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白王と黒王  作者: ブルースライム
第3章:レーヌ小国群

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182/223

第182話(幕間):何の心配もございません

*ドゥアルテとアルフォンソ王のイメージイラストを後書きに追加しました。

「ドゥアルテ法官長様。いかがでございましょうか」


 書記官の報告を受けて紙に目を通す。


 書き損じが一枚あった。


 中身ではない。中身は正しい。日付も、名も、数も合っている。ただ、末尾の一行が、書式より二字ぶん高い。


 私はそれを脇へ寄せた。


「これは戻します」


「は……。どこが、でございましょう」


「書式です」


「中身に誤りは」


「ありません。ですから、戻します」


 書記官は紙を受け取って、しばらく見ていた。どこが違うのか分からない顔だった。


 二字を見逃せば、次は四字になる。


 書記官が出て行った。


 卓の端に、束が一つ残っている。


 紐を解いて、めくった。一枚ずつ、順に。どれも同じ形をしている。どこから届いたものでも同じ形になるように決めている。


 途中で指が止まったが、先月分のあれはすでに届いている。


 先へ進めて読み終えた後、引き出しに収めて鍵をかけた。


     *


 戸が鳴った。


「法官長様。御前の刻限にございます」


「参ります」


 立って、袖を直した。髪に手をやった。乱れてはいない。


     *


 王の間には段がある。


 上に玉座。三段下りて右に公爵家、左に侯爵家。そこからさらに下りて伯爵家。


 誰がどこに立つかは、生まれた時から決まっている。


 私の場所は、段の下である。


 アルフォンソ・デ・ロルオー八世陛下は、王冠を被って座っておられた。


     *


「東の三つは焼きました。網も倉も残しておりません!」


 オソリオ侯である。


「船は」


「二隻を失いました。いずれも古いものでございます」


「大儀」


 オソリオ侯は一礼して、それから続けた。


「次は西へ回りたく存じます」


「西は遠いのではないか」


 メンドーサ公が言った。


「船を分ければ、東で押し返される」


「押し返す兵が、あちらに残っておりますかな」


「残っているかどうかを、確かめてから分けるのが順であろう」


「では、確かめるあいだ、船は港に繋いでおく、とメンドーサ公はおっしゃるのですな」


「よい」


 陛下の声で、二人が下がった。


「法官長」


「はい」


「そちはどう見る」


「臣は、一つに絞るのがよろしいかと存じます」


「ほう」


「東の三つが焼けたのは、続けて叩いたからでございます。西へ回れば、東は戻ります。戻ればまた焼くことになり、同じ港を二度焼くことになります」


「では西は捨てるか」


「捨てるのではなく、後にいたします」


 陛下は、外套の裾を直された。


「オソリオの申すことにも理があり、メンドーサの申すことにも理がある。いずれを採るにせよ、採らぬほうの者に不興を残すことになろう。追って沙汰いたす」


     *


「陛下。もう一つ、伺いたきことがございます」


 メンドーサ公だった。


「何であるか」


「赤い旗のことでございます」


 段の上が静かになった。


「あの男は、まことに我らの側にあるのでございましょうか」


 私は答えた。


「あの男は、こちらの求めに応じております」


 ケサダ伯爵が『メンドーサ公は貴様に聞いているのではない!』と声を上げた。


「改めて法官長に尋ねる。応じている、と申すか」


「はい」


「では、応じさせているその拠り所は何か」


「お答えいたしかねます」


「……なんだと」


「口が増えれば、失われるからです」


 メンドーサ公が、初めてこちらを向いた。


「陛下の御前でも、か」


「はい」


 どこかで、誰かが息を吸う音がした。


「メンドーサ」


「はっ」


「今日の議は、それではあるまいな」


 メンドーサ公が下がった。


「法官長」


「はい」


「余にも、であるか」


「恐れながら」


 陛下は、私から目を離されなかった。


「左様か」


 陛下は、背を玉座へ戻された。


「では一つ、余の問いに答えよ」


「はい」


「あの男は、次も出るであろうな」


「出ます」


「保つのか」


「何の心配もございません」


 陛下は頷かれた。それきり、この件に戻られなかった。


     *


「今日は、ここまでといたそう」


 一同が頭を下げた。


 陛下が立たれ、段を上がって、奥へ入られた。


 私が身を起こしたとき、上の段では、もう別の話が始まっていた。


 段を下りるとき、後ろで声がした。


「大変な自信でございますな」「躓かぬようにご注意するがよろしい」「調子に乗るなよ、若造」


 足は止めなかった。

ドゥアルテ

挿絵(By みてみん)


アルフォンソ・デ・ロルオー八世

挿絵(By みてみん)

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