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白王と黒王  作者: ブルースライム
第3章:レーヌ小国群

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195/222

第195話:あきます

 閂を外す音がした。


 木の門が内側へ開いて、若い修道女が顔を出した。


 私たちを見て、それからベルナール司祭様の襟に目を留めた。


「司祭様で、いらっしゃいますか」


「巡回にございます」


 司祭様は、そこで少し間を置かれた。


「里の院の姉妹より、お話を承りました」


 修道女の手が、門の縁から離れた。


「あの子のことで、こちらまで……?」


「はい」


「二日も、歩いて……」


 そのあとが続かなかった。


 修道女は袖で顔を拭って、門を大きく開けた。


「どうぞ。日が暮れます。狭いのですけれど」


     *


 庭に子どもがいた。


 井戸のところと、板の間の前と、塀の際に。


 ディエゴが荷を下ろしにかかった。


「リアン、そっち持ってくれ」


「分かった」


 下ろすと、子どもが寄ってきた。


「重いから怪我をするぞ」


「もつ」


「では二人でやるといい。腰を落として」


 紐を持ち上げて、動かないので笑っている。


 塀の際にいた子は、寄ってこなかった。


 髪が白い。白いというより、銀に近い。


 伸びるにまかせてあって、肩より少し下で乱れている。


 痩せていて、小さい。


     *


 ペドロ殿が井戸へ行った。


 桶を二つ提げて、板の間まで運んでいる。


 子どもが後ろをついて回っていた。白いマントの裾を掴もうとして、届かない。


     *


 中は、暗くなるのが早かった。


 窓が高いところに一つしかない。


 修道女が燭を持ってきて、卓に置いた。


 卓の端に、枠を引いた紙が重ねてあった。


     *


「里の姉妹には、うまく申せなかったのです」


 修道女は、ベルナール司祭様の向かいに座った。


「犬のことは、お聞きになりましたか」


「承っております」


 修道女は手を膝に置いた。


「あれから、考えていることがございます。あの子は、言いつけたことを必ずいたします。断りません」


 修道女は燭のほうを見ていた。


「水を汲め、と申せば汲みます。もう休め、と申せば休みます。ほかの子は、どちらも渋ります」


「渋らぬことが、お気にかかりますか」


「……はい」


 言ってしまってから、修道女は口を押さえた。


「申し訳ございません。よい子でございます。よい子なのです」


 ベルナール司祭様が、目を閉じられた。


「その子と、話をしてもよろしゅうございますか」


「はい。あまり喋りませんけれど」


     *


 夕餉は麦と豆だった。


 板の間に車座になって、年嵩の子が椀を配って回る。


 ディエゴが手を出して、断られていた。


「客に持たせるな、だとよ」


 ディエゴは笑って、壁にもたれた。


「お前も坐ってろ。立ってると配られねぇぞ」


 セヴィは子どもに挟まれていた。両側から詰められて、動けないでいる。


「セリー、狭そうだな」


 セヴィが顔だけ上げた。


「……潰れる……助けて」


     *


「あの」


 私は、そこまで言ってやめた。


 修道女がこちらを見た。


「いえ。よく食べますね」


「お恥ずかしい限りでございます」


 修道女は笑った。


 修道女が戸口へ声をかけた。


     *


「サフラ。水を」


     *


 私は椀を持ったままでいた。


 ディエゴが、噛むのをやめた。


 セヴィは、子どもに囲まれてよく見えない。


     *


 塀の際にいた子が、水差しを持って入ってきた。


 両手で抱えて、こぼさずに、一人ずつ注いで回る。


 ベルナール司祭様の前で、その子は膝をついた。


「司祭さま」


「頂戴いたします」


 私のところにも来た。


「ありがとう」


 その子は、少しだけ頭を下げて、次へ行った。


     *


 子どもたちは、すぐには寝なかった。


 セヴィが眼鏡を外して、上着の端で拭いていた。


 それを見ていた子が手を出した。


「かして」


「いいよ」


 セヴィはその子の顔に眼鏡を掛けてやった。


 子どもは目を丸くして、それから声を上げた。


「ぐにゃぐにゃだ!」


「そうだよ。僕はそれで見てる」


 順に掛けて、順に笑った。


 セヴィは取り返して、上着で拭き直してから掛けた。


 そのうち、誰かが自分の持ち物を出した。


 平たい石。木の実の殻。結び目のたくさんある紐。


 出しては隣に押しつけて、戻ってくる。


 サフラも輪の中にいた。


 燭のいちばん近いところに坐っていた。


 首の紐を引き上げて、掌に載せた。


 小さな、楕円の飾りだった。


 子どもの一人が、それを指した。


「それ、あくんだよ」


 サフラは、親指の爪を縁に掛けた。


「あきます」


 蓋が横へ開いた。


 中に字が彫ってあった。


 爪ほどの面に、細く彫ってある。


 バルカ、と読めた。


 セヴィが顔を寄せた。


 寄せて、そのまま動かなかった。


     *


 修道女が手を叩いた。


 子どもたちが立って、椀を集めはじめた。


 サフラは蓋を閉じて、紐を襟の中へ落とした。


     *


 板の間に、私たちだけが残った。


 セヴィは、サフラが坐っていたところを見ていた。


 セヴィが小さく言った。


「バルカ」


     *


「レイスが、捨てた姓だ」

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