第193話(幕間):行き止まり
報告は、掌紋と違って、月に一度とはいかない。
来ない月のほうが多い。
書式は決めてある。触れられた先と、月と、数。ほかは書かせない。
誰が触れたかは書かせない。書かせれば、書いた者が考えるからである。
考えた者は、誰かに話す。
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「ドゥアルテ法官長様。今月のぶんにございます」
書記官が置いていった。
私は紐を解いた。
三つ並んでいた。
一つ。州の役所。逃れてきた者を、どこの家に置いたかの控えを求めた者がある。
二つ。街道。去年の秋に王都から下った一行の行方を、村と車小屋で訊いて回った者がある。
三つ。騎士の詰所。同じく、王都から来る一行のことを訊いた者がある。
どうやら今月は来たようだ。
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一つなら、旅の者である。
控えを見たがる者は珍しくない。逃れてきた縁者を探している者は、どの州にもいる。
二つでも、まだ足りない。
三つとなると、ほかの読みようが無い。
私は、三枚を並べたまま、しばらく見ていた。
これらは、いずれも行き止まりである。
行った先に何も無いように、はじめから置いてある。
何も無いところへ続けて手を伸ばす者は、それを求める者だけである。
もう一つ、揃っている。
役所へ来たのは司祭であった。詰所で飲んでいたのは教会騎士であった。街道の者については書いていないが、書いていないだけであろう。
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私は、関の控えを出させた。
半月ほど前に、巡回の司祭が一名。供が四名。
教会は国に属さない。関で止める謂れが無い。
止めなかったのは、正しい。
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さて、誰が寄越したのか。
赤い旗の男であれば、司祭は使わない。あの男は人を使わない。
ヌオモであれば、境を越える形を作れずにいるはずである。作れば、こちらが正面から戦を宣する口実を得る。ゆえに教会を使う。
ロルオーの貴族であれば、教会を使える。取るに足らないが理由もある。
ヌオモかロルオーか。
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子を動かすことを考えた。
考えて、退けた。
動かせば、運ぶ者が要る。運んだ者は覚える。覚えた者は、銀と痛みで喋る。消せるものではない。
そして、どこへ動かしたかが、そのまま次の手掛かりになる。誰が探っているのかも分からぬうちに、新しい線を引くことになる。
もう一つある。
動かせば、動いたことがこの国の中で知れる。
メンドーサ公は、拠り所を明かさぬ者に船は預けられぬと言い続けている。
あの方々が欲しいのは、私が握っているものである。
握っているものが動けば、動いた先を探される。
院に報せることも、考えた。
考えて、こちらも退けた。
数十か所に「気をつけよ」と伝えれば、数十か所が、そこに守るべきものがあると知る。
修道女は考える。考えた者は、隣の院の姉妹に話す。
口が増えれば、失われる。
守るために同じ形にしたものが、守るための一言で崩れる。
ゆえに、院に対して打つ手は無い。
無くてよい。院は何も知らぬまま、いつも通りに出せばよい。
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書記官を呼んだ。
「州を巡っている司祭を、洗ってください」
「司祭を、でございますか」
「はい。名と、通った日と、供の数を。教会には尋ねません」
「……教会に尋ねずに、でございますか」
「尋ねれば、尋ねたことが教会に残ります」
書記官は少し考えて、納得できていない顔のまま頭を下げた。
「関と、宿と、村の触れから拾えるかとは思います。日数を頂きますが、宜しいでしょうか」
「構いません」
急ぐ理由は無い。急げば、急いだことが残る。
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書記官が出て行ったあと、卓の端に束が届いていた。
月に一度、この形で届くものである。
紐を解いて、めくった。
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どれも同じ形をしている。




