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白王と黒王  作者: ブルースライム
第3章:レーヌ小国群

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165/173

第165話(幕間):行ってねぇっす

 南から書付が上がった。


 商業都市連邦を回ってきたものである。西の報せは、みなあの道を通る。


 アイゼンヴァルトに港はないので、他に通しようがない。


     *


「読め」


 メルダースが開いた。


「レーヌ小国群、セフォー王国。ヴィタリス王の来訪あり」


     *


 私は筆を置いた。


「もう一度」


「ヴィタリス王の来訪あり」


 封じてある国だ。出てきた者は焼く決まりで、そう決めたのは私だ。


 その王が、国を出た。


 しかも、焼く決まりのほうを通らずに出た、という皮肉な話だ。


     *


 黒王と書かれた文が来たことがある。境を越えたるものと思われ候、とあった。


 誰が呼び始めたのかは、いまも分からぬ。


 あれは境の話だった。


 これは、遠い国の館に上がったという話である。


     *


「続けよ」


「ドラント王国およびガーレン王国、セフォーに圧迫を加えており、開戦は近しと見ゆ」


「それだけか」


「それだけにございます」


「日付は」


「入っておりません。連邦の写しが二度入っておりますので、早くて三十日、遅ければ五十日かと」


     *


 開戦は近し、と書いてある。


 いま何が起きているかは、この紙のどこにも書かれていない。


     *


「斥候を出す。南から回せ」


「どの程度でございましょう」


「戻らぬ者を勘定に入れて、なお足りる数だ」


「承知いたしました」


 メルダースは書きながら聞いていた。


 この者は、聞き終えてから書くということをしない。命じていない控を作る者である。命じたものは、それより早く上がる。


     *


「レーヌを見た者はいるか」


 メルダースが控をめくった。めくる前に答えの出ている顔をしていた。


「旗本のブリッツ殿が、三年前に傭兵として入っておられます」


「呼べ」


「二月と三月、呼び出しを出しておりません」


「だから呼べと言っている」


 卓に地図を広げさせた。


 三年前に写させた一枚である。西と南が海で切れていて、東の端だけが紙で終わっている。帝国は一枚に収まらぬので、そういう描き方になる。


     *


 ブリッツは四半刻で来た。


 大剣の腕前はアイゼンヴァルト、いや、大陸随一かもしれん。


 個でありながら戦局を変えるほどの戦闘力を持ち、戦場を無人の野のごとく駆ける。付いた異名は『迅雷』。


 走ってきたらしく、息が上がっている。


「お呼びで!」


「レーヌにいたな」


「三年前っす」


「城が七つあると聞いている」


「ありましたねー。王も七人。全員、隣を嫌ってましたよ」


「一つずつ言え」


「えっ、全部っすか」


「全部だ」


「じゃあ、内地のほうから。セフォー。弱いっす」


「弱い」


「はい。ただ一人、厄介なのがいました。領主なんですけど、やたら強くて。あれは当たりたくなかったっす」


「名は」


「聞いてないっす。旗しか見てないんで」


 この男は、名を覚えずに三年前の西を渡ってきた。旗の形と、雇い主が渋るかどうかで土地を分ける。


「ドラント。武の国っすね。兵の練度がピカイチで。あそことやり合うのは、正直しんどかったです」


「ガーレン。嫌なやつらでした。安く雇っといて、あとから値切ってくるんすよ。二度と行かねぇって言いました」


 書付に名のある二国と、同じ二つだった。


 三年前から、同じ相手が同じ国を削っている。それだけの土地に、ヴィタリスの王が上がった。


「ヌオモ。いちばん西の端です。でかい港を幾つも持ってて、活気がありましたねー」


「ロルオー。同じく海っぺりで。海賊を国が雇ってて、ヌオモとやり合ってました」


「ダウス。南寄りで、連邦との商いが盛んっす。内地の国はダウスに頭が上がらない感じでしたね。関税だの通行料だので」


     *


 海の側に二つ、南に一つ、内地に三つ。


 どれも遠い。遠いということは、こちらの兵が行けぬということである。斥候であれば行ける。


 メルダースが、紙に国の名を縦に書いていた。ブリッツが喋る端から、下に足していく。


 三年前に写させた紙の横で、三年前を見てきた男が喋っている。


「ウーケン」


     *


「行ってねぇっす」


     *


「なぜだ」


「山の中で、遠いんすよ。道も険しくて。あと寒い」


 ブリッツは頭を掻いた。


「あそこは他所と付き合いがないんで、戦がないんです。戦がないと、俺らは呼ばれないんで」


     *


「三年前っすからね。いまはどうだか、俺も知らないっす」


 ブリッツはそう言って、地図を覗き込んだ。しばらく見てから、指を海のほうへ滑らせて、そこで止めた。


「このへんに、もう一つ島があった気がするんすけど」


「無い」


「無いっすか」


「その紙にはな」


     *


「下がってよい」


「へい!」


 ブリッツは出ていった。来たときと同じ速さだった。


     *


 紙には、名が七つ並んでいる。


 字が続かぬものが、一つある。


「書き足すな」


「は」


「行った者がおらぬ、と書け」


     *


 メルダースは、そう書いた。

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