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白王と黒王  作者: ブルースライム
第3章:レーヌ小国群

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200/213

第200話:ニオイ

*ハムザのイメージイラストを後書きに追加しました。

 朝から怒鳴りっぱなしで、喉が痛む。


「バカヤロウ!手を動かせ!手を!」


 縄の束を一つ上げるのに、若いのが三人がかりで取り付いていた。三人でやる仕事じゃない。


 オレは舷から身を乗り出して、下の艀へ指を突き出した。


「テメエら、順番が逆だ!水が先だ。綱はあとでも積めるが、水はあとで湧かねえ」


 港には入りきらねえから、沖に錨を降ろさせている。艀が行って、戻って、また行く。


 ティンニーンの舷から見ると、帆柱ばかりが並んでいて、どれがどれだか分からん。分かる必要もねえが。


 旗を上げれば、みんな同じほうを向く。


 向くはずだ。


     *


 城からの使いは、昼前に来た。


 甲板に上がるなり膝を折ろうとしたので、腕を掴んで立たせた。


「そういうのはいい。何て言ってた」


「そのまま申し上げます、とのことでございました」


「なら、そのまま言え」


 使いが息を吸った。


「『ハムザ。海はお前のもんだ。好きにやれ』」


「……それだけか」


「それだけでございます」


 オレは縄の帯に指を引っ掛けた。


「あのな」


「はい」


 使いは、まだ舷につかまっていた。


「オレはナンバーツーなんだよ。ずっとそうだった。オヤジが決めて、オレが怒鳴る。それで回ってたんだ」


「はい」


「その決めるほうが、王様になっちまった」


 使いは黙っていた。黙るしかねえだろう。


「オレが苦労してる原因の大半は、オヤジなんだかなぁ……」


 承知した、とだけ伝えろと言って、艀へ降ろしてやった。


     *


 日が傾く前に、錨を上げさせた。


 風は西寄りで、弱い。帆が鳴らねえ日は、水の音ばかりが耳につく。


 舵の男が聞いてきた。


「ハムザ総督。どっちへ出しますか」


「待て」


 東と西から一つに集まっている、と城から来ていた。集まるなら、集まった先へ行けばいい。誰でもそう言う。


 オレは舷に肘をついて、風を嗅いだ。


 潮と、綱と、人の汗。それだけだ。


「総督」


「まだだ」


 若いのが、こっちを見ていた。見張りに上がる前に、必ず一度こっちを見る。オレが何か言うと思っていやがる。


 言うことなんかねえ。


 向こうは、こっちの倍はいやがるらしい。数えたやつがそう言った。数えたやつがそう言うなら、そうなんだろう。


     *


 見張りが、上から声を落としてきた。


「旗、見えます!」


 水平線の上に、布が一つ出ていた。


 黒。


「レイスじゃありません」


 舵の男が言った。息を吐いたやつが何人かいた。吐いていいと思ったんだろう。


 オレは吐かなかった。


 舵の男に顎をしゃくった。


「左に半分」


 舵輪に体重がかかった。


「帆桁を返せ。……もっとだ。ガタガタぬかすやつは海へ叩き落とすぞ!」


 風は弱いままだ。弱いなりに、水の下が動いていた。舳の持ち上がる間合いが、さっきと変わっている。


「帆を落とせ、いまだ」


 なぜ、とは聞かれない。聞かれたって、答えようがねえからだ。


 ティンニーンが前へ出た。


 艫のほうで、誰かが声を上げた。


「総督。後ろが、離れます」


 二隻、遅れていた。オレは振り返らなかった。


「オヤジなら全部を揃える。オレは揃えねえぞ」


 鼻の奥が、変だった。潮でも、綱でも、汗でもない。


「総督。あれは」


「イヤなニオイがしやがる」

ハムザ

挿絵(By みてみん)

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