第161話:心外です
エリアス陛下と一緒に歩いております。
馬は連れておりますが、どなたも乗っておりません。陛下が歩かれるからです。
こうして歩くのも良いものですね。
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一つ目の報せは、二日目の昼に来ました。
「ガーレン、ソル領内にて完全に崩れました!」
それだけでした。走ってきた者が、それしか持たされていなかったのです。
二つ目は、その日の夕方に来ました。今度は数がついておりました。
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ガーレン王国軍、動員九百。
戦死およそ四百五十。捕虜およそ百。残る三百五十は南へ退いた。
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「こちらは」
「ゴンサロ将軍の手の者が十数名、犠牲になりました」
「ほかには」
「おりません」
「ソルの領民は」
「一人も」
「畑は」
「踏まれておりません。建物も、そのままとのことです」
ヴォルフ殿の手勢が前に出て、当たったそうです。
あの方の兵は、崩れず、逃げず、疲れません。倒れても、また立ちます。
それでも、十数名が死にました。
ドラントには向けない、と私は申し上げました。
戦いであれば、死は避けられません。
しかし今は、留めることができます。
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「ファティマさん」
陛下が仰いました。
「みんな、無事でしたか」
「ソルの人は、一人も欠けておりません」
「よかったです」
「しかし、ゴンサロ将軍の軍に犠牲が出たようです」
「急いで助けに行きましょう」
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三日目の昼に、ソルが見えました。旗は、まだガーレンのままです。
畑に人がおりました。麦を見に出ているのだと思います。
門を入りました。建物は、どこも欠けておりません。焼けた跡もありません。
昨日まで戦があった場所には、見えませんでした。
死んだ者は、東の畑の外に並べてありました。
ガーレンの兵です。四百五十。
そのそばに、別に並べてあるのが十数人。こちらは、こちらの者です。
ゴンサロ将軍が、そちらに立っておられました。
私が来たのを見て、頭を下げられました。
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エリアス陛下が、並んでいるほうへ歩いていかれました。
誰も止めません。
しばらくして、皆が起き上がりました。
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声は、上がりませんでした。
起きた者は、立ったところから動きません。互いを見ることもしません。
陛下がそばにおられるときは、いつもそうです。
ソルの者が、遠くから見ておりました。
畑にいた人たちが、鍬を持ったまま止まっております。
誰も、近づいてきませんでした。
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ゴンサロ将軍の手の者は、そのまま将軍の下へ戻されます。
ヴォルフ殿が来られました。
「ガーレンの兵はどうする」
「ヴォルフ殿の下に付けてください。まとめて」
「四百五十だぞ」
「はい」
「うちのが三百だ。合わせて七百五十になる」
「はい」
ヴォルフ殿は、それ以上仰いませんでした。
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館へ上がりました。
広間に、前の当主と、その長女が座らされておりました。縄は、もう解いてあります。
セヴィリーナさんは、離れたところに立っておられました。
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「ファティマ殿下……この度は、誠に……」
「ソル家について申し上げます」
当主ポシドニオ殿が、こちらを見上げられました。
「お咎めはありません」
「……なんと仰いましたか」
「当主はそのままです。館も、蔵も、畑も、取り上げません」
「……」
「ソルが立っていれば、それで足ります」
ポシドニオ殿は、しばらく黙っておられました。
「……あれは、どうなりますか」
あれ、ですか。
「セヴィリーナさんにも、お咎めはありません」
「館を売った女ですぞ!」
「ソルは売られておりません。旗が戻っただけです」
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副官が、私のそばへ来ました。
「常であれば、御息女のファヴィア嬢を王都でお預かりするところかと存じますが」
「人質は不要です」
「しかし、当主がまた旗を替えぬとも限りません」
「替えたら、また戻します」
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「ガーレンの方々は、どうなりましたか……」
姉君のファヴィアさんが、か細い声でお尋ねになりました。
「動員九百。戦死およそ四百五十。捕虜およそ百。残る三百五十は南へ退きました」
「クレーベル様の安否はお分かりになりますか」
「名は、控えておりません」
「え」
「数だけです」
お二人は力なく、それぞれの部屋へと戻っていきました。
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日が傾いてから、門に人が来ました。ドゥエからの使いです。
ガーレンは崩れましたので、旗を戻すか否か。
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「ドゥエは、門を開けぬ」
その方は、そう仰ってから、続けられました。
「すべては大地より生まれ、大地に帰る。ソルでは、死んだ者が大地に帰らなかったと聞く」
「ソルの者は、一人も死んでおりませんよ」
「そういう話ではない!」
「お考えは変わらないのですね」
「ドゥエは二度旗は変えぬ。そして邪な黒きものと共に歩まぬ」
その方は、それだけ仰って、帰られました。
邪、黒。
心外です。
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ヴォルフ殿を呼びました。
「ドゥエへ参ります」
「いつだ」
「明後日に」
「陛下は」
「ドゥエでも戦があることをお伝えしたところ、ご同行くださるとのことでした」
「あんたのことは信用している。だが、気を遣うことを忘れないでやってくれ」
「勿論です。私のすべては陛下の、我が神のためだけにございますので」
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天幕に入って、名簿を出しました。
ヴォルフ隊、七百五十。
私は、書き足しました。
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手が、止まりませんでした。




