか」


「共におります」


「共に、とは」


「畑にも、荷にも、隊にもおります。追ってはおりませんし、逃げてもおりません」


     *


「呼び名がございます」


「なんだ」


「留まるもの、と」


     *


 こちらで付けた名ではない。


 黒王もそうであった。境を越えたるものと思われ候、という一行が先に来て、名だけが残った。


 名は外から来る。


 この城で付いた名は、いまだに一つもない。


 海の側の二国、ヌオモとロルオーについては何も書かれていない。


 ウーケンの欄は白いままである。行った者がおらぬ、と陛下が書かせた欄だ。


     *


「エルヴィーン」


「は」


「これまでの綴りは、境の分に入れてあるな」


「入っております」


「分けよ。西の国の分として、別に立てろ」


「承知いたしました」


     *


 廊下は冷える。


 メルダース士官は括りを抱えて出てきた。抱え方が、入るときと同じであった。


「参謀殿。書き付けていないものがございます」


「控にはしていないな」


「命じられておりませんので」


「作ってあるのだろう」


「ございます」


「場所を移す」


 私とメルダース士官は、小さく薄暗い部屋へ入った。


     *


「読め」


「市中の話でございます。死者の軍勢が、西を侵略しているらしい、と」


「まだあるな」


「生きている者のほうが、死んだ者に虐げられているのだろう、と。市中では、そちらがよく口にされております」


 書付には、共におると書いてある。


 共におる、では市中は納まらぬ。虐げられている、のほうが短い。


 短いほうが人々の心には残る。


     *


「さらにですが」


 メルダース士官は、括りに指を掛けたままだった。


「陛下ならなんとかしてくださる、とも」


 陛下は攻めぬ。


 いま下されたのは、綴りを分けよ、である。西の国の分として別に立てよ、である。


 仕分けであって、兵ではない。


 市中は、そのうちそれを知る。


     *


「触れを出す」


「何と」


「遠い国の話である、と」


 私はその場で案を書いた。


 条文を写し、写し違いを見た。


 いちばん下に、出したところを書く欄がある。


 参謀本部、と書いた。


 その下にもう一行、私の名を足した。


     *


「参謀本部だけで、触れは通ります」


「通る」


「では、この一行は」


「要る」


 この者は、下がれと言われて食い下がったことがない。


 今日は、下がれと言っていない。


 それでも、それ以上は聞かなかった。


     *


 メルダース士官が、括りを抱え直した。


 抱え直しながら、控にもう一行足していた。

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