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白王と黒王  作者: ブルースライム
第3章:レーヌ小国群

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第159話:好きに恨めばいい

 ソルの門は荷を通した。


 あらかじめ三台を押さえてから、僕たちは運び手に化ける。


 木札は本物。運んでいる顔だけが違う。倉役人のマルセロは札しか見ない。


 予想通りだった。


     *


 難しいのは、館の門のほうだ。


 僕一人なら通る。当日だろうが一か月ぶりだろうが通る。誰も僕の行き先に興味がないからね。


 でも今日は、後ろに四人いるから、難しい。


     *


「お嬢様」


 門番のドミンゴが立ち上がった。


 座っていた人が立つ。それだけで、警戒したことが分かる。


「そちらの方々は」


「荷の人夫。父上の棚を運ぶんだ。先に置き場所を見てもらおうと思ってね」


 みんな体格はいいけど服は作業用のもの。当然武器なんて持ってない。


 小振りの刃物を隠し収めた工具箱と袋だけ。


「棚、でございますか」


「先月頼んだでしょ。聞いてない?無駄遣いだよって注意したのにさ」


「……いえ」


     *


 聞いてるわけがない。そんな注文はないんだから。


 でも、この人は「そんな注文はございません」とは言えない。


 言えば、当主の注文を門番が把握していないことになる。


     *


 僕は、四人を通した。


 父は、昼を過ぎると書斎にいる。一人でいる。


 姉はこの時間、自分の部屋で手紙を書いている。相手は決まってる。


 他は使用人と女中ばかり。


 臆病なくせに見栄っ張りだから、護衛をそばに置かないことも、知ってる。


 だから、二部屋でよかった。


     *


 僕が扉を開けて、後ろから二人が入った。


 父が顔を上げたと同時にディエゴが襲いかかった。


 それだけで済んだ。剣を抜かせず、声も漏れていない。


 姉のほうは少し手間取ったみたい。悲鳴を上げかけたのを、ライアンが止めた。口を塞ぐのではなく話で押さえた、と。


 すごいね、僕にはできない。姉が美形に弱いのも功を奏したかもしれないな。


 しばらくして、偽装した一人が走ってきた。


「ガーレン、済みました。四人とも」


「馬は」


「厩に。一頭も出ておりません」


「ありがと」


 一つめの任務完了。


     *


「セヴィ!」


 父が言った。


「どういうつもりだ!その汚らしい連中は何者だ!お前は自分が何をしてるのか分かってるのか!」


「父さん。ちょっと落ち着いて」


「落ち着いていられるか!今すぐこの縄をほどけ!」


     *


「それは、できない」


     *


 思いのほか冷たい声がこぼれたので、父は押し黙った。姉はただ父と僕の顔を交互に見てる。


「時間も惜しいから手短に言うね。ソルは、セフォーに与するよ」


 父の瞳が怒りで濁った。


「……裏切り者」


     *


 予想してた言葉だ。


 それでも、少し息が浅くなった。自分でも意外だった。


「ソルの誇りを売り渡すのか」


 姉を担保にガーレンへ売った。


「裏切りなど、貴族の誇りはどこへやった」


 先にセフォーを裏切った。


「学問学問と言って、無駄な紙束ばかりを積み上げて、その結果がこれか」


 その紙束が、ソルを残す。


「恥さらしめ!」


「うん」


「セヴィ……」


 姉だった。


「クレーベル様に、私は何と言えばいいの……」


「言わなくていいと思うよ」


「私はこれからどうなるの……」


「ソルの長女だよ。今日と同じ」


「同じなわけがないでしょう!」


 それは、そうかもしれないな。


     *


「お二方とも、聞いていただきたい!」


 ライアンが前に出た。


「セヴィは!」


「ライアン」


 僕は止めた。


「でもセヴィ、これでは……」


「いいんだよ」


「気に入らねぇなぁ」


 今度はディエゴだった。


「殺すか」


 父の顔が変わった。姉が息を呑んだ。


「やめなって」


「冗談だ」


「冗談でも駄目だよ。この人たちは、冗談が分からない」


     *


 僕は、父と姉のほうを向いた。


 わかってほしいとは思わない。


 わかってくれるとも思っていない。


 この二人が、僕の考えてることに気づくことはない。


 自分が一番の人間に、そういうものが伝わるわけがない。


     *


 でも、家族なんだよね。


     *


 僕は、僕が助けたいから助ける。ただそれだけ。


 好きに恨めばいいよ。

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