第159話:好きに恨めばいい
ソルの門は荷を通した。
あらかじめ三台を押さえてから、僕たちは運び手に化ける。
木札は本物。運んでいる顔だけが違う。倉役人のマルセロは札しか見ない。
予想通りだった。
*
難しいのは、館の門のほうだ。
僕一人なら通る。当日だろうが一か月ぶりだろうが通る。誰も僕の行き先に興味がないからね。
でも今日は、後ろに四人いるから、難しい。
*
「お嬢様」
門番のドミンゴが立ち上がった。
座っていた人が立つ。それだけで、警戒したことが分かる。
「そちらの方々は」
「荷の人夫。父上の棚を運ぶんだ。先に置き場所を見てもらおうと思ってね」
みんな体格はいいけど服は作業用のもの。当然武器なんて持ってない。
小振りの刃物を隠し収めた工具箱と袋だけ。
「棚、でございますか」
「先月頼んだでしょ。聞いてない?無駄遣いだよって注意したのにさ」
「……いえ」
*
聞いてるわけがない。そんな注文はないんだから。
でも、この人は「そんな注文はございません」とは言えない。
言えば、当主の注文を門番が把握していないことになる。
*
僕は、四人を通した。
父は、昼を過ぎると書斎にいる。一人でいる。
姉はこの時間、自分の部屋で手紙を書いている。相手は決まってる。
他は使用人と女中ばかり。
臆病なくせに見栄っ張りだから、護衛をそばに置かないことも、知ってる。
だから、二部屋でよかった。
*
僕が扉を開けて、後ろから二人が入った。
父が顔を上げたと同時にディエゴが襲いかかった。
それだけで済んだ。剣を抜かせず、声も漏れていない。
姉のほうは少し手間取ったみたい。悲鳴を上げかけたのを、ライアンが止めた。口を塞ぐのではなく話で押さえた、と。
すごいね、僕にはできない。姉が美形に弱いのも功を奏したかもしれないな。
しばらくして、偽装した一人が走ってきた。
「ガーレン、済みました。四人とも」
「馬は」
「厩に。一頭も出ておりません」
「ありがと」
一つめの任務完了。
*
「セヴィ!」
父が言った。
「どういうつもりだ!その汚らしい連中は何者だ!お前は自分が何をしてるのか分かってるのか!」
「父さん。ちょっと落ち着いて」
「落ち着いていられるか!今すぐこの縄をほどけ!」
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「それは、できない」
*
思いのほか冷たい声がこぼれたので、父は押し黙った。姉はただ父と僕の顔を交互に見てる。
「時間も惜しいから手短に言うね。ソルは、セフォーに与するよ」
父の瞳が怒りで濁った。
「……裏切り者」
*
予想してた言葉だ。
それでも、少し息が浅くなった。自分でも意外だった。
「ソルの誇りを売り渡すのか」
姉を担保にガーレンへ売った。
「裏切りなど、貴族の誇りはどこへやった」
先にセフォーを裏切った。
「学問学問と言って、無駄な紙束ばかりを積み上げて、その結果がこれか」
その紙束が、ソルを残す。
「恥さらしめ!」
「うん」
「セヴィ……」
姉だった。
「クレーベル様に、私は何と言えばいいの……」
「言わなくていいと思うよ」
「私はこれからどうなるの……」
「ソルの長女だよ。今日と同じ」
「同じなわけがないでしょう!」
それは、そうかもしれないな。
*
「お二方とも、聞いていただきたい!」
ライアンが前に出た。
「セヴィは!」
「ライアン」
僕は止めた。
「でもセヴィ、これでは……」
「いいんだよ」
「気に入らねぇなぁ」
今度はディエゴだった。
「殺すか」
父の顔が変わった。姉が息を呑んだ。
「やめなって」
「冗談だ」
「冗談でも駄目だよ。この人たちは、冗談が分からない」
*
僕は、父と姉のほうを向いた。
わかってほしいとは思わない。
わかってくれるとも思っていない。
この二人が、僕の考えてることに気づくことはない。
自分が一番の人間に、そういうものが伝わるわけがない。
*
でも、家族なんだよね。
*
僕は、僕が助けたいから助ける。ただそれだけ。
好きに恨めばいいよ。




