第166話:満たされているから
西へ向かっている。
ヌオモという国から使いが来て、話がまとまりかけているらしい。細かいことは知らん。
俺が聞いたのは、道順と、着く日と、俺が指揮するヴォルフ隊の人数だけだ。
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半年で大きく動いた。
ドゥエ占領から一ヶ月も経たず、ガーレンは軍門に降った。
ドラントとは組んだ。一時的ではない、恒久的な同盟だ。
どうやらファティマはレーヌに連合国を作るつもりらしい。
ゴンサロは食客将軍とかいう肩書きになって、まだこの列にいる。
共に南のダウスを落としたが、ドラントの強さを見た。盟を結んで正解と言える。
戦うたびに俺の、ヴォルフ隊は増えた。
七百五十だったものが、いまは二千を超えている。
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九月になった。麦は刈り終わっている。刈ったのは通り過ぎた土地の者で、俺たちではない。
行軍のあいだ、誰も休まん。飯も水も要らん。夜に火を焚く必要もない。
そんな俺たちにも必要なものが増えた。
薬の荷だ。
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ヴィタリスからの薬の荷が着いた。月に二度来る。今月は一度しか来ていない。
俺は樽の数を見た。
足りん。
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「ヴォルフ殿」
ファティマだ。紙を持っている。
「今度の荷は、少なくなっております」
「見た」
「順を決めます」
「そうか」
「ヴォルフ殿の隊は、いちばん数が多くなりました。残念ですが全員には回りません」
「だろうな」
俺は列のほうを見た。
前の列の男に手を出させて、指の先を見た。
色が変わっている。触れば分かる。乾いた木に触るのと同じ手触りだ。
元から俺の部下だった古参は、皆そうだ。
セフォー、ドラント、ガーレン、ダウスで加わった連中は、まだそうなっていない。
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「新しい者から施してくれ」
「ヴォルフ殿の手勢は」
「後でいい」
「理由を伺ってもよろしいですか」
「古参連中は起き上がってから長い。すでに効きが薄くなっている」
それに、と前置いた。
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「この姿の方が、対峙しただけで敵が逃げる」
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ファティマは、承知しました、とだけ言って立ち去った。
流石に骨になるまで乾ききるのは考えものだが、この土地の俺や部下の縁ある者はいない。
それなら新入りの姿を優先して維持してやるべきであろう。
しかし、便利な薬を作ったものだ。素直に感心している。
なんという名前だったか。あの宮廷魔術師。
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夜になって、雇い主が来た。
「ヴォルフさん」
「なんだ」
「みなさん、大丈夫ですか」
「大丈夫だ」
「歩くのは、疲れませんか」
「疲れん」
「そうでした」
雇い主は少し笑って、それから列のほうを見た。
「みんな、静かですね」
「静かだ」
「いい人たちですね」
「かわいいやつらだ。皆、あんたを慕ってる」
「私も、皆さんが大好きです」
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朝になって、俺は古参連中のところへ行った。
順が決まった、と言った。うちは後だ、とも言った。
誰も何も言わん。
昔は言った。順が後だと聞けば、必ず誰か文句を言った。
飯でも、宿でも、金でもだ。言わせておけば、それで済んだ。
いまは、誰も言わん。
満たされているからだろう。




