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白王と黒王  作者: ブルースライム
第3章:レーヌ小国群

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166/173

第166話:満たされているから

 西へ向かっている。


 ヌオモという国から使いが来て、話がまとまりかけているらしい。細かいことは知らん。


 俺が聞いたのは、道順と、着く日と、俺が指揮するヴォルフ隊の人数だけだ。


     *


 半年で大きく動いた。


 ドゥエ占領から一ヶ月も経たず、ガーレンは軍門に降った。


 ドラントとは組んだ。一時的ではない、恒久的な同盟だ。


 どうやらファティマはレーヌに連合国を作るつもりらしい。


 ゴンサロは食客将軍とかいう肩書きになって、まだこの列にいる。


 共に南のダウスを落としたが、ドラントの強さを見た。盟を結んで正解と言える。


 戦うたびに俺の、ヴォルフ隊は増えた。


 七百五十だったものが、いまは二千を超えている。


     *


 九月になった。麦は刈り終わっている。刈ったのは通り過ぎた土地の者で、俺たちではない。


 行軍のあいだ、誰も休まん。飯も水も要らん。夜に火を焚く必要もない。


 そんな俺たちにも必要なものが増えた。


 薬の荷だ。


     *


 ヴィタリスからの薬の荷が着いた。月に二度来る。今月は一度しか来ていない。


 俺は樽の数を見た。


 足りん。


     *


「ヴォルフ殿」


 ファティマだ。紙を持っている。


「今度の荷は、少なくなっております」


「見た」


「順を決めます」


「そうか」


「ヴォルフ殿の隊は、いちばん数が多くなりました。残念ですが全員には回りません」


「だろうな」


 俺は列のほうを見た。


 前の列の男に手を出させて、指の先を見た。


 色が変わっている。触れば分かる。乾いた木に触るのと同じ手触りだ。


 元から俺の部下だった古参は、皆そうだ。


 セフォー、ドラント、ガーレン、ダウスで加わった連中は、まだそうなっていない。


     *


「新しい者から施してくれ」


「ヴォルフ殿の手勢は」


「後でいい」


「理由を伺ってもよろしいですか」


「古参連中は起き上がってから長い。すでに効きが薄くなっている」


 それに、と前置いた。


     *


「この姿の方が、対峙しただけで敵が逃げる」


     *


 ファティマは、承知しました、とだけ言って立ち去った。


 流石に骨になるまで乾ききるのは考えものだが、この土地の俺や部下の縁ある者はいない。


 それなら新入りの姿を優先して維持してやるべきであろう。


 しかし、便利な薬を作ったものだ。素直に感心している。


 なんという名前だったか。あの宮廷魔術師。


     *


 夜になって、雇い主が来た。


「ヴォルフさん」


「なんだ」


「みなさん、大丈夫ですか」


「大丈夫だ」


「歩くのは、疲れませんか」


「疲れん」


「そうでした」


 雇い主は少し笑って、それから列のほうを見た。


「みんな、静かですね」


「静かだ」


「いい人たちですね」


「かわいいやつらだ。皆、あんたを慕ってる」


「私も、皆さんが大好きです」


     *


 朝になって、俺は古参連中のところへ行った。


 順が決まった、と言った。うちは後だ、とも言った。


 誰も何も言わん。


 昔は言った。順が後だと聞けば、必ず誰か文句を言った。


 飯でも、宿でも、金でもだ。言わせておけば、それで済んだ。


 いまは、誰も言わん。


 満たされているからだろう。

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