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白王と黒王  作者: ブルースライム
第3章:レーヌ小国群

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第169話:役に立ちましたか

アフメド王のイメージイラストを後書きに追加しました。

「エリアス陛下、足元に気をつけてお越しください。絶景ですよ」


 ファティマさんの言う通り、注意して進む。


 道が下って、木がなくなって、そこで止まった。


 水だ。


 向こうの端が見えない。


 森は、どこかで終わる。歩けば向こうへ出る。


 これは、終わりが見えない。ドナートさんが言っていた通りだった。


 風が来て匂いがした。知っている匂いだと思ってから、思い出した。


 セシルさんの薬と、同じ匂いだ。


 しょっぱい匂い。


     *


 振り返ると、道の後ろのほうまで人が続いていた。


 馬車が何台かと、兵士がたくさん。ファティマさんが決めてくれた。


「他所の国へ伺うのですから」


 そう言っていた。にぎやかで楽しい。


 馬車には乗らずに歩く。ファティマさんも一緒に歩いてくれる。


 前のほうに、エイブラムさんとヴォルフさん。


 少し後ろに、ライアンさんとセヴィさんとディエゴさんがいた。


     *


 城は、町の上にあった。港というらしい。


 道が、その町のなかを通っている。


 船がたくさん見えた。数えようと思ったが、途中で分からなくなった。


 人が多い。声も大きい。みんな、よく日に焼けている。


 私たちが通ると、道を空けてくれた。それから、こちらを見た。


 珍しいのだろうと思った。私は背が低いし、肌も白いから。


     *


 城に入って、大きい部屋で待っていた。


 部屋には、私とファティマさんと、エイブラムさんとヴォルフさんの四人。


 ディエゴさんたちは、外で待っている。


     *


 大きい人が来た。


 背が高くて、肩が広くて、腕が私の脚くらいある。


「ヴィタリス王、エリアス陛下であられますかな」


「はい。エリアスといいます」


「そして、セフォー王の名代、ファティマ殿下」


「お目にかかれて光栄に存じます」


「ヌオモ王、アフメド・ファルバンと申します」


 アフメドさんは、私の顔をしばらく見た。


 それから、笑った。


「あっはっはっ! おっと、これは失礼を」


「あの」


「若いとは伺っていたものの、ここまでお若いとは思わなかったもので」


     *


 次に案内された部屋は、窓から海が見えた。


 アフメドさんは、いろいろなことを聞いてきた。


 村のこと。森のこと。薬草のこと。冬に何を食べていたか。


 私は答えた。答えられることばかりだったので、話していて楽しかった。


     *


「エリアス王。字を読まれますか」


「読めません」


「左様ですか」


 それだけだった。


 アフメドさんは、次の話に移った。


     *


「ロルオーのことは、お聞き及びでしょうか」


「船を襲われていると聞きました」


「左様。去年から、船が十七」


 十七。


 私は、それをうまく思い描けなかった。その船がどのくらいの大きさかも、まだ分かっていない。


「人は」


「その何倍かに」


「痛かったでしょうね」


 アフメドさんは、そこで黙った。


 笑っていた顔のままで、少しのあいだ、何も言わなかった。


 変なことを言ってしまったのかと思った。


     *


「大丈夫です。私が助けます」


     *


 紙が出てきた。まだ下書きだという。


 ファティマさんが読んでくれた。私は字が読めないので、いつもそうしてもらう。


 セフォーとヴィタリスとヌオモが、仲良くする。あとで替えたりしない。


 そういうことだと思った。


     *


「一つ、伺ってもよろしいか」


 アフメドさんが言った。


「ヌオモは少し不思議な国です。王は世襲ではなく投票で決まります。その任期は六年」


 難しくてよく分からないけれど、不思議なんだ、と思った。


 ファティマさんは『存じ上げております』と答えた。


「しかし六年で終わる話にするつもりはございません。私がいなくなっても続く。そうした関係を築きたいと考えています、それでよろしいでしょうか」


 これなら答えられる、と思った。


「はい」


「即答、ですか」


「仲良くするのに、終わりを決めるのは変なので」


 アフメドさんは、また笑った。


 さっきより長く笑った。


     *


「では、正式な調印は明日に」


「はい」


「人を集め、皆の前で、押すことといたしましょう」


 明日も、海が見られる。


     *


 紙が片づけられると、アフメドさんは椅子に深く座り直した。


「よし。堅苦しいのは、ここまでだ。おい、冷たい飲み物。そしてそうだな、甘味として果物を持ってこい」


 お手伝いの人が頭を下げて部屋を出ていった。


 ファティマさんが吹き出してから声をかけた


「そちらが素のお姿、ということですのね」


「おう、そうだ。今はただの、アフメドだ」


 話し方が変わった。


 村でもそうだった。仕事のあいだは丁寧でも、市の日だけ言葉つきが変わる人がいた。


「うちの宰相は今、胃痛で寝込んでる。後で引きずってくるから、よろしくしてやってくれ」


 病気。それは大変だ。


「私が見てみましょうか」


「いや、あいつの胃痛は『夜になったから眠い』くらいのものよ。だが気遣い、礼を言う」


 この人は、良い人だ。


     *


 外へ出ると、日が傾いていた。


 海の色が、来たときと変わっている。


「ファティマさん」


「はい、陛下」


「私、役に立ちましたか」


「勿論です」


     *


 よかった。

アフメド王

挿絵(By みてみん)

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