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白王と黒王  作者: ブルースライム
第3章:レーヌ小国群

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176/223

第176話:見たと言っていた

*レイスのイメージイラストを後書きに追加しました。

 報せは昼前に来た。


 王都から半日の港が狙われているらしい。ヌオモの者が地図を指したが、俺には印の場所しか分からない。


 要所ではない、と言った。荷も少ない。船も小さいものしか着かない。


 なぜそこなんだ、と誰かが言った。誰も答えなかった。


     *


 俺とヴォルフが出た。ほかに出られる者がいないからだ。


 連れたのは百五十。半分をファティマ殿下と王都に残した。エリアス王をお守りする必要がある。


 ヌオモの兵が同じほど付いた。


 セヴィリーナとディエゴの若造。そして息子も付いてきた。


 止めはしない。それぞれに為すべきことを為せばいい。


「父上」


「案ずるな」


     *


 道の途中から煙が見えた。


 黒い。倉が燃えている。


 あの煙の下で人が逃げる。そのために、倉は捨てると決めてある。


 卓で決めたことが、そのとおりに動いていた。


     *


 港に入ると、桟橋のほうから声が上がっていた。


 ヌオモの守り手が、水際で押されている。数が足りていない。


 俺は隊を割った。半分を人の逃げる道へ回し、半分を桟橋へ寄せた。


 我らが兵は崩れない。逃げない。押されても後ろへ下がらない。


 水際で止まった。


 止まったところで、船が一隻、寄せてきた。


     *


 その船だけ、旗が違った。


 赤い。


     *


 一人で降りてきた。


 背は高い。だが厚みがない。


 銀の髪が乱れたままで、日に灼けておらず、海の男には見えない。


 着ているものも赤で、首まで閉まっている。


 左の袖が、肘の先で折り返して留めてあった。隠していない。


 隻腕。こやつがレイスか。


 俺は前へ出た。


 我らが兵を出せば数で押せる。押せるが、押した先で焼かれる懸念がある。


 それに、あれは数で当たる相手ではないと思った。


 なぜそう思ったのかは、直感としか言いようがない。


「エイブラムだ」


 返事はなかった。空虚と憎悪の入り混じった瞳がこちらを見ていた。


     *


 打ち込んだ。


 セフォーに限らず、レーヌでも俺とやり合えるものは多くないと思っていた。起き上がってからはさらに腕を磨いた。上積む余地ができたからだ。


 しかし、初手で、それが間違いだったと気付かされた。


 合わせてこない。


 受けもしない。


 俺の剣がある場所に、あの男がいない。それだけのことが、何度も続いた。


 刃が反っている。片刃で、先が下を向いていた。半月刀というのだと、あとでヌオモの者から聞いた。


 持っているのは右の一本だけだ。


 それで足りていた。


 二度、肩を打たれた。


 三度目で膝を割られた。


 倒れながら、この男は俺を殺そうとしている、と思った。


 手加減ではない。首を狙わないのは、狙う値打ちがなかったからでもない。


 あの太刀筋は、生きている者なら一度で終わっている。


 俺は、死なない。


 起き上がった。


 膝は割れているが、立てる。腕もまだ動く。首もある。


 当たり所がよかっただけだ。


「父上!」


 息子の声だ。


 その声で、あの男が顔を上げた。


 俺のほうは見ていない。声のほうを見た。それから、また俺を見た。


 見方が、変わった。


     *


 斬るための見方ではない。


 どこにも力が入っていない。頭の先から、胴のあたりまで、順に目が動いた。


 俺が首をかばったのを、見ていたのだと思う。


 矢が来た。


 俺の脇を抜けて、あの男の足元に刺さった。


「退がれ!」


 ヴォルフの声だ。


 この男の声を、こういう出し方で聞いたことがない。


 卓につけば動かず。話が済むまで同じ姿勢のままだ。


 その男が、弓を捨てて走ってきていた。


「エイブラム!退がれ!」


 二度言うということは、一度では足りないと思っているということだ。


 あの男は、ヴォルフのほうを見た。


 それから、桟橋のほうを見た。


 我らが兵が並んでいる。押されても下がらない列だ。


 しばらく、そちらを見ていた。


 燃えている倉のほうへは、目を向けなかった。


 半月刀を下ろした。


     *


「見た。次はない」


     *


 それだけ言って、船へ戻った。


 追わせなかった。追えば、あの列を崩すことになる。


 赤い船が離れると、ほかの船も離れた。


 火の手は上がったままだったが、寄せてくる者はもういない。


 港は保った。


     *


 ディエゴの若造が騒いでいた。


「おい! あいつら引いていくぞ」


 人が集まってきた。息子が先に来て、俺の膝を見て、それから顔を見た。口が動いたが、声になっていなかった。


 ヴォルフが弓を拾いに戻っていた。


     *


「とんでもねぇバケモノがいたもんだ。ただ、なんでか知らねぇけど助かったな!」


「いや、負けだよ」


 セヴィリーナが間髪入れずに返した。


「あ? どこがだよ」


 俺はセヴィリーナに伝えた。伝えるべきと感じたからだ。


「やつは、見た、と言っていた」


「そう」


 セヴィリーナは、赤い船の消えたほうを見ていた。


     *


「僕らのことを知られたんだ」

レイス

挿絵(By みてみん)

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