↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白王と黒王  作者: ブルースライム
第3章:レーヌ小国群

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

184/223

第184話:承ります

 身の回りを汚す必要は、二日でなくなった。


 爪も、襟も、靴も、歩いていれば勝手に汚れる。ペドロ殿が最初にやったのは、その日のぶんだけだった。


 道は細い。


 荷車が擦れ違えないので、向こうから来る者があると、こちらが草に寄る。寄って、通り過ぎるのを待つ。


 待つあいだ、私たちは黙っている。


     *


「ご嫡子」


 ペドロが横に並んだ。それから、呼び方を変えた。


「いや、リアン」


「はい」


「目を合わせないでください」


 ペドロ殿は、前を歩く司祭様の背を見たまま言った。


「合わせなければ、覚えられません。人は、目を合わせた相手だけを覚えます」


「……はい」


「難しければ、荷を見ていてください。荷を見ている者は、荷を運ぶ者に見えます」


     *


「ジェイゴ、背筋」


 セヴィが後ろから言った。


「なんだよ」


「のばさないで」


「のばしてねえよ」


「のばしてる。歩き方も」


 ディエゴは肩を落として、それから、わざとらしく猫背になった。


「これでいいか」


「行き過ぎ。病人みたいになってる」


「てか、その呼び名。慣れねぇんだよ!」


 万一の事を考え、互いを偽名で呼ぶようにしていた。


 私はリアン、ディエゴはジェイゴ、セヴィはセリー。


 ベルナール司祭様とペドロ殿に偽名の必要はない。



     *


 四日目、道の先に柵が見えた。


 柵と、小屋が一つ。柵の前に兵が十数名。奥に馬が繋いである。


 荷を検めている。前に二組いた。


 私は荷を見た。


     *


「教会の方でいらっしゃいますか」


「はい」


 司祭様が前へ出られた。


「巡回にございます」


「どちらまで」


「西の教区を順に。日を決めてはおりません」


 兵は、司祭様の後ろを見た。


 ペドロ殿の肩の留め具に目が留まった。枝と根が広がっている。


「供は」


「四名にございます」


 兵は数えた。数えて、それだけだった。


「お通りください」


 兵は柵の横木を外した。


 外しながら、少し迷ってから、こう言った。


「あの、司祭様。一つよろしいでしょうか」


 まずい、と思った。ディエゴの目つきも変わる。


 しかし私が予想するようなことは起こらなかった。


     *


「兄が、船に乗っております」


 兵は横木を持ったまま話していた。持ったままだと気づいて、脇へ置いた。


「先月から、便りがありません。母が毎朝、港へ出ておりまして」


 兵は、そこで言葉を探した。


「祈っていただくというのは、こういうことでよろしいのでしょうか。すみません、私は、あまり教会に行かないもので」


「承ります」


 司祭様はそう仰った。


 それから、兵の前へ二歩お進みになった。


 私は荷を見ていた。


 言葉は聞こえなかった。短かったと思う。


 顔を上げたときには、兵はもう横木を戻しに行っていた。


     *


 関を抜けた。


 私は、何か変わるものと思っていたが、道は細いままだった。


 細いが、荒れてはいない。


 轍の深くなったところに、石が入れてある。新しい石だ。両脇の草も、伸びきる前に払ってある。


 荷馬車と擦れ違った。しばらく行って、また擦れ違った。多くはない。だが、絶えるということもない。


     *


 村の前を通った。


 畑には人がいた。腰を曲げている者と、水を運んでいる者と、畦を走っている子ども。


 麦は蒔いてある。畝がまっすぐで、間が揃っている。人手が足りていなければ、こうはならない。


 畑の向こうで、誰かが笑った。何を言ったのかは、遠くて聞こえない。


 一人がこちらに気づいて、腰を伸ばした。それから、司祭様に頭を下げた。


 司祭様が下げ返された。


 男はまた鍬を持った。



     *


「次の村までは、半日ほどにございます」


 司祭様が仰った。


「宿は取れましょう。取れなければ、礼拝堂をお借りします」


「はい」


 私は、返事をした。なんだか無性に横になりたかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。