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白王と黒王  作者: ブルースライム
第3章:レーヌ小国群

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201/212

第201話:二隻

 布が増えた。


 一つだったものが二つになり、二つが並びになった。黒が並んで、そのあいだに色のついたのが混じっている。


「オソリオの旗!その右にメンドーサ!」


 見張りが上から声を落としてくる。


 侯爵と公爵の旗が、お揃いで海に出てきやがった。陸のお偉いさんは、水の上でも偉いつもりでいる。


「もう隠す必要もなくなった、ってわけか」


 並びを覚える。誰が誰の後ろに付きたがっているかは、旗の位置に出る。


 向こうのほうが多い。


 倍いるやつは、倍のまま来る。


 まとめて来るやつは、まとめてしか曲がれやしねえ。


     *


 操舵長がこっちを見た。


「ハムザ総督。あの並び、真ん中が薄いです」


「見りゃ分かる」


 薄く見せてるんだから、薄いに決まってる。


「右へ二つ。帆はそのままだ!」


 舵輪が回って、舳が向こうの並びから外れていった。


「総督。それだと当たりません」


「当てに行ってねえよ」


 風は西寄りのままだ。弱い。だが水の下は、さっきからずっと右へ寄っている。舳の上がる間合いで分かる。


 オレは鼻から吸った。潮と、綱と、汗。


 鼻の奥のイヤなやつは、まだ遠い。


 艫のほうから声が来た。


「うちの二隻、離れます。……もっと離れます」


 後ろの二隻だ。いまは右手の、風上のほうへ流れていっている。


「離しとけ」


「よろしいので」


「うるせえ」


 若いのが帆綱のところで手を止めて、こっちを見ていた。見る暇があるなら引け。


「口を動かすな!綱を動かせ!」


     *


 風が変わったのは、日が水に近づく少し前だった。


 帆がばたついて、それから張った。西寄りが北へ振れた。


「帆桁!」


 言う前から返しはじめてるやつがいた。それでいい。


 ティンニーンが横腹に風を入れて、前へ出た。


 舵の男が後ろを見て、それから声が変わった。


「総督。……あの二隻」


 さっきまで遅れていた二隻が、いまは風上に立っていた。


 北から吹く風を、背中に受けている。風上にいる船は、風下の船へ、いつでも落ちていける。向こうは帆を返さなきゃ、こっちへ寄ってくることもできねえ。


「遅れてたんじゃ、ないんですね」


「説明が必要か?」


     *


 向こうの並びは、崩れるというより伸びた。


 まとめて曲がろうとして、曲がりきれてねえ。旗と旗のあいだが開いていく。


 開いたところへ、風上の二隻が落ちてきた。


 向こうの列の真ん中へ、横から入った。入られた船は、帆を返して逃げるか、向き合うかしかねえ。どっちをやっても、並びから外れる。


 一隻が外れた。隣も、釣られて外れた。列が、真ん中で二つに割れた。


「割れました!」


「見えてる」


 割れた前の半分は、前へ出るしかなくなる。後ろの半分は、置いていかれる。


 オレのほうは、前へ出てきた半分の、右の端を舐めた。


 後ろの半分は、二隻が押さえている。二隻で押さえられる数じゃねえが、風上にいるあいだは、向こうから手が出せねえ。


 舷と舷が擦れた。木がやられる音は、腹に来る。


 どこかの船が燃えていた。火矢が刺さったんだろう。煙が上がって、低いまま這って、風下へ流れていった。


 風下は向こうだ。


「総督。あっちは、見えてねぇはずです」


「そうだろうよ」


 オヤジならもっとキレイに、考えてやるだろうな。


 オレは違う。そこにいたほうがいい、と思ったとこへやるだけだ。


     *


 見張りの声が、さっきまでと違った。


「旗ァ!向こうの後ろに出ました!」


 布が一つ、ロルオーの並びの後ろに立っていた。


 赤。


 甲板から音が消えた。


「……レイスだ」


 誰かが言った。


「……後ろにもう一段いやがる!」


 オレは鼻から吸った。


 煙と、焦げと、潮。


 さっきから鼻の奥に居座ってるやつは、まだ遠い。近づいてもいねぇ。


「ニオイは、まだ違う」

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