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白王と黒王  作者: ブルースライム
第3章:レーヌ小国群

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155/173

第155話:十分な数値

*セヴィリーナのイメージイラストを後書きに追加しました。

 広間で騒ぎが始まったので、僕は窓際の椅子へ移った。


 明るいところでないと、字が読めない。


 使いが持ってきたのは二枚だった。


 ドラント王国軍、北の街道にて壊滅。八百のうち七割が戻らず、残りは捕虜。


 ガーレン王国軍、交戦せず退却。


「ドラントが、だと」


 父が二枚目を落とされた。姉が拾って、読んで、また落とした。


 僕は帳面を開いた。


     *


 三月のはじめ、セフォーは約四百で出て、帰ってきたのは半数以下だ。


 あれから半月と経っていない。


 その同じ軍が、八百を潰した。


     *


 数が合わないよね。


     *


 人は増えない。傷は治らない。負けた軍は、負けた分だけ弱くなる。それが道理。


 道理に合わないものを見たときは、まず自分の写し間違いを疑う。


 三度読み直したけど、写し間違いじゃない。


 僕は数字の横に印をつけた。


 分からないものは、そこへ置いておく。いずれ分かる。分からないままなら、それはそれで一つの答えだ。


     *


「よいか。ファヴィア、セヴィ」


 父が言った。無駄に声が大きい。


「わしは、こうなることを見越してガーレンに付いたのだ!」


 半年前に父が繰り返してたのは「ガーレンは太い」の一言だ。帳面に書いてある。日付も書いてある。


「セフォーが盛り返したなら、ガーレンはますますこちらを手放せぬ。分かるか。これは好機だ」


「さすがお父様」


 姉が言った。


「私がいれば大丈夫よ。クレーベル様がなんとかしてくださるわ」


 クレーベルはガーレン王家に近い貴族の三男。残念だけど領地は持ってない。


     *


「セヴィ」


「はい」


「お前も少しは役に立つことを考えろ。本ばかり読みおって」


「はい」


 僕は帳面に戻った。


     *


 ソルを通る荷が、先月から変わっている。


 麦が減った。鉄と塩が増えた。


 鉄は武具になる。塩は日保ちのする糧食になる。


 そして、通り抜けていかない。ソルで止まっている。


     *


 止まっている量から、養える人数が出る。


 八百から九百。ただしこれは蔵の大きさから出した上限で、実際にその数が来るかどうかは別の話だ。


 いずれにせよ、ガーレンはソルに兵を入れるつもりでいる。


 入れてどこへ向けるかは、考えるまでもない。


     *


 ソルは使われる。


 ソルがセフォーを攻めれば、負ける。


 負けたあと、旗を替えた館がどうなるかは、決まっている。


 じゃあ、どうする。


 簡単だよ。


     *


 値が付くうちに、高く売る。


     *


 持っているもののうち、いちばん高く売れるものを、いちばん高く買う相手に。


 買ってもらうのは、ソルが残ること。


 ついでに言えば、僕は無駄な血が嫌いだ。


 流さずに済む血を流すのは費用対効果が悪いし、気分も良くない。


     *


 帳面を鞄に入れた。


 ソルのことを書いた冊は、前から持っている。ガーレンのことを書いた冊は、この十日で作った。表紙は同じにしてある。


 眼鏡を拭いて、部屋を出た。


 広間を出るとき、誰にも呼び止められなかった。


     *


 畑仕事をしている人が手を振ってきたので、僕も手を振り返した。


 僕が歩いて何か書いているのは、この領では天気の話と同じくらいありふれている。


 北の門で、兵士に止められた。


「お嬢様。今日はどちらまで」


「北の丘だよ。雪解けの水が引いたか、見てくるんだ」


「……あまり無茶はしないでくださいよ。お嬢様のことは皆よく知っておりますが、その度に旦那様のご機嫌が悪くなるので」


「善処するよ」


 この兵士には子供が三人いる。帳面に書いてある。


 減らしたくないな。


     *


 長い距離をひたすらに歩いた。


 杭の見えるあたりに、人影が見える。


 数は分かる。四つか、五つ。誰かは分からない。


 眼鏡を掛けていても、そこまでは見えない。


 だって、掛けてようやく人並みに見えるんだから。


     *


 二つに一つ。


 セフォー兵なら僕の勝ち。それ以外なら僕の負け。


 場所と傾向を考えれば、勝率は六割強。


     *


「勝負するには十分な数値だね」

セヴィリーナ

挿絵(By みてみん)

セヴィリーナ(眼鏡なし)

挿絵(By みてみん)

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