第158話:真面目
夜になって、中庭に人が集められた。
数えると、十八人だった。足りない二人は、数えている私と、まだ来ていない誰かだ。
顔は一つも知らない。ロロアの者は、一人もいない。
私は、明日からの段取りを頭の中で並べ直していた。荷は三台。門は東。合図は。
*
「あんた、真面目だろ」
振り向くと、男が立っていた。
「名前を聞いても?」
「ディエゴだ。将軍のとこの」
「ロロア領主エイブラムの子、ライアン」
「知ってるよ。さっきから段取りを三回数えたな」
「四回だ」
「ほらな。真面目」
自制心の大切さを噛み締めながら聞いていた。
*
そこへ、セヴィが来た。鞄を提げている。中身は冊子だろう。
「あんたが、ちっちゃい眼鏡か」
「誰がちっちゃいって?」
「それになんだ?胸におやつのパンでもしこたま詰めてるのか?」
「失礼極まりないな、君」
ニヤニヤと笑みを浮かべるディエゴに、氷のように冷たい視線を送るセヴィ。
今すぐここを離れたい。
「ディエゴ殿」
「殿はいらないし、俺も付けない」
「しかし」
「ドラントの俺が、なんで他国の貴族に気を使わんにゃならねぇんだ」
*
「見たところ年も近いし尚更だ。殿なんて、体がむず痒くなる」
「そこだけは、僕も同感。セヴィ殿なんて呼んだら返事しないからね」
「いやいや、お前は貴族だろ」
「明後日には違うと思うよ」
セヴィはそれを、何でもない顔で言った。
*
「折角顔を合わせたんだ。明日の段取りを一度相談しておきたいのだけど、どうだろうか?」
私なりに歩み寄ってみた。
が、返ってきたのは気だるそうな返事だった。
「合わせたって、どうせ変わるぞ」
「変わるかもしれないけど、合わせておいて損はないと思うのだが」
「変わるんだよ。だから覚えるのは三つでいい。入る。押さえる。門を開ける」
「僕は四つあるよ」
「へぇ」
「話すのが一つ増えるからね」
*
そんなやりとりをしていると、もう一人、男がやってきた。
見たところ、『留まるもの』のようだ。
ディエゴが手を上げた。
「ヌーノ。お前は留守番だ」
「聞いた」
「腐るなよ」
「腐りようがない」
二人は笑っていた。
「それ面白いね。君たちセンスあるよ」
セヴィはそう言いながら何かを書き留めていた。
父上。
上手くやれる気が、まるでいたしません。
*
「あ、ディエゴさん」
エリアス陛下だった。
「おう、ちっちゃい陛下」
聞き間違いだったと思うことにする。
「明日から行かれるんですよね」
「行くぞ」
「私は、あとから行きますね」
セヴィが割って入る。
「王様、さっきはどうも」
「はい、エリアスです。よろしくお願いします」
「セヴィだよ」
「セヴィさん。その、目のに付けているのは何ですか」
エリアス陛下がセヴィの眼鏡を指された。
「見るためのもの。僕、目が悪いんだ」
「それを付けると、見えるようになるんですか?」
「ようやく人並みにね」
「よかったです」
「王様、ひとつ聞いていい」
「はい」
*
「何人くらい、起こしたの?」
*
「たくさんです」
「数えてないんだ」
「数えるのは、苦手で」
「そっか」
セヴィは、それきり何も聞かなかった。鞄を持ち直して、少し離れたところへ行った。
「では、私も行きますね。皆さん、気をつけてくださいね」
エリアス陛下は、一人ずつに頭を下げて行かれた。二十人ぶんである。
*
エリアス陛下が立ち去られてから、私は妙なことに気づいた。
ヌーノという男は、陛下がおられるあいだ、一言も喋らなかった。
さっきまで、あれだけ軽口を叩いていたのに。
緊張したのだろう。私もそうだった。
*
中庭の隅に、白い上着が立っていた。
ベルナール司祭様である。いつからおられたのかは分からない。
あの方は、セヴィのほうを見ておられた。
私が見ているあいだ、一度も目を逸らされなかった。
*
兵士の一人から何やら説明を受けていたディエゴが戻ってきた。
「おい真面目」
「その呼び方、まさかずっと使い続けるつもりじゃないよな?」
「固いこと言うな。そういえば、俺とちっちゃい眼鏡と一緒の編成らしいぞ」
足元に大きな穴が空いたように思えた。
「変更の余地はあるのだろうか」
「俺が知るかよ」




