第202話:数
向こうが繋がり直した。
割れた前の半分と、置いていかれた後ろの半分が、日が水に触れるころには一つの塊になっていた。誰かがまとめたんだろう。まとめるのが下手なやつばかりじゃねえ。
うちの二隻は、繋がる前に押し出された。いまはこっちの右へ戻ってきている。
繋がると、数が効きはじめる。
こっちの右にいた三隻を、向こうは倍で見ていた。
見られた側は、行ける先が減る。減った先へ行けば、そこで待たれる。
「右、下げろ。下げて風上へ立たせろ」
「ハムザ総督。下がるんですか」
「立てって言ってんだ」
旗が上がって、右の三隻が艫を向けた。向けた背中を、向こうが追った。追えば、向こうの塊から尻が出る。出た尻へ、オレは左を回した。
当たりに行かせたんじゃねえ。そこにいたほうがいいから、そこへやった。
それで向こうの動きが、一つ止まる。
止まっているあいだに、真ん中がまた前へ出てくる。
数ってのは、そういうやり方をする。こっちが片方を潰しているあいだに、向こうは反対側を前へ置ける。
*
舷の擦れる音が、さっきより近くで鳴るようになった。
煙は低いままだ。風下へ流れて、向こうの並びに掛かっている。
掛かった先は、こっちから見えねえ。見えねえまま、あっちは押してきている。見えなくても押せるのは、数があるからだ。
うちの船が列から落ちた。一つは傾いて、もう一つは帆桁を落として、その場から動かなくなった。動かなくなったやつの周りへ、向こうの小さいのが寄っていく。
「拾いに行かせますか」
「行かせるな」
拾いに行った船は、拾いに行った先で止まる。止まった船は、次から数に入らねえ。
艫のほうを見た。
*
海賊の船が、ロルオーの塊の外側へ伸びていた。
左から右へ、弓なりに。
伸びるだけで、噛みに来ねえ。
あいつらは噛むやつらだ。獲物を見つけたら、風だろうが数だろうが構わずに横っ腹へ突っ込んで、綱を投げて、乗り移る。
それしかやらねえし、それで足りてきた連中だ。
その海賊が、距離を測って並んでいる。
赤い旗の位置が少し変わると、外側の並びも少し動いた。
「総督。赤いのは動きません」
「見えてる」
「いま右の海賊をやれば、後ろが空きます。あいつらが動かねえうちに」
やれる。数の上ではやれる。
「触るな」
「ですが」
「触るなって言ってんだ」
言えるだけの理屈があるなら、言ってやる。無いから、言わねえ。
鼻の奥のイヤなやつは、動いてねえ。近づきもしねえし、遠のきもしねえ。
ずっと、そこにある。
*
上で見張りが喚いた。
「向こう、寄ってきます!真ん中に寄ってます!」
伸びていた塊が、真ん中へ集まりはじめていた。
旗と旗のあいだが詰まって、舳が揃って、前が細くなっていく。
固まってきやがった。
固まったやつは、曲がらねえ。まとめて突っ込むぶんには、曲がる必要がねえ。
真ん中を抜きに来る。
そして背に回る。
そうすりゃ包囲網の完成だ。
なら、抜かせなきゃいい。
左右に開いて、通り道を空けてやる。空けたところへ入ってきた舳を、開いた左右で押さえる。挟むほうが、挟まれるより早い。
そこまで考えて、後ろを見た。
弓なりが、まだそこにある。
オレが左右に開けば、開いた外側は、いまよりもっと外になる。外になった味方の、そのさらに外に、赤い布の言うことを聞く連中がいる。
伸びるだけで噛まねえ連中が、そのときも伸びるだけでいてくれるとは限らねえ。
挟むつもりが、挟まれる。
なら、開かずに引くか。
引いた先を思った。後ろは陸だ。港がある。船を入れる場所も、直す場所も、ぜんぶそこにしかねえ。ここを通せば、通した先にあるのは港だ。
引けねえな。
*
残るのは、開いて、挟まずに、そのまま左右へ抜ける形だ。
真ん中は空く。空いた真ん中を通って、向こうは港の前まで行く。こっちは沿岸まで下がって、そこで並び直す。
船は減らさずに済む。
港の前を、空ける。
オレは唇を舐めた。しょっぱかった。
どれを取っても、後ろの弓なりが動けばやり直しになる。動くか動かねえかを決めるのは、赤い布だ。
赤い布は、動かねえ。
どれも、まだ畳み切れてねえ。
「総督!」
舵の男の声だった。見張りじゃねえ。
顔を上げた。
固まったやつが、動き出していた。
まっすぐ、真ん中へ。
*
「だから言ったんだ。オレは総督なんて柄じゃねえって」




