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白王と黒王  作者: ブルースライム
第3章:レーヌ小国群

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204/212

第204話:合図

 朝から、ずっと同じ場所にいた。


 前のほうで何が起きているかは、音でわかる。木の裂ける音と、人の怒鳴り声が、水の上を滑って届く。


 近づきもせず、離れもせず、オレたちの船はその音の外側を回っていた。


 舷に凭れて、矢に布を巻いていた。巻いて、壺の油に頭を漬けて、束にして足元へ並べる。朝からそればかりやっている。


 指の腹が滑るようになって、油の匂いが鼻から抜けなくなった。


「おい、パコ。あと何本ある」


「足りる。座ってろ」


 隣で寝転がっている男は、昼前からずっとそれを聞いてくる。数えていないと言うと怒るので、足りると言うことにしていた。


「陸のやつらは楽でいいよな。立ってるだけで飯が出る」


「弟が境の関で番をしてるが、楽じゃないと言ってたぞ」


「お前、弟がいるのか」


「いる」


 それだけ言って、また布を巻いた。


 この船に乗ってから、焼いたのはヌオモの船とヌオモの港だけだ。


 ロルオーには手を出さなかった。手を出さない理由を、オレは聞いたことがない。


 このあいだ、その弟から便りが来た。


 境の話はなんでも持ってこいと言われていたから、船長のところへ持っていった。船長は読んで、何も言わなかった。覚えているのはそれだけだ。


 それからしばらくして、ロルオーを討つ、と伝えられた。


 理由は言われなかった。誰も聞かなかった。


     *


 前では、ロルオーの塊が動きはじめていた。


 日は、もう傾いていた。舳を揃えて、間を詰めて、一本の太い棒みたいになって、向こうの並びへ突っ込んでいく。


 向こうの並びが割れて、そこへロルオーの棒が入っていった。遠くて、旗の形しか見えない。それでも抜けたのはわかった。


「抜けたぞ」


 誰かが言った。隣の男が、こっちを見る。


「まだか」


「まだだ」


 オレは布を巻いていた。


 誰も座らなくなった。矢を束のまま担いで、弓のところへ運ぶ者がいた。オレも運んだ。


 運びながら、寝転がっていた男が横に来て、小声で言った。


「なあ、なんでロルオーなんだ」


「知るか」


「お前、船長のところへ何か持っていってたろ」


「持っていっただけだ」


 男は、返事をしなかった。


 船長の船は、オレたちの列の内側にいた。


 船長が甲板に出ているのは見えたが、遠すぎて、こっちを見ているのかどうかもわからない。


 船長は滅多に声を出さない。出さなくても、旗が上がる。


     *


 旗が上がった。


 舳のほうで、それを見た者が叫んだ。


「帆を返せ!」


 叫ばれる前から、手は綱にかかっていた。綱が鳴って、帆桁が回って、風が反対の頬に当たった。


 左右に広がっていた味方の船が、いっせいに内へ寄ってきていた。


 前には、さっきまでオレたちが後ろについていた船団がいた。ロルオーの船だ。旗も見える。帆の色も見える。


 抜けていった連中に置いていかれて、こっちに尻を向けたまま、まだ前だけを見ている。


「弓!」


 オレは束を渡した。火が入って、矢が上がって、水の上を渡っていった。


     *


 燃えた。


 帆に火が乗ると、早い。一枚上がると、風下の帆も上がる。上がった帆が水に落ちて、水の上でまだ燃えている。


 向こうの甲板で人が走っていた。こっちへ向かって何か怒鳴っている者もいた。何を言っているかは、聞き取れなかった。


 船長がロルオーの船を焼くのを、オレは初めて見た。


 オレの生まれた国の旗だ。それだけは、見れば分かる。


 乗り移る音が、右のほうから聞こえてきた。綱が舷に当たる音と、板を蹴る音。あっちが先に取り付いたらしい。


「パコ! 次だ!」


 オレは壺に手を突っ込んで、次の布を巻いた。

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