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白王と黒王  作者: ブルースライム
第3章:レーヌ小国群

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186/223

第186話:一人では来ない

 朝から、教会の前に人が並んでいた。


 施しの日、と聞かされた。


 麦と豆と塩を少しずつ配るんだって。


 ここの司祭は年寄りで、手伝いが二人しかいない。


「すまないが……」


 司祭は僕らを見て、それから僕の手を見た。


「字は書けるかね」


「はい、書けます。是非お手伝いをさせてくださいませ」


 ライアンが驚いてた。『お前、敬語を使えたのか』でしょ、恐らくは。


「ありがとう、助かるよ。ではこっちに来てもらえるかな」


 ディエゴは袋を運びに、ライアンは配る側に回った。


 僕は卓に座らされた。


     *


 名を訊いて、書く。何を渡したかを書く。


 それだけ。


 帳面は結構分厚い。


 継ぎ足して綴じてあって、去年の秋のあたりで紙の色が変わってた。


 そして、そこから名が増えていた。


 それも急に。


 一日に二人か三人だったのが、十日で三十を超えだ。


 僕は書きながら、前のほうをめくった。


 名の横に、小さく字が足してある。


 どこそこへ、と読める。


「司祭様。この横の文字はなんですか?」


「口を世話した先だよ。教会で食わせ続けるのは無理だからね」


 司祭は袋に麦と豆と塩を詰めながら答えた。


「働ける者は、働ける先へ送る。それを書いておかないと、同じ人を二度、送り出してしまう」


 なるほどね。


 恐らくこの町は入口だ。


 流れてきて、ここで一度食べて、それから先へ送られる。


 ディエゴが言ってた市に人が余ってる、っていうのも、余ってるのは送られた先の話だろう。


 僕は帳面をめくって、戻して、また前のほうを見た。


 秋の名前は、こっちの土地のものと綴りが違う。


 まとめて来ているから、同じ日に何人も並んでいる。


 その横の「先」は、近くの町や村じゃない。


 地図と照らし合わせる。


 やっぱり、もっと奥だ。


 腕のある者ほど、早く、遠くへ送られている。鍛冶。厩。織り。そういう字が並んでいる。


 子どもの名前も帳面にはある。


 あるけど、必ず誰かと並んで書いてあった。


 誰それの子、誰それの連れ。


 僕は一年ぶんを見た。


 一人で書かれている子はいない。


     *


「司祭様」


「うん」


「子どもだけで来ることって、あるんですか」


「それはないね」


 司祭は考えもしなかった。


「腹の減った子は、必ず誰かが連れてくる。連れてくる者がいない子は、そもそもここへは来ないよ」


     *


 日が落ちてから、宿坊に戻った。


 ディエゴが壁にもたれて足を投げ出している。ライアンは靴を脱いでいた。


「どうだった?」


「畑では子供を取ることはないと思う」


 ライアンが先に言った。


「今日、三軒回ってみた。どこも人を入れてるけれど、いずれも大人だ」


 そりゃそうだ。


「六つの子は働けない。けれども食べる。麦は去年今年と相場が高いらしい」


 ライアンは靴を裏返して、中の砂を出した。


「だから、どの農家も取らない。取る理由がないからな」


     *


 僕は自分の帳面を出した。


 消していく。


 この町じゃない。飢えてもいない。畑でもない。


「ったく、どこにいるんだよ」


 ディエゴが訊いた。


「わからない」


「おいおい……」


「わからないけど、一つ分かった」


 僕は筆を止めた。


「あの子は、誰かにちゃんと食べさせてもらってる」


 誰も、そうかよかったな、とは言わなかった。


 ディエゴが足を組み替えた。ライアンは靴を持ったままだった。


「ベルナールが戻ってきたら、この町を発とうと思ってる」


「「どこへ」」


     *


「奥。人が送られた先」

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