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白王と黒王  作者: ブルースライム
第3章:レーヌ小国群

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193/223

第193話(幕間):行き止まり

 報告は、掌紋と違って、月に一度とはいかない。


 来ない月のほうが多い。


 書式は決めてある。触れられた先と、月と、数。ほかは書かせない。


 誰が触れたかは書かせない。書かせれば、書いた者が考えるからである。


 考えた者は、誰かに話す。


     *


「ドゥアルテ法官長様。今月のぶんにございます」


 書記官が置いていった。


 私は紐を解いた。


 三つ並んでいた。


 一つ。州の役所。逃れてきた者を、どこの家に置いたかの控えを求めた者がある。


 二つ。街道。去年の秋に王都から下った一行の行方を、村と車小屋で訊いて回った者がある。


 三つ。騎士の詰所。同じく、王都から来る一行のことを訊いた者がある。


 どうやら今月は来たようだ。


     *


 一つなら、旅の者である。


 控えを見たがる者は珍しくない。逃れてきた縁者を探している者は、どの州にもいる。


 二つでも、まだ足りない。


 三つとなると、ほかの読みようが無い。


 私は、三枚を並べたまま、しばらく見ていた。


 これらは、いずれも行き止まりである。


 行った先に何も無いように、はじめから置いてある。


 何も無いところへ続けて手を伸ばす者は、それを求める者だけである。


 もう一つ、揃っている。


 役所へ来たのは司祭であった。詰所で飲んでいたのは教会騎士であった。街道の者については書いていないが、書いていないだけであろう。


     *


 私は、関の控えを出させた。


 半月ほど前に、巡回の司祭が一名。供が四名。


 教会は国に属さない。関で止める謂れが無い。


 止めなかったのは、正しい。


     *


 さて、誰が寄越したのか。


 赤い旗の男であれば、司祭は使わない。あの男は人を使わない。


 ヌオモであれば、境を越える形を作れずにいるはずである。作れば、こちらが正面から戦を宣する口実を得る。ゆえに教会を使う。


 ロルオーの貴族であれば、教会を使える。取るに足らないが理由もある。


 ヌオモかロルオーか。


     *


 子を動かすことを考えた。


 考えて、退けた。


 動かせば、運ぶ者が要る。運んだ者は覚える。覚えた者は、銀と痛みで喋る。消せるものではない。


 そして、どこへ動かしたかが、そのまま次の手掛かりになる。誰が探っているのかも分からぬうちに、新しい線を引くことになる。


 もう一つある。


 動かせば、動いたことがこの国の中で知れる。


 メンドーサ公は、拠り所を明かさぬ者に船は預けられぬと言い続けている。


 あの方々が欲しいのは、私が握っているものである。


 握っているものが動けば、動いた先を探される。


 院に報せることも、考えた。


 考えて、こちらも退けた。


 数十か所に「気をつけよ」と伝えれば、数十か所が、そこに守るべきものがあると知る。


 修道女は考える。考えた者は、隣の院の姉妹に話す。


 口が増えれば、失われる。


 守るために同じ形にしたものが、守るための一言で崩れる。


 ゆえに、院に対して打つ手は無い。


 無くてよい。院は何も知らぬまま、いつも通りに出せばよい。


     *


 書記官を呼んだ。


「州を巡っている司祭を、洗ってください」


「司祭を、でございますか」


「はい。名と、通った日と、供の数を。教会には尋ねません」


「……教会に尋ねずに、でございますか」


「尋ねれば、尋ねたことが教会に残ります」


 書記官は少し考えて、納得できていない顔のまま頭を下げた。


「関と、宿と、村の触れから拾えるかとは思います。日数を頂きますが、宜しいでしょうか」


「構いません」


 急ぐ理由は無い。急げば、急いだことが残る。


     *


 書記官が出て行ったあと、卓の端に束が届いていた。


 月に一度、この形で届くものである。


 紐を解いて、めくった。


     *


 どれも同じ形をしている。

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