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白王と黒王  作者: ブルースライム
第3章:レーヌ小国群

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156/173

第156話:勘定に入れてない

 卓の上に、冊子が一つ置いてあります。


 昨日、北の境で捕らえられた娘が持っていたものです。


「間者かと存じます」


 副官がそう申しました。


「そうでしょうか」


     *


 十八の娘が、一人で歩いてきて、こちらの欲しいものを全部持っておりました。


 でき過ぎております。


 ゴンサロ将軍が「次はガーレンかと存じます」と仰ってから、まだ三日です。


     *


 最初に読んだのは、道のりのところです。


 王都からロロアまで。ロロアからソルまで。歩いて幾日、馬で幾日。川の渡り、ぬかるむ月、荷車の通れる幅。


 私はこの道を歩いております。


 合っておりました。


 合っていること自体は、驚きません。道は誰でも歩けます。


 手が止まったのは、こういう書き方をしていたからです。


     *


 三月の第二週まではぬかるむ。荷車は一台ずつ。二台並べると轍が崩れる。


     *


 私は、書き役に写させました。


 次は、ソルの内側でした。


 これは確かめようがありません。ですが、読んでいて手が止まりました。


 壁の薄いところが書いてあります。動かせる男の実数も。蔵の場所も。


 事実であるならば、これは記すべきではない内容です。


 三つ目が、ガーレンでした。


 どこに、幾人。荷がどう流れ、いつ動くか。


 いずれも推察に基づくものですが、すべての数値に『なぜならば』が添えられていました。


 私が兵を出しても取ろうとしたものが、そこにあったのです。


     *


 そして、冊子の半分ほどは、軍に一つも要らないものでした。


 年ごとの雪解けの日付。丘に生える草の名。轍の深さ。門番の子の数。


 同じ手で、同じ冊に、何年ぶんも並んでおります。


 偽物なら、ここは削ります。


 削っていないのは、はじめから軍のために書いていないからです。


     *


 確かめられるところは、全部合っておりました。


 ですから、確かめられないところも、信じるほかありません。


     *


 そこが、いちばん怖いところです。


     *


 午後に、会いに参りました。


「セヴィリーナ・ソルさん。数年前に一度お会いしておりますね」


「確か七年と八十五日前かな」


 返答に一切の間がありませんでした。


「あとセヴィでいいよ。長いから」


 副官が息を吸いました。私は何も申しませんでした。


     *


「一つ、伺います」


「幾つでもどうぞ」


「三月の第二週まではぬかるむ、と書いておられました」


「書いたよ」


「なぜ、第二週なのですか」


「六年ぶん見たからだよ。早い年もあるけど、遅い年のほうを書いておかないと荷車が落ちる」


 私は、それで済みました。


「なぜ、ご自分でいらしたのですか」


「紙だけ送っても、途中で失われたり握り潰されたりしたら終わりでしょ」


「そうですね」


「でも、人なら握りつぶせない。それに」


「それに?」


「捕まれば調べられる。調べられれば送られる。送られれば」


     *


「会える」


     *


「危ないとは、思われませんでしたか」


「思ったよ。でも勝率が六割を超えてたからね」


 この方は、それを笑わずに仰いました。


「では、もう一つ伺います」


「うん」


「何を、お望みですか」


     *


「ソルを残してほしい。それだけ」


     *


「それは、安くない商品ですね」


「うん」


「ご自身のことは」


     *


「僕は勘定に入れてないよ。入れると、値が上がるでしょ」

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